・庵野監督と有名映画監督岩井俊二監督の対談本。1998年6月15日発行。
・岩井監督の発言は(岩井監督)と表示。それ以外は全て庵野監督の発言。
・ものを作らせてくれるのは締め切りだけ。締め切りがなかったら、なにもできない。 【15】
・ファーストシーンは思いついても、ラストシーンは最後の最後で出てくる。その方が面白いような気がする。どこにいくか分からない。まあそういうのは制作には嫌われてるんですけど。
・台本も、ラストのあたりは最初には書かない。【18】
・一つの作品を作るたびにアイディアのストックをみんなおろしちゃう。冷蔵庫の中のもの全部洗いざらい無くなる感じ。【19】
・以前は自社企画にこだわっていた。原作付きはイヤだなと。だからエヴァまでに4年も間が空いてしまった。4年溜めこまないとあそこまでできなかった。【20】
・四月物語の主人公(卯月)は田舎者に見えない。華があって役者としては良いんだけどあの企画としてはどうかなと思った。【22】
・『スワロウテイル』のトイレで蝶を追うシーン、あれにはやられました。グーでしたね。【23】
・『Love Letter』で中山美穂が向こうからチャリでやってくるシーンにも「ああやられた」と思った。(すれ違いのところ)【23】
・↑のカットは樋口さんから「すごい1カットがあるんですよ」と聞いていた。【23】
・『スワロウテイル』では↑のトイレの回想シーンが一番好き。(それまでは「まぁ普通かなぁ…」と思って見てた)。タトゥー入れてるところも好き。「なんかこうこの子、胸見せろよ、ちゃんと出せよ、って思ってたらちゃんと出した。オーケー!勢いや良し!と(笑)」【24】
・↑のトイレの回想シーンではあそこでぼろぼろ泣いてしまった。スワロウテイルには技術的な部分、ストーリー的な部分、ここがこう失敗してるとかいくらでも書けるんだけどそういう細かいのは全部あれ(蝶のシーン)でオーケー!スワロウテイルは良かったですよ。【24】
・エヴァは全体の構成案は最初は半分もなかった。後半はほとんどラフ。人類補完計画もキーワードでしかなかった。最初はもっとロボットものだったのだが途中からああなってきた。やりながら「何を補完していくか」って考えてた。まず最初に言葉のカッコよさがあって使ってたんで、中身は明確には決めていなかった。どこに行くのか決めてるとつまらないから。だからあんなにまで人さまが気にすると思いませんでした。【25】
・岩井さん「エヴァってナディアと繋がる話なんだと思ったんですけどそういう構造はなかったんですか?」
庵野さん「遊び的にはありましたけど。要するに、僕の中では延長なんです。いちばん最初に書いたエヴァの構成案の中には日本海に沈んでいる遺跡付近での水中戦というのがあったんです。ナディアの最終回で沈めたノーチラス型の宇宙船。あれをサルベージに行く話を書いたんです。エヴァで水中ものを1本ぐらいやっておこうと思って。あれに似たアイディアはマグマダイバーに持って行っちゃったんで、まあいいかってことになった。【26】
・最初に全体的に用意しておいたアイディアを前詰め前押しでどんどん使っちゃったんで、相当あとあと厳しくなっていった。【26】
・最初に引いた路線がやっぱり厳しかったんですよ。いわゆるテレビアニメ的なごまかしはやめよう。最初は、毎回めでたしめでたし路線で行こうと思っていた。僕はそれにこだわったんだが、周りのスタッフが「そんなの嫌だ。そんなのだったらやる気がない」って。「それじゃ、ハード路線まっしぐらにすっか」と言ったら、「はあ、分かりました」でガシャンって(笑)【27】
・その後はただ地獄です。自分の中で嘘がつけなくなって。そもそも最初に嘘があるんですよ。少年がロボットに乗るっていうのは嘘なんですね。その大嘘をスタートして、それを詭弁でなんかこう理由づけていくのに一苦労ですよ。だから途中で一回乗らなくなるし、さらにもう一回乗らなくなるし、そのたびに詭弁を弄するようにしてたんですけどね。あれはもう限界ですよ。【28】
・(ナディアと点と線で全部繋がって来るのでドキッとしたという岩井監督の発言を受けて)同じ人間がやってるから同じになっちゃう。ナディアのマリーとエヴァのアスカは同じ髪の色。そういう分かる人にしか本当に分からない繋がりだけなんだけど。もうちょっと余裕があれば、あっちの世界のアダムとこっちの世界のアダムを繋げようと思ったんだけど、余裕なかったです。あんまり突っ込むと、ナディアはNHKで局が違うので、キビシイかなと。うちはナディアの権利持ってないんで。ひ孫請けでしたからね。【28】
・(ナディアとのリンクは)精神的なリンクなんですよ。ストレートに物理的なリンクは出してないです。【29】
・でも心の中では繋がっている。同じ人間ですからしょうがないです。一番最初に出した企画書ではストレートに繋がってた。それはまだ当時ナディアは人気があったから「それの続編っぽくしておけば・・・」という。ストレートに続編にはしないけど、そういうのでちょっとは企画も通りやすいだろう、という。まあそういう商売っ気みたいなもんです。【29】
・(「エヴァはテレ東の6時半にあれが流れてたってのがすげぇ」という岩井さんの発言に対して)そう、水曜の6時半にあれやってたっていうのがイイんです。ナディアもあれをNHKでやってたっていうのが。(イイ)【29】
・ナディアのエレクトロさんの弟の腕が落ちたシーンとかは「もうイケイケゴーゴー」。あれはNHKだからこそやらなきゃってやってました。切り口を見せなきゃいいんですねって。じゃ絶対に切り口は見せませんからって。【30】
・NHKは表現というよりは言葉にうるさかった。「過去にクレームが来たセリフ集」というのがありそれがダメだった。あと屠殺もダメだった。【31】
・ナディアが肉を食わない理由の一つとして屠殺をやろうとした。「ナディアが動物と話が出来る」っていう設定はNHKのほうにあった。「動物と話ができるのに肉を食うっていうのは俺は許せん」っていうのがありまして。だから肉を食わない人種にしましょうと。どういう動物とも話が出来るんじゃあ、何も食えませんよ。牛と豚とだけは話が出来ないっていうわけには(笑)【31】
・じゃあナディアがどうして話ができるようになったかというきっかけ話を考えた時に、屠殺にしようって思った。うちの田舎では朝方に屠殺をやってて、その鳴き声がたまに聴けたのだがそれがすごい悲しそうだった。NHKから屠殺だけはいやめてくれと言われた。【32】
・これはもうあちこちで言ってるけど僕らの世代はイベントが何もなかった世代だった。つまり「依り代」になるものがない世代。戦前の人には天皇が、戦中の人には戦争が、戦後の人には復興や高度経済成長や学生運動があるけど、僕らには何もない。あるのは魔法の箱みたいなテレビだけだった。【42】
・とんねるずが結局、昔の番組のパロディ以外何もできないのはそういうことなんですよね。僕らが作ってるものもそうです。そういう、前の人たちがやっていたことを自分たちなりにやっていくモデリング等は誰でもやってると思うんです。【42】
・最近の日本は平和。日本では今死体が隠蔽されてるから、死というものがリアリティを持たないんです。僕らが子供の頃は町中に犬猫の死体がけっこうあった。川の藻に犬の死体が引っかかってたり、路上にひかれた犬猫ってけっこう長い間放置されて腐乱死体になってたのに、最近そういうのも全然見なくなった。とくに都会にいるともうダメ。血も死体も見慣れてないから、そういうのにいちいち過敏に反応すると思うんだけどそれは平和な証拠。【45】
・岩井さん、アニメーションは楽ですよ(笑)あんな甘い業界なかなかないですよ。俺みたいないい加減な人間が生きていくのはここだなぁと。一気に世間ナメますよ(笑)【48】
・(↑について)まともな人間は、あそこにはいないですよ。逆にまともな人間はアニメーションの世界にいられない。社会的な人間は皆無で子供ばかりの業界なんですよ【48】
・「アニメはアニメ。実写は実写」というのは根強くあると思う。「アニメなのによくできてる」とか「アニメのくせに」「アニメにしては」とか。あと、アニメーションは子供向けのものっていう決めつけがけっこうある。でも、そういう固定観念は逆手にとって、利用した方がいい。【49】
・そういう点ではAVも差別されている。次はAVもやろうと思ってる。なかなか切り口が見つからなくて暗中模索なのだが、AVはけっこう日本では進んだ映像だと思う。ドキュメント映像という点において。テレビよりはるかに進んでる。僕も遅まきながらようやく知った。【50】
・最近ようやく他のジャンルの表現も見に行く余裕が出来てきていろいろ見てるのだが演劇も面白い。もっと早くに見とけばよかった。でも日本映画だけはもう客を失いつつあるからそのうち伝統芸能になると思う(笑)【50】
・日本の特撮はすでにキビシイ状況。米国でデジタルで撮った洋モノゴジラがきたあと果たして日本で着ぐるみをしじしてくれる一般客がいるんだろうか、と思いません?【50】
・人が入っているのが丸わかりの着ぐるみというのは、お客さんのイメージに頼るしかないもの。今はもう子供やオタク以外そんなめんどうな作業はしてくれない。そういうシビアな状況において着ぐるみの特撮ってまだ有効なのかと。確かにそこに良さはあるし、それを見てくれる人はいると思うが果たして生き残れるかと。まあアニメもそうだが【50】
・昔マンガを描いたことはあるのだが才能ないので早々に諦めました【51】
・綾波のマンションのイメージは「70年代の地方都市のマンション」この辺だと多摩団地。大阪だと万博の頃の千里ニュータウン。今はあまりないと思うけど僕らの子供の頃、廃鉱になった炭鉱の周りってあんな感じだった。【55】
・団地は小さなコロニーですよ。僕も一時期高校の時団地だった。3年ぐらい。【55】
・一回3軒先が火事になったのだが妹と僕はそのまま寝ていた。ひどかったらあのまま死んでましたね。【55】
・(四月物語の団地の人たちの反応は現実だとあんなもんじゃないという庵野さん)田舎は一目だけですから。常に他人に監視されているのが田舎。東京に来て一番うれしいのは、誰も俺のことを知らないってことが大きい【58】
・大事なのは「何を見せたいか」ハズせないシーンってありますね。「それハズしたら作品全体がおしまいになってしまう」というシーンはどこなのか。映画を作る人はそういうのが見えないといけない。お客さんが見た時に「ああもう駄目だ」という醒めてしまう瞬間があるとしたらそういうことを考えていないシーンだと思う。予算は貧乏くさくても、一点豪華で「ここだけはなんか良かったなぁ」ということがあればいいと思うんですよ【67】
・(低予算ですごいものを作るという気概の話について)それは僕にもある。「これセル5000枚くらい使った?」「いや3500です」って言ってエーッって言われるのがちょっとうれしい【71】
・映画というのは嗜好品。コーヒー飲むのと同じですよ。なくても生きていけるわけですからね。(これは庵野さんたびたびよく言っている)【72】
・ラブアンドポップはEDだけ35ミリフィルムで撮った。台本に「フィルr無のありがたみを感じる客」って書いた(笑)(ラブアンドポップはデジカメで撮ってるため)【74】
・よく話題に出す「アニメの監督をするというのは船の船長をするのと同じ」という話がここでも出てくる【76】
・ダメージ・コントロールってえ日本が一番遅れてるところだと思いますよ。日本人には精神論がもとにあるから、最初に負けるイメージを持たないんですよ。負けた時にどうするかという発想がない【78】
・岩井さん「僕も庵野さんも日本映画界だけにいれば一生安泰ですよ」
庵野さん「1~2回コケても「先生この次こそお願いします」の世界ですからね。岩井さんの場合は『スワロウテイル2』を出せばいいしミヤさんには『もののけ姫2』もある(笑)僕も『エヴァンゲリオン2』で。ま、これは最後のキメ玉なんで、とりあえずとっておきますけど(笑)【79】
・アニメの学校だけは行かない方がいいかな(笑)それより自主製作やってる方がいいですよね【86】
・僕らはモノクロ・テレビを知ってる世代だから、モノクロのありがたみとカラーのありがたみ、両方身に染みて分かってると思うんですよ。あと8ミリ。【90】
・8ミリカメラを手にして最初にやったのがコマ抜きみたいなトリック撮影。ずっと上に飛び跳ねてるところだけカシャカシャ撮って繋いで(笑)そういうのからスタートしたんだけどそれなりに面白く見える。バタバタしながらもなんかこう動いて見えるっていうだけでうれしかった。そういう原体験って今でも残ってますね。そのおかげでまだやっていられる。【92】
・アニメ派最近袋小路に入っちゃった。たった30年で。伸びるのも早いけど潰れるのも早い。【93】
・最近の若い子たちに希望を見てる。今の中学生とか見てると何かやると思いますよね。今の女子高生なんてすごく洗練されてていいですよ。「15歳でこんなに頭良いんだこの子たち」と思ってしまう。たしかにあれだけの情報量の中でサバイバルやってりゃそうなるでしょうが。【95】
・アニメは制作費が低すぎる。でもアニメーションがなんとかもっているのはその製作費の低さのおかげ。ローリスク・ローリターン。【98】
・自社配給がちょっとずつ増えていっても良いと思う。(オフィス来たのは『HANABI』を配給通していないはずだという話題)(新劇場版にも通ずる話題)【99】
・今映画という文化が残ってるのはもう都市部だけ。映画館に行くとイベント館があるから。『ラブ&ポップ』も単館系にしてくれと言った。あれは田舎じゃ当たらないですよ。だから渋谷という場所で限定上映してくれと言った。渋谷見たことない人が『ラブ&ポップ』を見てもピンと来ない、リアリティ持てないと思う。だからあれは都市部向け映画なんです。【100】
・田舎は映画館行かなくても面白いものがいっぱいあるけど東京にいると映画・ゲーセン・カラオケぐらい。(これは庵野さん他の本でも時々言ってる)だから田舎じゃ映画館がどんどん減ってる【101】
・スポーツと音楽は万国共通だと思うけど、映像は国境を超えないと思う。言葉もそうだけど文化は国境を超えない。逆に、超えない文化だから注目されてる。「日本の映画ってこうなんだ」っていうところでよそさまは評価してくれてるんだと思う。だからアジアやアメリカやヨーロッパでウケるような媚びたもの作ったら逆に嫌われる。日本人は日本の文化しか作れないです。僕はアメリカに媚びる必要は何もないと思います。(確かシン・仮面ライダーの舞台挨拶でも似たようなことを言っていた)【102】
・今、日本のアニメーションがちやほやされて「ジャパニメーション」とか言われてるけどアニメがアメリカでウケてるなんていうのは幻想ですからね。実際にアメリカ行ったって日本のアニメはほとんどないですよ。ロサンゼルスの小さいお店に日本のアニメが飾ってあるだけで、ジャパニメーションなんてどこにもないですよ。ジェームズ・キャメロンとか日本に対して声の大きい人が兄絵mを見てるからアメリカではみんな見てると日本で勘違いしているだけじゃないのかと思う。【102】
・日本ほど総理大臣にこだわらない国ってないんじゃないですか。(シン・ゴジラでも描かれていた話)【104】
・エヴァはバブルだった。あれがヒットして、いつまでも人気が続くと思ってる人たちがいたのが信じられない。そういう人たちに「この人気、夏が限度ですよ。せいぜいもって年末くらいまでですよ」って言ってたんですけど。「いや、そんなこと言ってもらっては困る」って言われて(笑)。でも、いつまでも続くわけないですよ。いつまでもズルズル続いて、いつの間にかフェイド・アウトよりはスパッと自分たちでやめようと。だから、夏のタイトルが「THE END」なんですよ。これで終わりです。皆さんの中で終わってください。なんか、思い出として残していつまでも引きずらないでください。僕も割りましたと。あれは終局というか終わりの宣言なんです。【106】
・僕らは『ガンダム』や『ヤマト』のみっともなさを見てますからね。あんなみっともない真似は、自分たちはやめようと。再編集のリバイバル(『REVIVAL OF EVANGELION』のこと)は、最後のファン・サービスなんですよ。本来の形を最後に見せて、「いや、申し訳ない」と。自分たちで終わらせるっていう、幕引きっていうのが重要だと思うんですけどね。【106】
・日本人がなかなか「終わる」っていう感覚をもてないのは、戦後の復興があるからだと思う。たった50年でこれだけの力があるっていうのを見せつけられると「あれ、まだいけるかもしれない」って思いますよ。バブルがはじけて「もうダメだ」って言われて、まだイケてますからね。【107】
・「監督っていらないんですよ、本当は」「監督いなくても映画はできちゃいますからね」(これは庵野さんたびたび言っている)【120】
・各自が責任をとらないシステムを作るために監督がいるんですよね。つまり「責任とり係」ですよ。本来は現場にいなくてもいい。アニメとかけっこういますよ、名前だけの監督って。【120】
・制作の立場からいうと、監督が仕事しない方がスムーズでいいんですよ。監督が仕事するってことは、つまり「流れをせき止める」っていうことですから。【121】
・監督っていうと「作家」みたいなクリエイティブな感じやテクニックのイメージがあるが、僕は両方とも嫌いですね。ようやく「監督」と呼ばれるのに慣れて来たけど嫌だなぁと。他の人は名前で呼ばれるのに、なんで監督だけ「監督」って呼ばれるのか(笑)
・実写はある程度波に乗っちゃったら、監督はすることがない。むしろ現場に任せてる方がスムーズに流れていい。北野武さんが途中からキャッチボールを初めて「監督、今のカットは?」と聞かれたら「あ、いいの?オッケーオッケー」という話が合って、あれは分かる。僕も途中からそれだった。「手放していい瞬間」みたいなのがあって、あとはもう現場の人に任せる。【124】
・庵野さん「その代わり編集だけは手放さない」
岩井さん「編集は面白いですよね」
庵野さん「いちばんおもしろいところですよね」【125】
・映画がもし変わるとしたら、編集だと思う。極論を言えば一人で撮って一人で編集するのが理想。人に切ってもらうよりはとことん納得いくまで自分で切った方が気が楽だから。【126】
・映像って、一方的なメディアだから良いと思うんですよね。全部押し付けられるから。極端に言えばプロパガンダだけど、一方向メディアとしてはいちばん進んでいる部分だと思う。時間も空間もお供支配できるわけだから。漫画や絵画、小説や音楽も何かが足りないし、演劇も客によって場が変化してしまう。だけど映像だけは、とりあえず全部支配できる。あと残るのは触覚と嗅覚だけで。【129】
・ゲームみたいなインタラクティブは僕にはちょっとユルく感じられる。やっぱり一方的に押し付ける方がいい。ゲームみたいに客のことを考えなきゃいけないっていうのは、キビシイですね。お客さんの快楽はたぶんゲームの方が映像よりデカいと思うんですよ。でも映画は「見てる人と自分たちとの真剣勝負」みたいなところがある。そこで客に媚びるのはどうかなと。そういう体質にはなれないんで、ゲームができない。自分がゲーム文化で育ってないって言うのがあるかもしれないけど、性格的にもそこまでお客の反応を考えないですから。【130】
・いま人気のあるテレビのバラエティも放送作家の書いたものがどれももう限界がきてつまらなくなってきてる。先が読めたらもうオシマイになっちゃてる。だからバラエティもセミ・ドキュメントになってますよね。『電波少年』とか『メチャイケ』とか。最初の企画性と、芸人が面白いことをやるのをただ撮ってるだけのものになってれう。この先何が起こるか作ってる人間もお客さんも分からないというそういうハプニング性にしか刺激がなくなってるんだと思う。【131】
・こっちはシャレでやってても、向こうは本気に受け取ることってあるから。エヴァのいわゆる謎と言われている部分とか。でもそういう部分はケース・バイ・ケースで考えて作ってるんですけどね。ただ、こちらの許容範囲を超えて勘違いしてくるお客に関して対処するには、あきらめるしかないかな、と【138】
・岩井さん「庵野さんは言葉をすごく素材として使ってるような気がするんですけど」
庵野さん「便利なんですよ。言葉の持つイメージって。」(ここで本には「だから殺した」や「みんなの、他の人のためにエヴァに乗るのか?」という25話のテロップを例に出している。(つまりエヴァのテロップ演出の多用は庵野さんが「言葉の持つイメージの便利さ)を意識している使っているということが伺える)【140】
・北野武さんの『HANABI』を見ての印象だが、「この人は言葉を全然信用してないな」と。信用してないから最後の「ありがとう」が出てくると思うんです。【142】
・便利だから、とくにアニメーションやってると言葉以外何も頼れなくなるところがありますね。(エヴァでテロップによる「言葉」が出てくるシーンというのは「それしかもう頼れない」からその演出を使っているのかもしれない。劇場版26話の「無言」とか)【142】
・(岩井さんが小説版スワロウテイルを書いたことについて)映画監督が自分の作品を小説にするのはイカンですよ。だったら、最初から小説だけでやれっていう(笑)ああいうのって、なんか自分の残りものの捌け口みたいな感じがしてダメなんですよ。映画に満足できなかったグチを、小説に置き換えるっていうことですからね。あとで小説出すくらいだたら映画にするな、っていうのが僕の中ではあるんですけどね。(岩井さん「僕のやつは映画化する前に書いてるんですよ(笑)」庵野さん「なら、まだオーケーです」)【144】
↑庵野さんが自分の作った映像作品の小説版を書かないのは恐らくこのスタンスで作品を作っているため。
・日本語の小説は改行のタイミングとかで読むリズムとかが出てくる。そういうのを考えてない小説はちょっと読んでて辛い。パッと開いた時の見た目の美しさを分かってるって言うのが僕は良いと思うんです。少女漫画にはそれがあるんですよ。ああいう繊細な感覚っていうか「いいなぁ」と思いますね。漫画でありながらイラストでもある。【147】
・エヴァに字幕が多いのは、ただ単に東方戦争映画とかの影響。あと岡本喜八監督。【147】
・極太明朝は元々は市川崑さん。アレはかっこいい。【147】
・字を出すと情報量が増えていいんですよ。とくにアニメの場合、なんか絵に力がないときには字幕を入れるとですね、江西真理が入っていい。客の視点を一度そこにくぎ付けにしてくれるし。いちばんシンプルな記号です。【148】
・庵野さん「記号と言えば岩井さん、チャリになんかこだわりがあるんですか?自転車に?」
岩井さん「そうですね…まあ、好きですよね」
庵野さん「僕もチャリに乗ってる女の子は、なんかこういいなと思うんです」
岩井さん「わりと自転車と傘が好きで、しょっちゅう出てきます」
・女の子がチャリに乗ってる絵が好き。昔からそれには惹かれる。とくに田舎道。『ラブ&ポップ』もわざわざチャリのシーンは入れた。しかも3日もかけてる(笑)【149】
・AVの撮影を手伝った時に「俺ってそんなにセックス好きじゃないんだ」ってことに気づいてガーンと来ましたね【162】
・自分でハメ撮りができるか知りたい。【164】
・自分を追い込まないと何もできない。だからとにかくやってみたい。何が自分にまだ残っているのか、今のうちに知っておきたい。AV関係の人たちは今まで自分の周りにいなかったから、僕の中にもちょっとバカにしてたところってあったんですよ。しょせんAVでしょっていう。でもそれは思い上がりだった。僕より遥かにシビアでしっかりしてる人がそこにいて、すごいなぁと思いました。映像として見てる者もまるで違う。感覚や経験で叶わないと思いましたね。【166】
・自分はスケベじゃないんじゃないかと思ってて。性行為そのものに何かピンと来ない。それよりはもっと添い寝系(笑)。横で寝ててくれる方がいい。肌と肌の密着感とか好きなんです。【166】
・(クサい(感動的だがわざとらしく非現実的な)シーンについての話で)アニメは逆。そういうクサイことをやらないようにすると難しくなる。エヴァはそっち系。できるだけ生々しく使用、作り事じゃないようにしようと。キビシイですよ。(これは↑にもあった)【177】
・(岩井さんがナディアで一番感動したのが最終回のマリーと紙飛行機のカットだという話になり)ああ、じゃあ同じです(笑)。僕がナディアで一番グッときたのもあそこですから。あれは思いついた時にイケる、と。編集の時も、繋げて初めてその瞬間を見た時、「これで終わった」という実感を味わいましたからね。【183】
・『Love Letter』は映画技術の粋っていう感じがする。劇場で見損ねちゃってLDで見た。コンテ集は上下とも買った。今更だけどやられたなというのがけっこうあって、悔しかった。【183】
・『サンダ対ガイラ』はいまでもトラウマになってる。大学生になって見ても、やっぱりこれはすごい、って。怪獣映画で言えば、最初のゴジラの次にすごい。『サンダ対ガイラ』の両氏が海の中を見るとガイラの顔がてシーンが怖くて怖くて。(岩井さん「ハハハハハ。あれ、最悪ですよね(笑)」)【188】
・↑のシーンは友達がプールでガイラごっことしてやってた。今でも海を覗いてガイラがいたらどうしようって思う時がけっこうある。あと海の回想シーンで人が泳いでると向こうからガイラが泳いでくるじゃないですか(笑)あのビジュアルも怖いですよ。【188】
・ガメラ1は福岡ドームの福岡決戦までは本当に良い映画。CGでガメラが回転ジェットで飛んでいくときには泣いた。あれがベストショット。あれを見た時には樋口の仕事に感動した。彼があの仕事に己の人生をかけてた感じもあって良かった。あれは男の仕事だった。【190】
・『ガメラ1999』のメイキングを頼まれてて、ただ撮ってもつまらないから、特撮のルポルタージュみたいなのをやろうと思ってる。「なんでまだしがみついているのか」っていうのを赤裸々に書こうと【194】
・↑の件で岩井さんにインタビューさせてもらってもいいですか。(岩井さん「いいですよ」) ←GaZOVOL2のインタビューのことと思われる。【194】
・アイディアが思い浮かぶ時はバラバラ。風呂もあるしトイレもあるしチャリ乗ってる時、電車乗ってる時、本を読んでる時。つまらない映画もアイディアが出てくる。つまんない映画って考えるのに向いてると思う。退屈しのぎに別のこと考えるから。
・(「エヴァは庵野監督の個人的に体験の投影なのか」という質問に対して)なんかなぁ…個人的体験だけdが突出してピックアップされやすいんですよ。「こういうときこういうことがありまして、それをそのまま作品に生かしてるんですよ」ってのがいちばん言いやすいんですよ。それをまた、聞き手の方も欲しがってるし。あと他の事言ってもそこだけ載せるとか。それが記事として面白いと考えてる人が多いから。けど本当にそうだったら自分の自伝書けばすむわけですから。それじゃ面白くないからこういうことしてるわけで。僕の自伝が面白きゃ自伝でやりますよ。【197】
・(「ナディアが肉を食べないのは、庵野秀明自身が肉を食べないことと関係あるか」という質問に対して) 関係ないっす。↑で書いた屠殺の時の鳴き声だって聞いたの1回だけですから。高校の頃天文部にいて朝方まで街から離れたところで星を見てたんで。そういう山の方の空き地…そこ墓場なんですけど広い場所でなんかこう、墓場のど真ん中に寝たりとかして、天体観測やって。朝方になるとうすーく聞こえてきて。トラウマになんかならないですよ。自分では肉を食わない理由はさっぱりわからない。そう、生き物が大っ嫌いなんですよ。魚も嫌いだし、そういうものを食おうとは思わないですよ。犬も嫌いだし。まあいいのは猫ぐらい。猫は人間に寄ってこないから。まあナディアっていうのはキャラクターとして何か立たせなきゃいけないっていうことでああなったんです。NHKから来た条件が「動物と話が出来る」だったからそれに対してキャラクターを立てるための道具の一つなんです。【198】
・(「生まれ変わってもやっぱり映画監督になるか」という質問に対して) この仕事ってたぶん死ぬ頃には飽きてると思うんですよ。だいたい監督を目標にしたことがないんですよ。一度しか。まあもったいないって気分が大きかった。いいホンがあったんですよ。このホンがこのままつぶれるのはもったいないなあって。その方が大きかったんです。(再三語られているトップをねらえ!の話だと思われる)監督になりたいと思ったことはないし監督には向いてないと思っています。【198】
・(この時点では)銀行とか役所のアンケートで職業書くときは「会社員」と描いている。一応ガイナの会社員だから【202】
・僕は映像をやってるから自分の映画の開設は映像でやってりゃいいやと思うだけです。僕がこういうインタビューできちんと全部説明できるような人間だったら、映像づくりなんてめんどくさい作業はしてません。「この映画のテーマは何ですか」という質問は僕にとってはすごい愚問なんです。【204】
・AVに興味を持ったのは『ラブ&ポップ』のドキュメントにカンパニー松尾さんとバクシーシ山下さんが来たのがきっかけ。プロデューサーの山里さんが彼らの作品を観てて、この人たちのドキュメント性が面白いからって。【207】
・(「夢に出てきてうなされた作品は?」という質問に対して) 『悪魔くん』ですね。あとは『怪奇大作戦』。悪魔くんのマネキン人形の回がすごい怖くて。あと怪奇大作戦の人喰い蛾。あれから蛾が嫌いです。あと人形も昔から怖い。夜見れない。ただ、そういうパーソナリティが作品にベタベタな形で出てくるっていうのはありえないっす。エヴァの時はすごくそういう書かれ方をした原稿が多かったですけど。
・エヴァの時も作品世界だけじゃまとめられなくて、僕自身のことを利用して、無理に作品を批評した人が多かったですけど、分からないですよ、ホントのところは。マヌケな行為だなあと思います。登場人物って複合人格だし、だいたい、全く知らない人から理解されるほど僕の人生単純じゃないし。【Epilogue】
【感想】
「なぜ庵野監督は自作の小説版を書かないのか」という長年の疑問の回答があったのが良かった。(もしエヴァの小説を庵野監督が書き下ろしていたらエヴァ本編の理解にもかなり繋がってただろうなと長年思っていたので)あとこの本をきっかけとして初めて岩井俊二監督を意識して作品を数本見たのだが、岩井監督、天才です。