発売日:2004年5月26日。主に実写版キューティーハニーについての特集。
庵野:「『エヴァンゲリオン』をもう一回やります」と言えば十億円以上、すぐに出ると思います。けど、「実写をやる」と言ったらそこまでは出ないんですよ。実写だと「庵野さんは実績がな いから作れない」と。そこが大きく違います。 実写だとまだまだ予算がもらえないですね。【31】
庵野:今は実写を作るのが面白いんですよ。あと、ア ニメは”頭の中〟にあるイメージを絵にして作るもの ですけど、実写は”頭の外”の、現実空間にある素材 を使って作るものなんですね。今は外界の影響で変化する実写映像の方が面白いですね。【31】
庵野:『THE END OF EVANGELION」 を作っている時に、「もうこれは実写でなければダメだ」という結論に行き着いて、アニメだけじゃなくて特撮の現場もやっている樋口真嗣に相談したんです。その時に樋口から実写のスタッフを紹介してもらって、甘木 プロデューサーと知り合ったのが良かったですね。僕が実写をやれる環境をそこに用意してもらえましたから。
庵野:まあ、全ての始まりは「エヴァ」の実写をやったことですね。 実写を続けている理由も、「エヴァ」の時にぜんぜんうまくいかなかったことが大きいと思うんですよ。結局、撮ったものをみんな捨てちゃいましたから。その時の復讐をまだやっているんだと思います。【33】
「エヴァ」という完結したアニメ世界の中で、何故あのような映像パートを挿入しなければならなかった んでしょうか
庵野:あそこに欲しい映像が、セルのアニメーション では表現できないものに行っちゃってたんですよ。「もっと現実に近い感じのものが欲しい」、「じゃあ一番現実に近いフィルムは実写だ」と。 もともと実写で入れるの は声優さんのドラマだったんですけど、撮影している時に「これは違う」と。
庵野:結果として、風景と映画館の観客の映像を使うことになりました。【34】
庵野:当時色々な人たちが過剰にフィクションにのめり込 んでいるのが嫌だったんです。他者が作った脳内世界 に自身の存在を依存し過ぎているのが、見ていて怖い感じがしました。とにかく少しでも外界を認めて、 分の尺度で相対的な視野を持って欲しかった。【34】
庵野:そこで、見ている人が自分の現実を意識する方法と して、鏡を差し出すのもありだろうと。観客の映像は 鏡のイメージでした。ビデオにする時は真っ黒の画面 にしようと思ってました。 画面が黒いとブラウン管に 観ている自分の顔が映りますからね。【34】
フィクションにのめり込むのは嫌だ」という感覚は、「エヴァ」や「ハニー」の物語の中にもしっかり記録されているように感じます
庵野:言ってみれば、外の世界もそんなに悪いものじゃないということですね。
庵野:「外」というのはまあ、「世間」みたいなもの。内向きのベクトルはあまり持ちたくないし、自分も他者もできるだけ外に向いていて欲しい。大きなお世話だと言われても、そういう気持ちは作っているものにも表れてしまうんでしょうね。
でも僕も、面倒臭がりだし無造作に人に会うことがあまり好きじゃないので…どうもこう、パーティーとか苦手なんですね。【34】
「エヴァ」の後の二作の実写映画『ラブ&ポップ』 「式日」は、人物造形や時代感がリアルなものだったと 思うんですが、これはアニメ表現に対する反動からだ ったんでしょうか。
庵野:とにかくアニメっぽくないものをやりたかったんです。 その手段としての実写映像だったし。
庵野:でも実際に『ラブ&ポップ』を撮ってみたら、その逆になっ たんですよね。目の前に生身の人間がいるのに、無機質っぽく撮ろうとしている。結局自分は被写体やその空間にないものを、ないものねだりで入れたがるんだと思うんです。
庵野:アニメをやっている時は、セルで描いた人間にない生っぽさや、絵という虚構世界に現実っぽさを出したがっていましたから。【36】
庵野:ハニーは破天荒ながらもどこか接地感がある世界観を目指していました。 リアルばかりを追求するの は面白くないし、むしろ馬鹿馬鹿しさが表に出ている 世界が「ハニー」にはよいかと。そういったモノをや りたいがための企画でもあったわけだし。【37】
庵野:「ハニー」のプロトタイプも兼ねて作ったショートビデオ「流星課長』(2002)で、だいたいの雰囲気や感じは見えて摑めていましたから。【37】
そもそも、何故『キューティーハニー』を原作に選んだんですか?
庵野: 『キューティーハニー」は漫画の面白さの外に行ける作品だったんですね。「ハニー」の漫画が持つゆるさとか、幅の広さみたい なものが、永井先生の原作以外のハニーを許してくれ るわけですよ。 【38】
庵野:とはいえ「公園の銅像に変身するハニーがないのは許せん!」というファンには、「すんません」となりますけど(笑)。あれをやれなかったのは僕も至極残念です。 ただお弁当キャラは残しました。 その心意気だけでもファンに伝わってもらえれば、幸いです。【38】
庵野:少女漫画を本格的に読み始めたのは中学の時ですね。女の子の友達が塾で「別冊マーガレット (別マ)」を貸してくれたの がきっかけで。
庵野:「別マ」の作家さんが白泉社に行ってからは「花とゆめ」と「ララ」ですね。あとは「りぼん」 と「別冊少女コミック」等です。その辺りの雑誌を高校の頃は毎号買って楽しみに読んでましたね。【38】
庵野:高校時代は一度も女の子と付き合えなかったんですよ。【39】
庵野:少女漫画が好きだったのは、ぜんぜん思いもしないネーム(言葉)とか、話の展開とか理屈や世界が自分と違うところです。 少年漫画を読んでいても、 先の展開が読めてしまってもうひとつ面白くなかったんですけど、少女漫画はこの次にこの人はどんな行動に出るのかが、さっぱり分からなかったですね。【39】
庵野:あとは、ページ全体で絵とフキダシの位置や形状も含めた 主観的イメージ世界としての表現がすごく面白かったです。【39】
庵野:少女漫画はインナースペース(内面世界)を感覚的な手法を使って、紙の上に定着させようとしているの がよかったですね。
庵野:少年漫画ってインナースペースじ ゃないんですよ。確固とした客観的イメージがフキダシとコマで作られていて、コマ割りで話が進む世界ですから。少女漫画はすごく進んだ表現だと思っていました。【39】
庵野:今は全然読まなくなって、嫁さんの漫画だけですね。 多分もう少女漫画を読んで女性観みたいなものを自分に取り入れる必要がなくなったのと、嫁さんを見ている方が少女漫画を読むより面白いからじゃないかと思 います(笑)。【39】
庵野:漫画の文法をなんとか映像に持っていけないか という思いは以前からありましたね。 『ラブ&ポップ」 で色々な大きさの画面を使った理由は、縦に長いもの は縦に長いまま見せたかったからです。【40】
庵野:コマの大きさでイメージが変化する面白さも映像の中で扱ってみたかったし、そもそもスクリーンの大きさが固定されて いる額縁舞台がなんか嫌だったんですよ。【40】
実際のところ、ハリウッド映画に対する競争心はお持ちなんですか。
庵野:そういうのは、あまりないです。面白さは1800円分にはしなければいけないというだけです。 他と争ってもしょうがないんです。
庵野:映画である以上、お金を払うお客さんには楽しんで欲しい。そして、商業映画である以上、出資者には元を取って欲しい。 その興行である以上、出来るだけ当たって欲しい、それだけです。そうしないと次の映画が撮れないですから【42】
庵野:僕の所に実写映画の企画が来ることは滅多にないですね。今までにお話をいただいたのは、二つ三つぐらいです。アニメは色々と来ますけど。【42】
庵野:今後の予定はまだ未定です。決まっているのは「ハニー」のアニメ版の総監督ですね。ただ、「ハニー」で ここまでオープンなものを作ったから、次はオリジナ ルでカルトで行こうと思います。根が飽きっぽいんで、前の作品のテイストを持続せずに、出来るだけ毎回違うものをやりたいですね。【42】
一時期、「いつか舞台の演出に挑戦したい」という話を各種メディアでされていましたが?
庵野: 舞台は難しいです。そっちの世界に踏み込むだ けの覚悟が足りないですね。やっぱすごい世界だと思 います。【42】
庵野:映像が一番好きなんですよ。全てが自分に向いてい ると思います。
庵野:例えば文字だけで表現する場合、曖昧さがなくなって伝えづらくなるんだけど、映像だったら、映像の中に文字情報だけというのもできるし、 字幕だけでもいけるわけだし、それを台詞にしてナレー ションにすることもできるし、モノローグにすることもできる。
庵野:絵の他に音と時間と各種表現が混じってい る混沌とした複合的、総合的な部分が映像の好きなところで。「なんとなく」という曖昧な「気分」を表現出来る手段が、僕にとっては映像しかないんです。他のやり方で自分は「気分」を作れないですから。【42】
(2004年3月16日 ガイナックスにて収録)
【滝本竜彦氏(NHKへようこその作者)との対談】
庵野:綾波は僕にはよくわからないキャラなんです。
滝本:なぜあんなに人気が出たのかも?
庵野:わからないんです。
庵野: 「エヴァ」には他にもたくさんのキャラクターが 出てきますが、実は綾波だけコントロールしてないんですよ。「この娘はこうだからこう動かす」ってのがなくて、なんか成り行き任せのキャラになってしまいました。ミサトとかアスカとかってい うのは、話の中でポジティブに動いてもらわない と困るので、そういうキャラは、作品に意識して組み込むようにしています。【115】
庵野:綾波や、あとシンジなんかは、なんとなく「流れていればいいや」と。脚本家のイメージも汲み 取って、自分で感覚的に違うと思った所だけ直してました。 鶴巻和哉や摩砂雪や貞本義行の想いみたいなのも入りつつ、僕や彼らの無意識の集合体のようなものが、 綾波なのかも知れませんね。 形而上的キャラクターですね。【115】
庵野:あと、わかりにくい言い方かも知れませんが、綾波は非現実の集合体の中に少しだけ現実が入っているようなキャラクターだと思うんです。脚本家は綾波にリアリティを持たせようとしてて、鶴巻 とかはそれを外そうとしてたようです。僕は特に そこについてはジャッジメントせずに、他人がいじるのも良し!というか「放し飼い」のような感じでフワフワ~と出来上がったのが綾波レイと いうキャラなんです。【116】
滝本:アスカはどうですか?
庵野:アスカは本来考えていたものからどんどん壊れていっちゃいましたね。あれは予定外でした。本当はああいう感じに壊れる予定ではなかったんです。もっと自己の強いキャラだったはず なんですが。
庵野:自分が最初にガチッとキャラクター を決めてやらないタイプなので。特にシリーズの場合は流れに任せて作るんで、予想外の展開になってしまったアスカには、ちょっと悪いことをし たな、と今は思っています。ミサトさんにも、最終的には「すんません」と言うしかない(笑)。【116】
庵野:(20話のミサトさんのシーンは)あれはマッサージですよ(笑)。【117】
庵野:TVの「エヴァ」に関して言えば、怖くて観ることが出来ませんでしたね。 見返すのが、ちょっと怖い。作っている時は、集団で気が狂って面白かったんですけど(笑)。
庵野:特に後半に向けてどんどん加速していく時がすごかった です。 時間はなくなるし、何をやっているのか客観性がなくなっていくしで、興奮状態が続いていましたね。
滝本:観てるほうもすごい切羽詰まってるのがわかりました。
庵野:ええ(笑)。ついに脚本も追いつかなくなり 、脳内麻薬が出っぱなしな感じで、あのような状態はあれより前にも後にもないですね。とにか 脳内麻薬が出過ぎてて、今観ると辛い、という のがあります。
編集部:「ナディア」の時も後半時間がなくなってたんじゃないですか?
庵野:「エヴァ」に比べればあったほうです(笑) だけどよく間に合ったなあって思いますよ。最終回が形になったのはすごいですね。【120】
庵野:多かれ少なかれ、ものをつくる人は気が狂ってると思いますよ。【123】
庵野:僕の場合だと、「エヴァ」のTVで本格的に壊れ、なんかものすごいウツが半年くらい続いて・・・ それでも劇場版は約束してたんで作業をやんなきゃいけなくて、11月の記者会見の時になって も、脚本が一行も出来てなくて・・・・・・。
なんとかものを作れるような状況になったらど んどん話が大きくなっちゃって、尺が倍になるわ、 絵コンテは遅れるわで…。【123】
庵野:TVが終わってから、その十一月頃までは、自分でもよく生きていられたな、と思います。ピー クは5月。で、6月から徐々によくなって・・・これは、ありがたいことにいろんな人たちが助けて くれたんですね。それがなければ、多分、僕は今ここにいないと思います。それくらいギリギリの 所にいた。いや~そうとう狂ってましたね。人間が全部敵に見えるというか。【123】
庵野:オタクもすでにファッショ ン化されましたね。オタクになるのも今やファッ ション。オタクの価値はなくなりつつあると思います。オタクであることが恥ずかしくなくなっている。【127】
庵野:「エヴァ」は、オタクは恥ずかしいものなん だ、というのが実はテーマのひとつだったんですけど、大きくなりすぎて見えなくなった。【127】
庵野:作っている時は、アニメ業界はこれで一度終わったほうがいい。現状のアニメ制作現場のシステムは壊れて欲しい。そしてそこから新たなアニメ制作の環境が出来ていって欲しいってのがあったんですけどね。結果的には逆のものになった。延命させてしまいましたね。【127】
庵野:(エヴァでは)少なくとも自分の中にあったものを全部出 しました。あれ以来、実写も含めてしばらくオリジナルを作っていませんね。 自分の中の冷蔵庫がからっぽになっちゃったんです。【128】
編集部:そういえば原作ものばかりですね。
庵野:ええ、ただ次はオリジナルを撮ろうと思っています。ようやくオリジナルの実写にお金を出してくれる所が現れて。 次はすごい辛気くさいカルトな映画を作ろうと思っています。 「こんなん誰が観るんだ」っていうのをやりたい(笑)。まあどうなるかまだわかりませんが。【128】
庵野:お客さんは、まず脳天がしびれて、思考する暇もないうちに映像が進んで行って、感情部分を揺さぶられ、気がついたら終わっていて「ああ面白かった」というのが理想ですね。(これは前にも言ってた)【129】
滝本:あの・・・・・・さんざん言われたことかも知れま せんが、エントリープラグの中で、 綾波の涙が落ちるという描写ですが……。
庵野:ああ、あれはもう、「ガンダム」とか観ていて宇宙空間で爆発音がするのと同じなんですよ。 あそこで涙が塊になったらハードSFにはなると思うんですけど、お客さんには心情が伝わらないと思うんです。あのシーンは作画もよかったし、 ウソでいい、と。設定的リアリティを追求するよりは、涙が出たら頬を伝わって下に落ちる、とい う描き方のほうが、伝えたいことが伝わるんです。 特にアニメの場合は、そういう心の表現を絵で伝 えるのは非常に難しい。 お客さんにどうしても伝えたいと思うことがあったら、僕はウソでもかまわないと思うんです。ウソをつくべきだ、と思います。【131】
庵野:自分の発言もインタビュアーや媒体によって、 フィクションとノンフィクションや建て前と本音が混じってたりするんですけどね。
庵野:自分が喋ることはメディアに露出する段階ですでに編集や演出をされているし、逆に自分からすることもある。 雑誌のインタビューなどで、建て前で訊いてくる人がいますが、そういう時は建て前の答えしかしません。鏡みたいなもんになっちゃいますよね。 悪意や敵意にはそれなりの言葉で臨むし、向こうが本気で訊いてくれれば、こちらも真摯に答えているだけなんですけど。【131】
庵野:集団作業による複合人格とはいえ、結局キャラクターのコアな部分は、自分の各パーツの切り売りになりますけどね。【132】
庵野:「エヴァ」の時は・・たとえばシンジは中学の頃の自分なんですよ。結果的には当時の自分に近付いちゃいましたが(笑)。 庵野:で、ミサトさんは自分の好きな女性なんですよ。 リツコと込みで、当時の自分たちの気分を出したかったので、実年齢に近い設定にしていました。
庵野: アスカはそれの若い頃ですね。
庵野:綾波は・・・・・・なんか 自分の無意識の部分なんだろうって思います。底にあるものといいますか。うーん、なんか当時はこうかなって答えっぽい考えがあったんだけど、 もう細かいところを忘れてますね。
庵野:加持さんは、 僕の中の理想の大人だったんです。いつまで経っても子供っぽい自分がイヤで、せめて作品の中くらいには欲しいなと。大人の自分に憧れてました ね。
庵野:カヲルくんは本来は、もっと偶像的なシンジ の憧れとなる彼の理想像のキャラとして用意してたんですけど、じっさいに動かしてみたら、なぜかおかしいヤツになって(笑)。【132】
庵野:カヲルはレイと対の存在のはずなんですけどね。レイの中にあるもうひとつの姿ということ で。本当は三話分くらい出したかったキャラですけど。なんとか理想の男の子にしようと思ったんです。
庵野:後で友人に言われましたが、あれはシンジくんの王子様なんだ、と。今までの自分を百パー セント受け入れてくれる人がいたら、そりゃ誰でもその傍に行きますよ、と。なるほど、と思いました。
【感想】
個人的な見どころとしては「なぜEOEの後半で実写パートをやったのか」、11月の春エヴァ記者会見の時に脚本が一行もできていなかった話、加持さんは庵野さんの理想の大人だという話。