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『対談 庵野秀明×二宮ひかる』(二宮ひかるオールコレクション【楽園】)より)

女性漫画家:二宮ひかるさんと庵野監督の対談。

インタビュー日時:1997年7月14日夕刻(夏エヴァ完成直後)

庵野:夏エヴァようやく終わったので今は実感あります。ラブ&ポップは明日から仕事開始。【69】

庵野:ラブ&ポップは自分からじかに原作者に話を持って行った。原作者に直接会って。【69】

二宮:女の前で泣ける男はすごい

庵野:僕は女性の方がすごいと思う。女の胸で泣くっていうのは、オトコっていつまでたってもやっぱり子供でしかないってことだと。

二宮:女も子供ですけどね。そのやり口が巧妙になりうだけで。

庵野:でもやり口が巧妙になるのはムダがなくなるということで、それが大人になるということなのでは。巧妙さを手に入れるというのはそれはテクニックですから。少なくともそのことに関して理解している。それが大人だということと思うんですけど。(ミサトさんに通ずる話だなって。15話っぽいというか)【70】

編集:庵野さんは猫背のイメージが強くて。「ああこれは庵野さんなのかな」って思ってたら「いやこれはウルトラマンが云々」って話を聞いたんですが。

庵野:まあ、ウルトラマンというのはヒト様に説明するのに便利だから使ってます。自分が好きなのが猫背なんですね。自分の形になっちゃうんです。だから僕が描くと胴が太くなる。時々、絵の方も描くんですが、 初号機とか描くと胴太になってあんまり好きじゃないですね。【70】

庵野:成功とか失敗とか・・・うーん….. 何か無責任みたいな感じになっちゃうかもしんないけど、あまり考えてないっス。僕が最低限確保しなきゃいけないのはですね、やってくれた各スタッフの人が、やって損したというか、やんなきゃよかったとか思わなきゃいいんですよね。まあそれがひとつと。あと、商業作品ですからお金を出してくれた人が損さえしなけりゃ…。 大儲けはそりゃ時の運ですから。 出してくれた金額に対して最低限の保証さえしてりゃいいんですよ。ビデオが2万本売れてそれでペイできるんだったら、最低限 2万本売れるものにはしておかなき ゃいけない。それが4万売れるか10万売れるか20万売れるかはホント時の運みたいなもんですかねえ。 世の中には当たるアニメでなく当たったアニメがあるだけなんですから。それは結果論ですね。ただ最低の保証 だけはしなきゃいかんと思いますね僕が言えるのはその2点ですね。【70】

庵野:僕が一番イヤなのが自分で完成形態が真っ先に見えちゃうって事なんですよ。そんなもの、自分で面白いと思わない。これから先どうなるんだろうという方が面白いです。(だからエヴァはああいう作り方をしたんだなと。NHKのシン・仮面ライダーの製作ドキュメントでも似たようなこと言ってたなぁ)【72】

庵野 『エヴァ』に関しては失敗への恐怖というのは無かったですけどね。【72】

編:このあいだある男性作家と作品制作の進め方について話をしてて、 彼の作り方を聞いているうち、「ああ、 それはトンネル開削だね」と。たいがいの人はビルの建設なんですけど。 基礎工事から鉄骨組んで、外壁付けて内装やって…。

庵野:人に聞いたんですけど、 土木と建築というのは全然違う。似たように見えるけど本質が違うそうです。

編:庵野さん自身はどちらだと?

庵野:土木じゃないですかね。 設計図なしにビルは建たないですよ。トンネルも出口を決めるやり方はありますけど、「どこに出てもいいや」っ てのもあって。

編:なんか脱獄囚みたいですね。

庵野:あ、いや、僕の場合トンネル がですね、どっちかというと掘ってる事に意義があるんで、どこに出るかというのはそんなにないんですよ。 掘り進んでいるところに意義がある。時間とか経済力とか尽きたら、そこで中断もオッケーなんです。出口に 出るというのにそんなに価値を感じない。最終的にそりゃ出た方がうれしいですけど。万が一出なくてもオ ッケーなんです。じゃなかったら×印もせずにトンネル掘るなんて作業できないし、出口が無ければスタッフを引き返させればいいんですから。 出口は片っ方はあるし、「ここまでだ」 と思ったら「すいません引き返して下さい」と言えばその山からはとりあえず出てこれます。それが最低限の保証なんです。だから僕がやっちゃいけないのはそこで落盤だけはさせちゃいかんと。出口の方に岩がドドッと落盤して詰まったらそれはもう保証が無くなる。最低限、引き返 してそっちに出てこれるという事だけはできるようにしておかないと。 もうひとつは掘ってるさまがそのまま芸にならないといけない。トンネルが貫通する事よりも掘っている姿そのものが面白くなきゃいけない。【72】

庵野 現実の中の真実と作り事の中の真実って、作り事の中の真実の方がより真実に近く感じるんですね。【72】

二宮:庵野さんの日常はどんなですか?

庵野:感覚的には仕事に逃げている感じですかね。

二宮:え、逃げているんですか。 追われてるとか溺れてるじゃなくて?

庵野:いわゆる日常が・・・飯を食うとか、そういう生活感というのが自分の中に存在しないので。まあ、仕事だけという。ちゃんとした生活をしながら家庭を持ち、子育てをしながら仕事をしている人の方が偉いという気がしますね。そっちに向けるエネルギーを全部作品にぶつけているから人様にウケがいいだけで。 そのバックに何か確固としたものが あるかというと生活基盤が全然無いという・・・現実ではなく夢の中にずーっといるようなもんです。【73】

二宮:「アンタちゃんと食べてる?」とか親から言われたりしないんですか?

庵野:ああ、ええ・・・家族という感覚が無いんで。正月とかたまに電話は入れますが、そういう感じじゃないですね。【73】

庵野:彼女がいたときも横に置いてましたね。で仕事仕事。【73】

二宮:男の人はどういう気持ちで女の人と付き合うのかなあ。

庵野 まあ、基本的には母親の代わりですね。【74】

編:庵野さん割と女性誌読まれますよね。

庵野 女性誌しか読まないです。【74】

庵野:(自分は)生きる事にそんなに執着してないからでしょうね。少なくとも喰う事にはほとんど執着ないですから。喰う事に執着が無いというのは生きる事に執着が無いのとほとんど僕は同 義だと思ってるんです。

二宮:お肉と魚と卵がダメなんですよね。

庵野:卵は大丈夫です。

二宮 いかん、小さい子供の偏食と一緒にしちゃ…(笑)。

庵野:いや、子供の偏食から一歩も外へ出てないですよ。だから卵焼きが好きという… 小さい子供と同じなんですよ。

二宮:小さい頃というと私も肉と魚と野菜が嫌いだったんですよ。で、 何を食べてたかというと白いご飯が 一番好きで。

庵野:ええ。

二宮:その白いご飯に塩をかけて食べるのが一番好きでした。

庵野:あ、僕はマヨネーズです。【74】

庵野:お腹空いたら喰いますけどそれでも雨が降っていたらですね、雨の中濡れてまでコンビニ行こうとしないですよ。あまり帰らないですが、 お正月休みとか帰るじゃないですか 自分のアパートに。するとアパートの近くにコンビニ無いんで、3~4 日間喰わないですよ。(それはおかしいだろwwwwww)

二宮:うわ~。3日間4日間ですか。

庵野:ええ。メシを喰いに外へ出るというのが鬱陶しいんですよ。だったら喰わない方がいい。アパートではもう7~8年位お湯沸かしてないです。冷蔵庫も6~7年開けてない。 だからどうなってるか分からないで す。電源切ってないんで大丈夫ですが、中に何が入ってるか・・・たぶん7 ~8年前のビールじゃないかと思う んですけど。

二宮:あの…氷おすすめですよ。いつも食用に氷作ってるんです。 小さめに、口に入りやすいように。 水道水で作って・・・あのカルキ臭さがキモチイイんですよ。

庵野:氷は子供の頃好きでしたよ。【74】

二宮:肉とか魚とかがキライなのは生理的嫌悪ですか?

庵野:それもあると思います。皿に載ってるのが死体に見えちゃう。 「あ、 魚が死んでる」 「牛が死んでる」。 まだ肉はパーツですから全体像を想像しないですけど、魚は全体像がそこにあるので死体にしか見えない。物とか生き物が好きじゃないんだと 思うんです。好きだったら食えるんです。 生き物が嫌いなんですね。

二宮:あ、でも嫌いだと言われるほうが解りやすくていいです。 「かわいそう」と言って食べない人はグーで 殴りたくなりますけど。

庵野:かわいそうとは違いますね。 嫌いなんです。

編:それは人間も含めてですか。

庵野:好きか嫌いかどっちかといえば嫌いだと思います。自分を含めて。

編:それにしても給食のとき苦労しましたでしょ。食べ終わるまで教室に残されたクチで。

庵野:ええ、そうです。残されたクチです。

二宮:お昼休みの間みんなが外で遊んでいるのに一人ポツンと机に残って食べさせられてる食べるフリをしているという感じですか。

庵野:ええ、食べなかったです。

編:それで先生が諦めました?

庵野:ええ。熱心な先生がいて、僕が給食を食べ終わるまで本人も帰らない。それでズーッと夜の8時までなって。結局食べないで、その帰りにチョコレートくれたのでラッキーでした。 小学校2年の時です。(草)

二宮:嫌じゃありませんでしたか? 「先生なんで早く帰ってくれんのやろ」って。

庵野:いや別に。「食え」と言われて「いや食べません」。「食べろ」と言われると余計に食いたくなくなる。 意地っぱりだったんですね。(この話はたびたびしてるけど本当に草が生える)【75】

庵野:僕のいた小学校は市のモデル校で、なんか教育委員会が思いついたらここで試すという。そこで「偏食児童をなくすシステムを作る」ってことで、全校から選りすぐりの偏食児童を空いている教室に隔離して。 そこで先生がマンツーマンで指導する。1年から6年までズララララーと各クラス1人ずつで1か月くらいやったのかな。テレビが取材にきたの憶えていますから。その中で唯一の失敗例が僕なんですよ。(流石に草)

二宮:つらくなかったんですか。

庵野:つらくないです。食い物じゃないですから。食える物が食えないというのはつらい事ですけど、最初から食い物じゃない。食い物として存在しないんです。【75】

庵野:ネーチャンにもあまり興味ないです。風俗行かないし。最近はただ慣れてですね、おネエサンからいろいろ話を聞くのが面白い。

二宮:それは自分から水を向けるんですか、それとも向こうから問わず語りに話してくるんですか。

庵野:これにはコツがあって、ある程度自分の事をサラサラと喋るんですよ。すると安心してバーッと喋り出す。そういう人の話というのは面白いですよ。自分で考えられないような人生っていうのがありますね。 ああ、面白いなあと…【75】

庵野:これは極論になってしまうんですけど、援助交際と結婚というのは事象的には変わらんと思うんです、相手が好きかどうかという大きな違いがあるだけで。男の方は女にお金を渡して貢ぐことによって自分の存在感というか価値観を認識してるわけですから。お互いにそれで納得してれば僕はそれでオッケーだと思うんですけどねえ。(EOEのミサトさんみたいなこと言ってる)【75】

庵野:セックスだけは相手がいなけりゃできないですから。自分も求めてるし相手も求めてる、そういう事ですよね。まあ一番簡単な方法論として、 相手を必要とする行為として、誰にでもできる。

二宮:セックスしたり恋愛したりというのは、とにかく自分がなにがしかになるための一番、最短距離なんですよね。

庵野:ええ、自分の存在を認識できる最短距離。おまけに快楽まで伴う、 こりゃグーですよ。ハマる人が多い のも解ります。僕も生まれて初めてセックスしたときには、「ナルホド!」 と思いましたね。

二宮:ナルホド、ですか。

庵野 ナルホド、です。 それまでわかんなかったですけど、若い頃初めてそういう事をした時に、「あ、ナル ホド、こりゃみんな一生懸命やるわ」 っていうのが最初の感想なんです。【76】

庵野:ちょ っと前にスピリッツで描いていた相原 コージさんのヒトコマ漫画で「今のオナニーはしないほうがよかったな」と いうのを見た時は「なるほど!」(笑・ 膝を叩く)と。 ハズレのオナニー。

二宮:なんかウロコが落ちますねえ (笑)。

庵野:毎回良いというわけではないですね。

二宮:すいません、ソレは射精してもですか(笑)。

庵野:ええ。そうです。射精感とい うのも、いいセックスというのもあると思うし、オシッコと同じで出すだけという時も・・・。いい歳して夢精するのもイヤだし「ここらで出しとかな いとマズイかなあ」という――それ は排泄物と変わんないですね。【76】

庵野:戦争に行くとまともな神経してる人は参るでしょうね。普通人間はヒトを殺すのがあんまり好きじゃないので。一次大戦や二次大戦から帰ってきた兵士はけっこう参ってたと聞きます。【76】

庵野:最前線に行ったらたぶん何もできないですけど、一番後方で作戦指揮を立てるんだったら僕はかなり 人を殺せると思います。実際に(殺人の現場を)見ないと、この作戦で向こうの兵士が何万人も死ぬし、こっちの兵士も何万人も死ぬんだなあと思いながらもそういう作戦を立てて実 行するでしょうね。

二宮:そうか。もう(監督という) 今の普通の生活の上でも指揮官なんですよね。みんなに死ねと言ってる・・・。

庵野:ええ。そのためにイヤな思いはするんでしょうけど、まあ、淡々とやってるんじゃないかなあ。【76】

庵野:アニメの世界は責任の所在がハッキリしてますね。

庵野:監督というのがそういうもんですからね。フィルムは監督のものですから。この民主主義の世界でめずらしく残っている独裁ですからね。 監督は絶対です。

二宮:昔からそうなんですね。

庵野:全ての悪評も、感動の声も、 監督のためのものです。そこには脚本が良かったとかは存在しないんですよ。そのホンを使った監督の手柄にしかならない。その分失敗した時も監督が全てを負うわけです。【76】

庵野:僕の周りにいる人は監督なんかやりたくないって言ってます。

編:庵野さんを見てるととりわけそう思うんですか。

庵野:みたいですね。【76】

庵野:作り事の中のリアリティというのは突き詰めてみたいですね。もちろん、 見てる人や読んでる人が共感するというのがリアリティにつながるという単純な方程式があるんですけど、 その方程式の裏にあるのは何かと最近思うんです。虚構と・・・何だろ・・・虚構と幻想と現実というのがありますよね。フィルムの、映像の方でいえばドキュメンタリーとフィクションとイリュージョン。アニメというのはイリュージョン、全てが作り事ですから。どこにも現実というのは無いわけです。セルアニメーション見て、こんな子がほんとに存在すると思う人は一人もいないはずなんです。 セル画ですから。実際にその人が存 在して自分のチンチン舐めてくれると思う人はいないはずなんです。でもそう思い込もうとする人は山のように…。【77】

庵野:『エヴァ』は アニメなんですよ。その中にあれだけのリアリティをみんなが見い出すというのは一体何だろう。それは共感する部分が多かったんだろうと。 自分の中の現実と照らし合わせた時にマッチングするものがあったんだろうと思います。

庵野:全部作り事の世界とドキュメ ンタリーが対立した時にどっちが勝つか、まぁ方法論の違いでしかないんですけど。フィクションがドキュ メンタリーに勝てる瞬間というのは何だろうと。やっぱり原一男さんの 『ゆきゆきて、神軍』とか観ると、かなわんと思いますよ。本物の強さというのは常に存在しているんだと。あれは本物ですね。確固とした真実なんです。フィクションの中の真実ーーー本物の瞬間というのはなんだろうと。最近はそっちの方の疑問もあって実写をやろうかと。方法論の影から何がでてくるのか。

二宮 ブラックボックスみたい。

庵野:今回の映画(夏エヴァのこと)で、今セルアニメでできる、思いつく事はほとんどやっちゃったんで(笑)。【77】

二宮 うーん、ニクイ(笑)。こういう風に言えちゃうところが。

庵野ちょっと今、ネタが無いんで(笑)。実写やらないと。次ができない。『エヴァ』始める時に考えたのは 40歳になるまでは連チャンでいく。 以前、4年も壊れてたんで(笑)。今が旬だと思うんですよ、35から40ぐらいが。先達を見ても全員がそうですね。高畑勲さんも宮さん(宮崎駿) も富野由悠季さんも出崎 (守)さんも石黒 (昇)さんも。一生のうちいいものが 作れるのはあと数年と思うんですよ。 あとはその後の下り坂をいかに押さえるかですね。ピークはもう来ると思います。ひょっとしたらこれが、 今がピークかもしれない、という恐怖はあります。「庵野さんはエヴァンゲリオンが一番良かったね」と言われるのはしょうがない事だと。ただ、 そう言われないように頑張ろうと。【77】

庵野:あまり自分が長生きしてるイメージが無いので、ヒト様の考えるような恐怖感というのが無いんですね。

二宮:パッと咲いてパッと散ろうっ てやつですか。

庵野:ええ。なんか、死が訪れてもそりゃあそういうもんかあというのがある程度あるからなあ。

編:もういっか、と思う瞬間ってあります?

庵野:エヴァに関してはもういっかあと。こないだ終わったんで。もういっかあと思ったんで次に移れます (笑)。あまり死ぬ事に関して云々というのはイメージが無いんですよ。【77】

庵野:僕は自殺を肯定してい るわけじゃないです。そりゃ人間死ぬよりは生きているほうがいいです よ。ただ終着点くらいは選択の余地があったほうがいいんじゃないかと。 しかし、世の中にはまだまだ生きたくても死んでしまった人がたくさんいますからね。中学からの友人がガンで死んだ時は一番こたえましたよ。 29の時なんですが。あの時は月並みな考え方ですがそいつの分まで生きようと素直に思いましたね。「なんでコイツがここで死ぬんだ」と。何にもまだしてないのに。

もう一人、2年前に。 こっちは交通事故で。これは運が悪いんですけど。 ウカツな奴だったからなあ……。 両方つらかったです。【78】

二宮:不穏な話ですけど、庵野さんに死なれたら現場の方は困るでしょうね。指揮官なわけだし。私、何も 知らなくて、この前まで、庵野さんがガイナックスの社長だと思ってました(笑)。

庵野:社長職はヤですね。

二宮:監督はオッケーですか。

庵野:社長は(社員の)生活の保証をしなければいけないじゃないですか。 でも監督というのは作品の保証だけすればいいんですよ。あとはそれに見合うだけのギャラを持ってくればいいので。生活の保証というよりは、 仕事に対する報酬の心配だけーーーあと、精神的満足感。その仕事をやって良かったという。それを与える事に専念すればいい。それが社長になれば、会社転がすために 「次のアニメは何をやろう」という事を考えなきゃいけない。【78】

庵野:僕が守るのは作品だけ。 イコール、スタッフ。 手伝って くれた人が嫌な思いをするのだけは避けたい。こうして作品が当たって、 人様から褒められたりするというのはスタッフの耳にも良いと思うので。自分はそういう意味では代表でしかない。そこには独裁というシステムも敷いてますが、それが映画という か映像というものなので、失敗しても監督の責任だし、うまくいっても監督の責任だし。それだけは確保しとかないと何にもできない。【78】

庵野:『エヴァ』に関していえば手を抜ける状況というのは存在しなかったから。努力は売りにならないですよ。「こんなに努力したのに」というのは僕は変だと思うんです。「こんなに一生懸命やりました」と言われても「そりゃ一生懸命やるのはアタリマエだ」と。【78】


庵野:ええ。脳内物質出まくりといえばTVの最終2話です。あの辺は楽しくて楽しくてしょうがなくって。 あの時間は良かったですよ。スタッフも大変でしたけど。あれを3日で作るというのはすごいスタッフだと思います。物理的に可能な限界なところまでやってあそこまで出来てるというのは我ながらすごいと思いま す。その分の揺れ戻しというのはそのあとガッシャーンと来たんですが、 あれもまあ今考えればいい経験で、 ヤク(薬)も射たずにこんなダウンな状態になれるなんてすごいと。その時は本当に嫌でしょうがなかったんですが、今考えるとああいうのもなかなかないと。【78】

二宮:一度は経験したいと思います。

庵野:まあ、こういうのは集団作業ですと一層デカくなりますよ。宮さんにもそこは褒められました(笑)。 面白そうだといえば、舞台やAVとかもやってみたいです。

二宮:制作費あまりかけないような?

庵野:今度の映画もそんなにお金かけないでやりたいっス。

編:制作期間も?

庵野:実写のいいトコはそれなんです。短期集中ですから。3か月で30 分のアニメは作れませんから。その分体力使いますけど。 この夏は1日3食喰わないと持たない(笑)。【78】

庵野:実写は自分が倒れたら全部止まっちゃうじゃないですか。アニメの場合、監督って最後尾で検閲する、 上がってきたものチェックしてNG出したりOK出したり。NGの場合は自分で描いたり他人に再配したり …。実写の場合は先頭車両です。ラッセル車みたいなもので。僕が最初にそこに行かないと。「じゃここにカメラ置いてください」と言わないとカメラマンは動けない。そこで僕がバテて 「じゃあその辺でやってて下さい」というワケにはいかないですよ。【78】

編:暑い日が続きますから・・・でも夏という季節が好きじゃないですか?

庵野:夏には思い入れが強いですね。 夏が好きなのはただ単に子供の頃夏休みがあったという記憶のせいかもしれませんけど。【78】

編:庵野さん鉄道が好きですよね。

庵野:早く500系に乗りたいです。

編:実写の撮影が終わる頃晩秋になったら東京まで来ますよ。 庵野:それまで待つしかないです。 500系ってHOもNも出ていないですよね。老後の楽しみにとってあるんです(笑)、鉄道模型は。あれは金がないとできないですね。あれを広げるだけの場所と、買い揃えるだけの経済力を手に入れないと金持ちの道楽ですから。

編:あと作る時間ですよね。絶対、レイアウト凝りそうだから。いや、 庵野さんの口から「老後」という単語聞いて安心した(笑)。

二宮 うん。不思議なというか、かわいい感じですよね。

庵野:老後の趣味はそれです。 それまでは鉄道模型を立ち読みで(笑)。 でも500系が出たら買うでしょうね。ついに買う時が(笑)。買い始める と怖いんです、LDがそうですけど。

編:どんどん買っちゃいましたか。

庵野:他にお金遣うあてがないですから。【78】

二宮:ここに来るときに思ってたことって単純で、もうエヴァンゲリオンの話はイヤってほど聞かれて、3回も4回も同じことをしゃべってうんざりしているだろうから…って。

庵野:いや、それはこれから始まるんです(笑)

二宮:あっそうなんですか(笑)

庵野:だからもう紙に書いて配ろうかと(笑)【78】

【感想】

見どころとしては「エヴァの猫背はウルトラマンからではないという話」(監督が猫背が好きだから)、よく話題に上がる庵野さんの偏食の話(卵は食べれるらしい)とヤバすぎる私生活について、監督というのは独裁だが失敗も成功も全部監督が背負うという話、等だろうか。(全部見どころだが)

『ガイナックスインタビューズ』よりも先に読んでいたのだがまとめるのを忘れていたので新年早々あげたという話。これで全作業終了。約5年かかった。(エヴァ17話の電車の中の冬月とゲンドウの話並み感)

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『ガイナックス・インタビューズ』(庵野監督以外の人のインタビュー該当部分)

【武田康廣】(インタビュー日時:2003年4月)

「エヴァンゲリオン」の商品化窓口を最初に担当していた代理店は、キャラクターの商品化権を特定メーカー1社に独占させる方針でしたが、なんとか独占だけはやめてくれと頼みました。

僕と当時「エヴァンゲリオン」の広報を担当していた佐藤の頭にあったのは、自分たちがガレージキットをやっていたときの体験です。そのとき、どこかのメーカーに権利を独占され て、商品化を許諾してもらえないことほど悔しいものはなかっ た。「俺たちだってつくりてえよ」と感じるわけです(笑)。ガレージキットの世界には、きちんと許諾をもらって合法の土俵にさえ上がれば、「俺がいちばんいいモノをつくってやる」という精神があります。しかし権利が独占されていると、その土俵に上がることができなくなる。 せっかく良い商品を出そうとしてくれる人がいても、表に出てこられなくなってしまう。そうした状況は 許諾を与える側も充分に考慮するべきことだし、なによりも市場にとって大きな影響があると思います。もちろん、商品化権を独占させることでビジネスがうまく回転する作品もあるでしょう。

でも「エヴァンゲリオン」はそうではないという確信があった し、大勢の人の手で、いろんな解釈で作品世界をいっしょに練り 上げてもらいたかった。だから独占に反発したんです。

ただ、そのあたりはなかなかわかってもらえなかったですね。交渉のときには、ケンカめいた大人気ないやりとりまでありました(笑)。

とにかく権利はオープンにしてくれ、市場の監視は全部こちら でするから、とお願いしました。このことは、人によっては「権利の囲い込みだ」と悪口も言われたが、これは本当に正解だったと思います。現在のキャラクタービジネス全体の活性化にも貢献したと自負しています。【38】

【摩砂雪】(インタビュー日時:2003年6月)

これ言ってもいいのか どうかわかりませんけど、面白かったのは、庵野が女性を口説くやり方。いつも「俺はナウシカの巨神兵を描いた人間だ」ってアピ ールしてたんですよ。そうすると女の子がみんな「わあっ、そうなの」と寄ってくるわけ(笑)。あれには「わあ、すげえな巨神兵。 ナウシカは偉大だなあ」と思い知りました。【103】

ガイナックスの作品としては、「トップ」と「ナディア」をやっているんですけど、最初は「トップ」ってバカにして いたんですよ。「トップガン」と「エースをねらえ!」を足したような話って、「なんじゃそりゃあ!」と(笑)。それでも見てみる と、第2話がそれなりに出来が良くて「まあ、こんなもんだろうな」と思ってました。そうしたら3話、4話でけっこうすごいことになってたんですよ。そう驚いていたら、自分にも手伝ってくれという話が来たんです。それで現場に行ったら、渡されたのが 第5話の職員室のシーンでした。

ほかの会社に行くと、どこでも俺は、いちばん初めに派手なメ カシーンを渡されるんです。事実、ラブコメの「オレンジロー ド」でさえもメカシーンを渡されましたから。メカとか派手なア クションとか、ジェットコースターを描けとかさ(笑)。俺はかわ いい女の子がちゃんと演技しているところを、ちょこっと描いて みたかったのに。「いつもとは違う演技を描いてみたい」ってい う感覚ってあるじゃないですか。

そうしたら、庵野がそこをちゃんとわかってくれてたんです よ。だから「トップ」に参加した自分に、「おまえはこういう人 間芝居を描きたいんだろう」と、職員室のシーンを渡してくれた んです。あのときはうれしかったですよ。最初に「トップ」を手 伝ってくれと言われたときも、「でもメカとかそういうのはやだ よ」って感じだったんですよ。なんか、”コレもん”ばっかり求 められてもねぇ。【104】

あの頃はもっと日常の芝居をやってみたかった。だから「トップ」の仕事は面白かったし、参加してよかったと思っています。 それで「トップ」が終わったときに「もしまたおまえが監督でやるなら、今度は俺にも演出をやらせてくれ」って、庵野に言っといたんですよ。それが実現したのが「ナディア」です。「ナディア」ではコンテをけっこう描か せてもらって、演出は確か2回やったのかな。それでやっぱり、 仕事としてかなりいい思いができたんですよ。終わったときに、 この作品を盛り上げてよかったなと思いましたから。

そのとき庵野に「こういうノリの作品をもう1回、あと何年後 かにやるから、そのときはよろしくね」と言われて、 またガイナ の外に出てうろうろした。 そして帰ってきてやることになった “こういうノリの作品”というのが、「エヴァンゲリオン」でした。【105】

「エヴァ」の企画がホントに面白くてね、そのちょっと前の仕事 から早く逃げだしたくて、「もうとにかく『エヴァ』を早く動か してくれ!」ってせかしたこともあったけどね(笑)。

そうしたら「だったら1、2話(第壱話「使徒、襲来」、第弐話 「見知らぬ、天井」)のコンテを描いてみるか」という話がすぐ返って来ちゃった。

しかし本当のことを言うと、実は「エヴァ」も当初は、いちば ん初めに「巨大ロボット」モノだと聞いて「あんまり興味ねえな あ」と思っていたんですよ。しかし「要塞都市があって、必ずそ こを攻めてくる敵から防衛する」というシノプシスをみて、面白 そうな設定だなと食指が動いたんです。あまりこういう設定は、 当時のほかの作品では見たことがないじゃないですか。要は「マ ジンガーZ』 に出てくる光子力研究所の設定を、さらに大規模にしたものなんですけど、それならちょっと作品を見てみたい。「だったらやるわ」と言って参加したんです。でも、あんまり防衛していませんでしたね、あの都市。ぜんぜん機能してなか ったよね……(笑)。【106】

でも「強羅防衛線突破されました」とか言って、戦況報告だけで 済ましてますよね。「おまえらいつ、どこを防衛してんだよ、全 然戦闘シーンねえじゃん」ってね(笑)。だから自分が演出した第 拾九話「男の戦い」)のときに、「必ず天井ミサイルを打つシー ンを入れるからね」と庵野に断言して、ネジ込みましたからね (笑)。【106】

「エヴァ」でまず要求されたのは、とにかく無駄なつなぎのカットをなくしていくことでした。そこから始まったんですよ。よくある、「ここはこういうところです」という場面説明の画とか、人物が移動するときの「ここからここまで場所が移りました」という経過の描写とか、そういうものはある程度最初の話数できちんと作品の世界を見せておけば、後は最小限に抑えられる。そうした無駄なものを省いていけば、テンポよくいろんな話を詰め込んでいけると。あとは「アングルには凝って くれ」と言われました。最初の頃は昔の円谷作品、『ウルトラセブン」や「帰りマン』、 あと『怪奇大作戦』 とかを参考に見せられましたよ。実相 寺昭雄監督の作品は画づくりがけっこう凝っていますからね。【107】

エヴァの立ち上げには、やはりそれなりの時間はかけてます。コンテ作業を始めてから1話と2話が完成するまで1 年以上は使ったんじゃないのかな?【107】

インタビュアー:たとえば第拾九話「男の戦い」には、使徒ゼルエルにエヴァンゲリオン初号機の攻撃が命中し、絶妙のタイミングで血がバッと 噴き出す。そしてその血が透明のATフィールドに「バシャッ」 とかかる、というカットが登場しますが、よくもまあ、あんなカ ッコいい画を思いつくものだと感じます。

魔砂雪:ああいうのはまあ(笑)。仕事中、スタッフの間で、酒を飲んで バカ話をしたりすることが多いんですよ。で、そういうところで 「こんなのどう?」って冗談半分で言ってると、そのアイディア を本当に庵野が、脚本に書き込んでいたりするんですよね(笑)。 俺なんか酒の席で言ったことが、けっこう、採用されてしまっ て、自分の持ちネタが全部「エヴァ」に使われてしまった。「これじゃ、俺がオリジナルつくるネタ、残ってねえじゃん!」と思いましたよ(笑)。ガイナって開けた環境というか、すごい下っ端 がなんか変なことを言っても、「それが面白いアイディアだったら採用される」という風潮があったんです。ほんとね、すぐ採用されるんです。 ちょいと言ったことが、次の日にコンテ用の脚本として上がってきたりしましたから。【108】

エヴァはあの当時1本1000万円でつくっていた 。 そんなにほかのアニメほどはかかってないはずです。段取り芝居を省いて、コンテも考えて切っているので、作画枚数はそれほどないんですよ。【109】


「エヴァ」ではね、編集の実作業そのものまで自分たちでやりました。はじめの頃はちゃんとフィルム編集の担当の方がついてくださっていたんですが、「エヴァ」で俺たちがやろうとしていることに付き合わせると、その方に、一日十何時間も労働させるこ とになってしまうんです。それじゃあ、申し訳ないということも あって、だから「自分たちにフィルム編集のやり方を教えてください」と頼み込んだんです。つまりネガ編への指示の出し方とかとスプライスなどのポジ編集の実務を御教授頂いて、編集作業を自分たちでやってしまったんですよ。「エヴァ」の最後のほうは もう鶴巻と俺と庵野で、入れ替わり立ち代わり編集室に詰めてフ ィルムをつないでいましたからね。そうそう、当時ガイナックス にはポジ編集のできる機材が3組もあったんですよ。普通のスタ ジオではあんまり見なくなってきてるような機材を、あちこちか らかき集めて、会社の一部屋を編集室にしてしまった(笑)。

今だとそういう作業もみなデジタルで行いますから、ずいぶん 楽になっています。画が足りなければ伸ばせますし、昔だったら 動画枚数を増やして再撮 (再撮影) しなきゃいけなかったもので もデジタルで処理してしまえるようになっていますから。【117】

庵野がアマチュアのときに監督した「帰ってきたウルトラマン」を観て、本当に悔しかったんですよ。「なんでこいつらは、 こんな面白いことができるんだろう」と思った。片やこっちはプロとして、テレビ作品だから予算はどうこうと言われながら仕事をしていた。予算がないところで、枚数が使えない中で、自分の 作画が目立つためにはどうすればいいんだろうと考えて、コマ撮 変化させて、パースをつけて、変わった画を描く”コレもん”のアニメーターになっていた。でもあの連中は正攻法で面白いことをやっていました。それが悔しかったんですよ。【122】

【貞本義行】(インタビュー日時:2003年5月)

庵野監督に「ここはどういうことなの」と訊いても、「どういう ことなんだろうね」といつもはぐらかされて終わっちゃう(笑)。 「エヴァンゲリオン」制作の当時、庵野監督は本当にライブ感覚 でアニメをつくっていました。ストーリーも描きたいけど、ヴィ ジュアルも描きたい。そのヴィジュアルのためにねじまげなきゃ いけないストーリーを、あの作品ではわりと自由に解釈できるよ うに、わざと曖昧にしてあるんですよ、たぶん。それこそが「エ ヴァンゲリオン」のいいところなんだと思います。違う言い方をすれば、意味を固定していない。見ている人が幅を持って受けと められるように、描きすぎていない。【128】

漫画版エヴァの最たる部分は、設定年齢というか、対象年齢を下げてしまおうと。「『少年エース』という、頭に少年とつく雑誌に連載される以上、子供でも読めるものにしたい」という気負いが最初にあったんです。 「エヴァンゲリオン」にはちょっとどぎつい部分と いうか、大人だったら楽しめるけどという、わりと流行りを狙った部分がありますよね。たとえば宗教っぽいところであるとか。 そういう部分はソフトにやっているつもりです。いや、ソフトというか、「あまりそっちの方向には持っていきたくない」とまたいでしまっていますね。【128】

僕の漫画は、「じゃあこのシンジの立場に自分がいたら、どう行動するだろう」と考えながら進めているんですよ。つまり「エ ヴァンゲリオン」の世界観の中で、シンジと自分を置き換えてや っていく作業になります。だから、難しい言葉を使ったりする場 面は出てこないんですよ。【130】

「王立」という作品は、最終的にはバンダイが スポンサーについて何億円もお金をかけた、すごく立派な劇場映画になってしまいましたけど、僕が最初に話を聞いたときは「2000万円くらいでオリジナルビデオをつくろう」という企画だったんです。【148】

インタビュアー:庵野さんや鶴巻さんはそんなに 「美少女戦士セーラームーン」にハマっていたのですか。

貞本:いや、すごかったですよ。当時はまだ「エヴァ」のキャラクタ ーデザインをやっていた段階ですけど、あの頃、会社の僕の机と庵野さんの机の間に万年床が敷かれていて、ずっと庵野さんがそこで寝泊まりしていました。ていうか、いつも寝ていたんですけ ど(笑)。で「セーラームーン」が始まると、ムクっと起き上がって、テレビをつけてじーっと観ているんです。こっちはセリフだけしか聞こえてきませんから、ストーリーはよくわからない。変身して、必殺技の名前を連呼する場面がありますよね。そこだけのぞき込んで観るんですけど、それだと「セーラームーン」のなにがいいのかわからない。ただ「これは大人から見てもある意味エロスだ」と思って、「エロスとしていいね」と言うと、いっしょに観ていた鶴巻が「違いますよ!」と怒るんです(笑)。じゃあ 「誰がいいの?」って聞くと「そういうんじゃなくて」と。でも 「やっぱり亜美ちゃん(水野亜美)がいいの?」と聞くと「いや この子は」とエピソードをいろいろと教えてくれるんですよ。た ぶん鶴巻は「萌え」がわかってるんだろうな。僕はその辺が今ひとつよくわかってないみたいですね。

鶴巻が言うには、「セーラームーン」という作品は、シリーズディレクターの佐藤順一さんがつくりだした世界の裏読みが、す ごく魅力的だったそうですね。それで「エヴァンゲリオン」でも 佐藤さんにコンテを描いてもらいました。甚目喜一さんというペ ンネームで参加してもらってます。よかったのは、こちらが作品 についていろいろ突っ込んで話をしていくと、相手も同類だと思 って乗ってくれて、こちらの仕事も手伝ってくれるじゃないです か。その横のつながりって、すごく大切だなと実感しました。佐 藤さんや、作画監督の長谷川眞也さんのように「セーラームーン」のスタッフに参加してもらったことは「エヴァ」にとって大きいことでしたから。【153】

庵野さんの場合、そのキャラクターを演じ る声優さんの性格だとか、過去のエピソードをライブ感覚でスト ーリーの中に入れこんでいったりするんですよ。 血液型だとか誕 生日だとかも聞き出して、作品が進む中、脚本で追いかけてそれを反映させていく。【156】

たとえば「エヴァ」のミサトの服は、街で見かけた、男物のライダースーツみた いな服を上に着て、それでスカートをはいてた女の子が参考にな っているんです。スカートをはいている以上、その人は絶対バイクには乗ってないはずですけど、それなのに首からゴーグルを下げていた。こういう女性はいいなと思いました。だからミサトの 服って、実はオートバイ用のものが原型なんです。ただ男ものをそのままだとカッコ悪いところもあるので、そこを考えていじっ ていって、あの形になりました。【159】

【大月俊倫】(インタビュー日時:2004年6月)

「エヴァンゲリオン」の制作当時、庵野監督が大月氏のアパート に月に一度はやってきて泊まり、朝ふたりで中野ブロードウェイ のグッズショップやLD屋を冷やかしてから、それぞれに出社し たという。【164】

(製作委員会方式について)このような作品 は、実は日本のアニメーション史上初といえるものだった。

大月氏が「エヴァンゲリオン」で放送局などの 意見を排除するスキームを採用した理由が、利益追求の手段ではなく「自分が惚れこんだ庵野秀明という才能が、思う存分に腕をふるえる場をつくるため」であったことだ。 大月氏は「エヴァ」 の制作当時、庵野監督に「私が少しでも雑音に気を遣い、作品に 介入しようとしたら、すぐ私を切ってくれ」と申し入れ、あくま でも作品を守るという立場を鮮明に貫いたという。【165】

庵野さんに、僕がまずかなり最初の段階で「大月、もし1回でも、キングはとか、会社としてはとか、俺の前で口に出したら、その場で作業はすべて中断する」と言われたんですよ。それだけは約束してくれと。要するに僕個人としての発言であれば聞くが、キングがとか、会社はとか、組織の事情で発言した瞬間に庵野さんは僕に対する信頼をなくすので、 もう作業はできなくなる。だから、そこでやめるしかなくなると。彼に言われたこの言葉は、僕にとっていまだに座右の銘です。【167】

来年からは庵野さんと特撮作品をつくろうと、ふたりで企画を進めています。【168】

庵野さんはあの頃(エヴァが大ヒットしていた頃)がいちばん暗かったからね。僕は庵野さんの才能と人柄を狂信しちゃっていたから、その庵野さんが暗くて、苦しんでいる状況で自分が楽しいわけないよ。 「エヴァ」が話題になればなるほど、庵野さんはどんどん暗くなっていくから、僕もいっしょに暗くなっていった。世間的に「エヴァ」が盛りあがった当時が、ふたりにとっていちばんつらい時期だったですよ。思い返すと、つらい思い出しかないもんね。【172】

今、特撮作品をふたりでつくろうと盛り上がっています。庵野さんもすごいやる気なんですよ。うれしいですよね。【178】

【佐藤裕紀】(インタビュー日時:「ワンダフルデイズ」封切の日)

庵野氏はカレカノのために各地の学校を行脚して高校生の気持ちを取材したという。【181】

【大塚雅彦】(インタビュー日時:2004年6月)

庵野さんは作品をつくることがすべてなんです。「生きることが作品をつ くること」と言いますか。実際にほとんど会社に住んでいましたし、本当にもうプライベートがない感じで、寝て起きたら仕事を 始めて、終わったら寝るみたいな。あれほどまでに作品にのめり 込めるのはすごいですよ。 高畑勲さんや宮崎駿さんも、すごい質と量の仕事をこなしてしまうんですけど、「エヴァンゲリオン」 をやっているときの庵野さんは、本当に自分のすべてのエネルギーを作品に投入しているという感じでした。【223】

【樋口真嗣】(インタビュー日時:2004年11月)

当時撮影所のアルバイトをして84ゴジラの現場に関わったが、DAICONFILMの作品、特に「DAICONFILM版 帰ってきたウルトラマン」なんかを観ると、明らかにそちらのほうが画づくりに対する、正しい取り組みと工夫を感じる。「本物ではないものを使って、どのように本物に見せるか」という意志が伝わってきた。あの頃、プロの現場にいて、「大阪の学生でもこれだけやってんのに、大の大人が集まってこの体たらくはなんだ」と感じて、やっぱりがっかりしてきたんですね。いろいろなことを考えましたけど、正直なところ、そこまでしてプロの撮影現場にしがみつきたいという気持ちをかなり失ってしまった。【248】

「いっか、もう……」と。ということで撮影所のアルバ イトを辞めてしまったんです。 で、どうしようかと考えたとき に、なぜかあのメガネのもじゃもじゃ頭の人を思い出しまして (笑)、「大阪は楽しそうだなぁ」と考えたんですよ。それでとに かく大阪のDAICONFILMに遊びに行かせてもらおうと、 庵野さんに電話してみたんです。庵野さんは「もうちょいで仕事も終わるっス」みたいなことを言ってくれたので、その場で「じゃあ、いついつ行きましょう」と予定を決めた。それでいざ、そ の当日に庵野さんのところに行ってみたら「メガゾーン23 かなにかの仕事をやっていて、「ちょっと待ってて」と言われま した。それで〝ちょっと”待ってたら、そのまま二晩待つことに なった……………。今にして思うと「あの当時からそれか!」みたいな (笑)。(←このエピソードめっちゃ草)

桜台にあったグラビトンというスタジオだったんですけど、そ この押し入れで二晩寝て待ちました。 それから「じゃあ、終わっ たから行こうか」と、庵野さんとふたりで大阪に向かったんですよ。【249】

実は「トップをねらえ!」の企画段階では、ずっと俺が監督候補として準備を進めてたんですよ。あの作品はガイナックスが王立」でつくった借金の穴埋めのために企画されたもので、基本的に「小松左京SF劇場」とかのラインと同じように、「ブレインワークのみを社内でやって、あとは外注に出して利益をつくる」というスタイルで制作するはずの作品でした。それが嫌だっ たというわけではないんですが、企画がなかなか進まなかったこともあって積極的に取り組めない心境でいたんです。そんなときに実相寺昭雄さんの映画「帝都物語』 に参加しないか、という電話がかかってきたんですよ。【256】

その後、当然ながら「トップをねらえ!」は企画が宙ぶらりんになり、脚本を読んだ庵野秀明さんが監督を引き受けることになった。庵野さんから当時、「帝都物語』のスタッフルームに電話がかかってきて「あれ、僕がやっていい?」と聞かれたんです。それは、俺なんかがどうこう言うことではありませんから、もち ろん了解しました。『トップをねらえ!」は、結局自分が放り投 げたものを、庵野さんがきちんと素晴らしい作品にしてくれまし た。【256】

それともうひとつ、俺はあの頃に別の作品も放り出していたん です。「ナディア」の直前に、ある日中合作の特撮映画に参加し、 その仕事で香港に行っていたんですが、これがまた企画が途中で 二転三転して、スケジュールがどんどん延びて、その結果お金も出なくなって帰国せざるを得なくなった。

そんな形で、俺は2回も続けて、「なにかをつくろうとして、それを途中で放り出す」ということをやってしまったんです。【256】

それがすごく負い目になっていて、とにかく 「なにかつくりたい。 作品として完成したものをつくりたい」と考えていました。そのなにかって、なんでもよかったのかもしれない。だから「ナディア」が始まったときに、庵野さんのところに行って、飲みながら 酔っ払って「庵野さん、ガンダムの『ククルス・ドアンの島』みたいな話をやらせてくださいよ」と頼んだんです。途中の枝葉みたいなエピソードみたいなのでいいから、とにかく1話やらせて もらえればと思っていたんですよね。酒の席で俺がそんなことを話していたのを、きっとあのお方は覚えていたんでしょう。後に その「ククルス・ドアンの島みたいなやつ」がどかっと、10本ぐ らいまとめてやってきた。「やりたいって言ってたでしょ。 やってよ」という感じで(笑)。【257】

(島編をやってるときに)本当に制作中に気絶したことがありますからね。スタジオでラッシュを観ていた時、その仕上がりのひどさに目の前に流れるものを体が受け付けなくなった。【258】

そうしたら鈴木俊二さんたちが「ちょっとくらいなら直せるよ」と言ってカット袋をスーっと持って行ってくれた。マジ泣きです。みんな自分の仕事を抱えてるのに。「ありがとう、ありがとう」というだけでした。【258】

庵野さんが、トップをねらえ!で情熱を注いでいたこだわりのひとつ が、あの、「おっぱい」だったんですよ。ノリコとカズミとユン グという3人の女の子がお風呂に入る場面が出てくるんですけど、 そこの設定書に、庵野さんが指示を書き込んでいた。それがおっぱいなんです(笑)。あのとき庵野さんは熱く「だいたいね。アニ メのおっぱいって、僕はダメだと思うんですよ」と語っていまし た。「アニメのおっぱいって全部同じ形になるじゃないですか。 そんなはずはない、本当は一人ひとりおっぱいの形は違うんです よ!」と(笑)。あれは、さすがに着眼点が違うなと思いました よ。なるほどそりゃ普通は考えないわ。おっぱいか……(笑)。【260】

もう時効だから言いますけど「おたくのビデオ」のドキュメンタリーはヤラセです。って見ればわかりますよね。ありえないよあんなの(笑)【261】

「ウルトラマンパワード」の現場では、当初思い描いてい たものと、すごく違うものを見せられました。しかしそれは明ら かに、普段我々が目にしているハリウッド製の素晴らしい作品 と、地続きのものではあるんですよ。 「すごいものをつくってい るところでも、一歩間違えばこうなってしまうんだ」という事態を目の当たりにして、「こんなのだったら俺たちのほうがマシじゃねえか」と、つくづく感じました。結局、向こうのつくったミ ニチュアを全部我々でつくり直して、もらうお金だけもらって帰ってきました。そこに来た話が、『ガメラ 大怪獣空中決戦』だったんです。【262】

実は最初、「ガメラ」に関して依頼されたのは、画コンテと怪獣デザインだけだったんです。しかし、当時の特撮を取り巻く環 境を考えると、「どうせ描いても出来上がりはひでえもんになるんだろう、それは嫌だなあ」と感じていました。それまでは仕事 に対して、自分から志願したことはなかったんですよね。かかっ てきた電話に対して、どう受けるかということしか考えていなか った。しかしそのとき初めて、自分から電話をかけて「特撮の監 督、誰にも決まってないんだったら、俺にやらせてもらえません か」と頼んだんです。【263】

エヴァの立ち上げ段階で、具体的に俺が働いたというところ はないんですよ。初期の企画会議で、「ピングーみたいなマスコ ットキャラクターっていいよね」と提案したのは覚えていますけ ど。舞台が箱根湯本だとは決まっていたので「箱根といえば箱根園水族館のペンギン。じゃあ、ペンギンがいいんじゃないですか」と発言したんですが、もしかしたら、あのいてもいなくても いいペンギンは、俺のその発言がもとになって生まれたのかも (笑)。でも確かその会議では、ペンギン案は却下されたはずだか ら、また誰かが蒸し返したのかな? わかんないや。【266】

摩砂雪 さんのつくった、庵野さんの結婚式の記録ビデオなんてすごいですよ。1時間ぐらいなんですけど、総カット数は軽く1000以 上あるんじゃないかな。編集だけで半年ぐらいかけていましたか らね。これはもう本当に愛なしではできない。それも性別を超えた、ヒトとしての愛。【266】

【神村靖宏】(インタビュー日時:2004年1月)

「蒼きウル」がとん挫したところで、庵野が自分からテレビシリーズの企画を立ち上げました。これが想定外の大ヒットとなった「新世紀エヴァンゲリオン」です。【312】

パソコン通信では、反応がつくっているそばから聞こえてくる。放映するや否や反応が返ってくるし、会議室では話題がどんどん広がってゆく。「エヴァンゲリオン」は、大きなブームとしてのお客さんの反応を、リアルタイムに受けとめながらつくっていくことになった、最初の作品ではないでしょうか。【317】

エヴァの明朝体を使ったサブタイは神村氏が担当した。【318】

「エヴァ」の制作現場は、当時本当に血を吐くような猛烈なテン ションで作品をつくっていました。「作品をつくる」という行為 は、こんなにも壮絶なことなのかと改めて感じましたね。僕は 「王立」「トップ」 (88)、「ナディア」のときにはガイナックスに いませんでしたから、庵野がこれほど作品に没入するのを間近で 見たのは、アマチュアのとき以来だったんです。【318】

パソコン通信のフォーラムを通しては、負の反応だけではなく、「観て面白かった、ありがとう」という気持ちも、たくさん返ってきたんですよ。作品に、夢を感じてくれる人もいる。 作品のメッセージをよりよく受け止めてくれた感想が届いたりすると、それはこちらにとってもプラスの原動力にすごくなってい ましたね。ある人が寄せてくれた感想を庵野に見せると「この意 見を読んだから、俺は、もう一晩徹夜できる」と言ってくれたこ ともありました。【320】

ガイナックスにおけるゲーム制作を立ち上げたのは、先に言っ たように赤井孝美でした。 赤井のクリエーターとしての発意がもちろん原点ですが、ガイナックスがゲーム制作に取り組んだ理由のひとつに、やはりアニメ作品では権利を持てなかった経緯があると思うんです。作品の権利を持っていないために、いくら一所懸命にアニメをつくって、どれだけの作品がヒットしようともまったく儲からなかった。しかしゲーム作品であれば、つくったものを自分たちで販売して、そのまま自分たちの収益とすることができたんですよ。パソコンゲームならプログラムを組める人間がいて、まめに秋葉原の店なんかを営業してまわる人間がいれば、数人の会社でもゲームメーカーとしてやっていけた。当時、実際に製作から営業まで4~5人でやっているゲームメーカーはけっ こうありましたからね。アニメではできなかった作品制作と収益の一致が、ゲームではその当時の我々でも実現できるのが大きかったと思います。【324】

「エヴァンゲリオン」関連のパソコンソフトということでは、「鋼鉄」の前にアプリケーションデータ集の『コレクターズディスを商品化しています。 これは当時、「エヴァ」の広報を担当していた佐藤の発案でした。 今でこそ良くあるタイプの商品です が、発売時には画期的だった。当時のガイナックスの脆弱なソフ ト開発力で、実質的に強力な商品をつくることができたのは、佐藤のアイディアの賜物でしたね。

ゲームに関して言うと実は、作品ごとにそれぞれ考え方がブレているんですよ。「エヴァンゲリオン」という作品の世界観やキャラクターでゲームをつくる。 その際にどこまで、原作品をいじっていいのか。下手にいじることでオリジナルのクオリティまで下げてしまってはいかんのではないか、という足踏みがあって、 企画によってスタンスが変わっています。【325】

「鋼鉄のガールフレンド」の場合は、プログラマーの橋本立郎君 が、まず「やらせてください」と手を挙げた。「やりたいヤツが いるなら」と企画が実現して、シナリオも橋本君が書いて、ゲー ムとしては成功し、大きな収益も上げました。しかしガイナック ス全体としてはなんとなく「よし、この勢いでつくっていこう!」 というふうではなかったですね。先にお話しした、会社全体のバランスの悪さのようなものがあって、その後なかなか大作ゲームはつくれませんでした。その時期、ゲームをガイナックスのビジ ネスのひとつとして立ち上げた赤井がガイナックスから離れていて、明確な指針を示せる者がいなかったことも、「鋼鉄」に続くゲームをつくることができなかった原因かもしれません。【325】

インタビュアー:「エヴァと愉快な仲間たち 脱衣補完計画!」 のような脱衣ゲームも発売しましたが、あのときには「自分のところで脱衣ゲームを出すか、さすがガイナックス」と皆が衝撃を受け、畏怖 の念すら覚えたものです。

神村:「作品をどこまでいじれるか」という話の中で、「じゃあ脱衣を やってもいいの?」という意見が出て、庵野自身も「なぜやんないの? やればいいのに」という受けとめ方だった。そこで実際につくって「ガイナックスが自社作品の脱衣ゲームをつくった」 と話題にもなりましたし、ヒットもしましたけれど、あの系統の 作品は、実はあまり続いてないんですよね。その後、18禁のゲー ムをいくつかつくりましたが、失速は早かった。結局あのゲーム を、我々はそれほど楽しんでつくってはいなかったのかもしれない。

売れる商品ということでつくってみたけれども、たぶん誰もそ れをつくることでエンドルフィンが出なかったんですよね。だか ら後が続かなかったんじゃないかと思います。 「脱衣ゲームが売れたから、もっとがんがんエッチなやつをつくろうよ」という方針もあったんです。でも結局形にはなっていない。ってことは、 「うちには、本気で脱衣ゲームをつくりたがっているヤツはいな いんだ」と思います。うーん、商売に不熱心な会社(笑)。

ほかにも「エヴァンゲリオン」ではいろいろなゲームを出しま したけど、未消化だったり、力のかけ方がいびつだったなあとい う反省は、振り返ってみるとあります。会社として、「エヴァン ゲリオン」という作品で起こったムーブメントを、どうやって盛り上げて維持していくか。それにきちんとした方針を持って取り組めたとは言いがたいですね。

たぶん佐藤は、その状況をものすごく意識していたと思いま す。だからこそ「エヴァンゲリオン リニューアルプロジェク ト」では、ムーブメントの盛り上げに一所懸命に取り組んだんですよ。あれは佐藤が音頭取りをして、企業横断でもう一度「エヴ ァンゲリオン」を盛り上げようとする試みでした。かつて、ガイ ナックスだけではどうしてもできなかった取り組みでしたが、「エヴァンゲリオンを大事にしてくれる人、集まれ」という感じであちこちに協力をいただいた結果、良い成果をあげられたと思います。【326】

インタビュアー:ブームの盛り上げや維持には、作品の送り手側のイベントや広報などの活動が想像以上に大切だと聞きます。しかも業務の量としても大変なことになるそうですね。 かつては、うまく盛り上げ られなかったというのも、会社の体力として無理もなかったのではありませんか。

いや、それは作業量の問題ではないですよ。ユーザーと提供側 の人々のモチベーションを一致させるタイミングだと思います。 「リニューアルプロジェクト」では、キングレコードさんの「リニューアル版DVD」とバンダイさんのPS2ソフト『エヴァ 2」とが同じ年に出るという好機を、佐藤がきちんととらえまし た。このふたつの商品を求心点にして、もういちど一連の波をつ くろうとし、しかも参加していただいた企業のモチベーションの ベクトルが一致していたので成功したんですよ。昨年1年間「エヴァンゲリオン」のライセンスを担当して強く感じたのは、「リ ニューアル」に参加してくれた企業の担当者の人たちは、やっぱ りみんな「エヴァ」のことを好きでいてくれた。だからみんなそ れぞれに「自分たちもいい商品をつくりたい」と考えていてくれ た。そういうモチベーションの焦点を、このときはうまく提示す ることができました。最初に「エヴァ」が放映され、大ブームが 起こったときには、それを意識的に生かすことはできなかった。 会社として「作品をつくる」ことまでしか意識できていませんでしたし、「つくる」以外の意識もノウハウもなかったんですから仕方がない。でも、今後は、それをやらねばならないと思います。

【鶴巻和哉】(インタビュー日時:2004年4月)

「新世紀エヴァンゲリオン』のときに、庵野秀明が「ライブ感覚を持ち込む」という話をしてたじゃないですか。実際あのときは僕もスタッフとして中にいましたけど、まるで先がわからなかった。 第弐拾弐話をつくっているときに、第弐拾四話がどうなるのかまるでわからないという、予測のつかない状況でした よ。【342】

「フリクリ」の第1話で、「漫画のページのような画をつく ってそのまま写す」というシーンをやっているんですけど、あそこはアニメーターだった今石洋之君に丸投げというか、「任せたから、ハチャメチャにしてください」と発注してつくってもらっ たんですよ。【343】

「フリクリ」のまだ最終話のあたりを制作していたとき、年末 も、もうすぐ正月だというのに、ずっと会社で仕事をしていたん ですよ。そうしたら庵野さんから電話がかかってきた。どうも仲 間を集めて忘年会をやっているらしい。で、「『プロジェクトA 子』 や 「AIKa』 の監督の西島克彦さんがマッキーに話があると言ってるから替わる」と言われたんです。そうしたら 西島さんに「なんでそんなにカッコつけたアニメをつくってるん だー」と、電話口でとうとうと怒られたわけですね。「おっぱいとかパンチラとか、そういうことだろう、アニメは!!!!」と(笑)。 いや西島さんも酔っ払っておられたんですが、僕としては「自 分なりのエロスを出しているんだ」と一所懸命に話すんです。でも西島さんはもう全然認めてくれない(笑)。「そんなんじゃダメだよ」という感じで怒られましたよ。それまでは、西島さんとほとんどお話ししたこともなかったのに(笑)。そこまで言っていただける方はいませんからね。ホント、ありがたい話です。【346】

「フリクリ」の場合は、いろいろごちゃごちゃと入っているので複雑に見えてしまうんですけど、実は「わざわざ6話もかけてこの話をやる必要があるのか」というくらい、すごく単純な話なんですよ。 単純な話を複雑なキャラクターがやっているだけで。【347】

『トップをねらえ!』の後日談的な小説や漫画はいろいろ発表さ れているんですが、「地球に帰還したユングが、ウラシマ効果を つかってノリコたちが帰ってくるのを待っている」というストー リーを期待しているファンの話を聞いたことがあります。しかし それは違うと思うんですよ。最終話でノリコは、「人と違う時間 を生きる人間は、自分で最後にしたい」と言ってます。そのノリコの真意を知っているユングが、人と違う時間を生きようとする わけがないんです。だからユングは、地球に帰った後、普通に年 をとってそのまま亡くなったんだろうと思います。【348】

「フリクリ」に登場するハル子の場合は、そのスタートに 「えの素』という漫画に登場する「葛原さん」があったんです。【349】

(FLCLのキャラデザについて貞本さんとの打ち合わせ)僕の中では騒々しい葛原さん”というイメージがあったので、「ミサトではないんです。もっとハチャメチャなんです!」とリクエストしたら、「じゃあ声を新谷真弓がやるような感じ?」ときたんです。そのときはピンとこなかったんですけど、とにかくハチャメチャさを貞本さんに伝えるために「そのくらいのイメージです」 と反応してしまった。結局、本当に新谷さんに声をやってもらう ことになったわけですけど。

「普段は美人でクールなんだけど、すぐに暴力をふるう、わけの わかんない人」なんて、そんな説明じゃ伝わらないんですよね。 新谷さんという声優さんを介することでようやくイメージを共有 できた。その結果、当初より愉快な要素が入ってきて、あのキャ ラクターになったんです。【350】

「フリクリ」で、主人公がスクーターで轢かれたり、ギターで殴られたりするんですけど、それが僕的にはエロスなんですよ。確 かにおっぱいやパンツみたいな直球エロではないけれど、明らか に僕の中ではエロス。ああいうところにドキドキする。 【351】

(トップ2について)実は庵野から「お題」がひとつだけ出されているんですが、 それを聞いたとき「できる」と思ったんです。以前うまく行かなかった企画のアイディアに「お題」の要素を足すと「できそう」っ て勘が働いたんですね。で、その場で「トップ2」引き受けちゃった。そのアイディアをパッと見て、「『トップをねらえ!」らしい か?」と問われると、「そんなに『トップをねらえ!』じゃないですよ」と、こたえるしかないんですけど、しかし「トップをね らえ2!」にふさわしいという確信はあります。 僕の中に「トッ プをねらえ!」らしさの基準があって、それにはばっちりハマっ てる。ただね、当然ですけど「トップらしさ」というのが、人に よってだいぶ違うんですよね。【351】

庵野なんかは、それこそ「トップをねらえ2″じゃ面白くない から、いっそ トップをねらえ3″ にしちゃいなよ」と、言ってたんですよね。「いや、でも”2″はどうするんですか」と聞いたら「トップをねらえ2″は皆さんの心の中にあります」 ということでいけと(笑)。確かにそうかもしれない。「トップをねらえ!」ができてから2年後、3年後に”2″がつくられるのであれば、違うやり方もあったと思うんです。 それこそユングが出てくるような話もあったかもしれないんですけど、16年もたってから2をつくるのであれば、もうそういうことではないと思うんですよ。【353】

「トップをねらえ!」のファンには、すでに「トップをねらえ!」 があるじゃないですか。あれほど見事に完結している作品があれ ば、「それで充分、余計な続編は必要ないだろう」とも思うんで す。だからこそ、好きにやらせてもらうことにします。 あれから16年を経たガイナックスが、今つくるべき『トップをねらえ!」、それが「トップをねらえ2!」だと考えています。【353】

(ガイナで)全話の画コンテが読める環境にいると、もっとやりたいところが出てくるわけですよ。しかもですね、「ちょっとマッキー見てよ、これ」とか言って、自分がやりたかったけどやれなかったシーンを「こんなレイアウトが上がっ てきちゃってさぁ」と庵野に見せられたりするわけです。そうすると「うーん、これはやっぱり許せんですね」と直してしまう。(庵野さんに)うまく使われてたんでしょうけど(笑)。策士ですよね。【355】

僕が庵野を天才だと思うところは、そこなんですよ。だから庵 野の近くで仕事をして、「あの技術を吸収したい」と考えている んです。それは人をやる気にさせたり、場合によっては窮地を土 壇場でごまかす技術。あれはすごいですよ。僕はむしろ庵野のす ごさはそこだと思っているので、見ているところが人とは違うだ ろうなと思います。

以前、貞本に「もう庵野さんの下から離れて仕事したほうがい い」と言われたことがあるんですけど、そのときに「いや庵野さ んが窮したときにどうするか、困ったときにどうするか。そうし たときの技術がすごいんです。あれはすぐそばでないと見られな いことだから、もっと近くで見ていないともったいない」と話し たら、驚いていました。

たとえば録音スタジオで行き詰まったときに、こうやって乗り きるのかとか。ここでこういうことを言うと場がうまく回り出す んだと【355】

だいたいガイナックスに来た理由も「オレのこの職人の 腕を、庵野さんのために使いたい」ということだったんですから。だから今やっている仕事に関しては、本当に「まさかこんなことになるなんて」という気持ちなんですよ(笑)。【358】

庵野が宮崎駿さんのところで「ナウシカ」の仕事をしたとき、いろいろと直接に意見具申をしたらしいですね。当時でもすでに宮崎さんはアニメ業界ではカリスマ的な方で、作画スタッフがそうそう作品について意見することはなかっただろうと思うんです。そんな中で庵野が「ここはもっとこうすべきだ」とか、 こうしたほうがカッコいい」とか意見して、それが面白くて気に入られたというんですよ。宮崎さん、驚いたでしょうね。学生あがりで経験も少ない、ばっちい身なりのアニメーターが、宮崎さんに文句を言うんですから(笑)。【358】

本能だけでつくったものがアニメらしくなるという人がいたら、すごく尊敬します。 そうなりたい。しかし、僕はそうはいかないから考えてつくらざるを得ない。けれど、自分の頭だけで考えて つくったものは面白くないだろうから、人の力も借りて、自分の 予期しない揺らぎの部分を用意しよう、そこが面白さに結びつくようにしようということです。【363】

僕の中では同じなんです。画コンテも原画も、どちらも絵を描くことですから楽しいんですよ。逆に、録音スタジオで、「今のセリフは良かったです、悪かったです」という話をしているとき とか、編集スタジオでの作業とか絵を描かない作業は、苦痛です ね。絵さえ描いていれば、僕は楽しいですよ。【363】

インタビュアー:鶴巻さんは「エヴァンゲリオン」では副監督でしたが、そうなると作家性も要求されたのでは?

鶴巻:それはなかったですよ。それは庵野が一手に引き受けていましたから。僕の役割は、庵野が煮詰まっているときに、表層を飾り立てるアイディアをなるべくたくさん出していくことだった。それが突破口になることもあるかもな、と考えながらやってました。【365】

(FLCLは)まあ、「次もあるさ」と思っていたから、つくれたというのはあります。 庵野なんかは一球入魂、一発必中、乾坤一擲という か、自分が焼け野原になるまでやって、そうでなければすごい作 品なんてつくれないよ、という姿を見せる。

「もちろんそのとおりだ」と思います。実際に庵野の言動を見て いると、本当に燃え尽きて、灰になるまで取り組んで、それから またニョロっと出てくる。すごいと思います。しかし僕には、そ こまでやれる自信はなかった。だから、僕の場合は「次もある」と考えながらやっていました。【366】

インタビュアー:「トップをねらえ2!」では、「フリクリ」とは違う、また新た なアプローチをファンは目にすることになりそうですね。

鶴巻:とりあえずは、前作の「トップをねらえ!」の雰囲気、ちょっ とゆるいところから始まって、それが段々と盛り上がっていくようなところ。あれは踏襲したい。【366】

【平松禎史】(インタビュー日時:2004年8月)

絵を描き始めたのはマジンガーZがきっかけ。小学生の時模写してた。【369】

その後に松本零士さんの絵を模写してた。【370】

そこからパラパラ漫画の方に行きました。「未来少年コナン」を観て「絵を動かすのは面白い」と思って。【370】

美術系の短大生の頃は人形劇サークルで影絵劇をやっていた。非常にいい経験になった。【373】

卒業後すぐアニメ業界には行かずに1年間サラリーマンをやって、それからアニメに行った。【376】

「ミスター味っ子」から原画をやったが、爆発、日常芝居、食事の時の端の上げ下げまでいろんな要素の場面が出てきたので一通り経験することができて幸運でした。【377】

「七つの海のティコ」から、「名作劇場」の仕事を始めているんですけど、それを当時ガイナックスにいた鈴木 俊二さんが見てくださっていて、「エヴァンゲリオン」の第拾伍話に誘ってくれたんです。その後、第拾九話「男の戦い」)から、ガイナックスで机を借りて仕事を始めるようになりました。ただその前に、スタジオかぁたんでの最初の仕事として 「ふしぎの海のナディア」をやっています。

【赤井孝美】(インタビュー日時:2005年3月)

だいたい「(DAICONFILM版帰ってきたウルトラマンについて)赤井が完成させてくれた、ありがとう」というのも 庵野君の自己チューのなせる感想であって、最初の企画とコンテ は庵野君ですけど、実際の現場に入ってからは僕がカメラを回して、照明のセッティングなども僕がやっているわけです。それに 給料ももらわないで手伝ったスタッフや、出演した武田さんたち を含めて「みんなの作品だ」と考えるのが、普通のアマチュアの 発想だと思うんですけど(笑)、彼は完全に自分の作品だと考えているから「すまないねー、なんか僕の作品に巻き込んじゃって -」 みたいな感想が出てくるんでしょう。 庵野君のいいところは、そんな究極の自己チューが、まるで善人に見えるという。そこが彼の人徳なわけですが。(この話、筆者個人的に大ウケ)【402】

DAICON3のときも、意識としてはマーケティングのようなところから入った部分があると思います。 「SF大会で見せる」 というのが大前提でしたけど、自分自身がSFファンではなかったので、SF大会に集まってくる人がなにを求めてくるのかわからなかった。参加しているスタッフの好みもわからないし、それ にアニメファン、今のオタクワールドのようなものも確立されていたわけじゃなかったので、よくわからないところからリサーチしながらつくっていったんです。

あの時代のファン活動の通行手形として「美少女」っていうも のが出てきていました。当時を大航海時代だとすれば、それを支 えた推力は、内燃機関なのかどうかわからないですけど、メカと 美少女でした。メカは庵野が描ける。もう庵野が描くパワードス ツを出せばお客さん的にはOKだろう。そして80年代の初めに美少女といえば、吾妻ひでおさんの絵とクラリスが2大トレンドでした。主人公の女の子については、〝それをそのままやりまし た”という感じです。あとオープニングアニメの場合、自分で描 ける枚数の問題と、全部素人がハンドトレースでセルにするとい う事情もあったので、画を極力単純化しています。単純じゃなか ったら、細かい線のニュアンスがつぶれるという予想があったので、それでつくった画なんですよ。【403】

DAICON3の場合は、吾妻さんの画とクラリスでしたけど、DAICON4では、さらに「風の谷のナウシカ」の ナウシカが加わりました(笑)。DAICONの場合はネタモノと いうか、企画モノでしたから、企画性の枠で発想したんです。D AICON3ではランドセルを背負った女の子を出したから、4 では意表をついて「バニーガールだっ」とか。今では定番ですけど、その頃は意外だったんです。【403】

【渡辺繁】(インタビュー日時:2004年2月)

王立宇宙軍のパイロットフィルムはいろんなところに見せて回った。押井さんにも見せましたし庵野さんがナウシカに参加していた縁をたどって、宮崎駿さんのところにも見せに行きました。【426】

宮崎さんとは3時間にわたって話して、といっても宮崎さんが 2時間50分お話しになって、僕は10分だけでしたけど(笑)。そのときに宮崎さんは「庵野君たちはアマチュアだけど、ちょっと違 う存在だと思う」と評価してくれたんです。「アマチュアには豪華な出窓はつくれても、基礎をきちっとつくるという部分でふら つく人間が多い。しかし彼らはきちんと基礎をつくって、たぶん 新しい建物をつくることができそうな気がするから、もしも必要 ならばバンダイの役員会の皆さんの前で、アドバイスなどをして 差し上げてもいいですよ」とまで言ってくれたんですよ。

もうそれだけで、僕は我が意を得たりといいますか、「これで大丈夫だ」という気分になりました。 実際に役員会でも、「宮崎さんはこうおっしゃった」と伝えたら、それで企画は通ってしま いました(笑)。【427】

【感想】

エヴァや庵野さん等に関係がある箇所は太字で表してます。

ガイナックスが潰れた今、読んでみると複雑な気持ちになる人がちらほら。山賀さんはまだしも武田さんなんて話もスジが通ってて尊敬できるのに…

この本の著者:堀田純司という人は『ガンダム者』という1stガンダム関係者へのインタビュー本を出している人で有名らしく、読んでいるとすごい知識と実力を持ったインタビュアーだなと感じる。この本も丸々2年かかったんだとか。すごい本です。

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庵野秀明直撃インタビュー ナディアのこととかいろいろ(スペルマぬるぬる副艦長)

ナディアのエロ同人誌の中に入っている希有馬さん(イラストレーター・漫画家)から庵野監督へのインタビュー。インタビュー日時1998年7月10日。(カレカノの作業で忙しい時)

七月十日、三鷹・ガイナックス。 

「彼氏彼女の事情」の作業で忙しい庵野秀明を訪ねて、 

二人の無謀者が訪れていた。 

「不思議の海のナディア」に関して、 

今の庵野秀明から何かを引き出せるのだろうか? 

希有馬:どうも、お忙しいところを。 

庵野:あんま時間取れそうにないすけど。 

希有馬:いや、別に全然構いません。 30分でも・・・ ・・・ええと、ずいぶんすっきりされましたね。

庵野:ああ、夏は鬱陶しいすからね。 

希有馬:なんか・・・・・あ、ええと、これ、みやげ物なんで。 

有馬:全然たいしたことない、そこら辺で買ってきたモノなんで。 

庵野:ああ、すいません。 

希有馬:······ 

希有馬:今やっぱ、カレカノで忙しいんですか?

庵野:ああ、忙しいっすね。 

どうしたの?(笑)

希有馬:いや、なんか……目の前にあると、なるほど進んでるんだなあ、と…… 

庵野 :んーま普通の、テレビシリーズくらい のスピードッスよ。 

希有馬:あ、そんなもんなんすか。意外と······時間 かけないって言うか・・・・・あの、庵野さん自身が前イ ンタビューで、もうアニメやらないよ、みたいなコト言ったときに・・・・・・ 

庵野:どっかで言ってましたっけ

有馬:なんか••••••システムが見えるんでイヤだって話を…… 

庵野 ああ、はい。 

希有馬 で、やるからにはなんか、勝算があってや るのかなあ、と、なんか・・・そう言うこと考えてたんすけど。 

庵野:まあ、勝算は別んトコにあるンすよ。勝算って言うか、やる・・・・・・なんかなあ、理由じゃ無いなあ、目的? みたいなものは・・・ 

希有馬別のところにあるって言いますと

庵野 ん!…………ひみつ(笑)

希有馬:(笑) 判りました(笑) 

庵野 なんかなー若いのに好きにやらしたいんすよ。エヴァって押しつけて作ってたから、 ま今回は、こういう原作だし、気楽にやれるし。

希有馬:じゃ、今回はあんまり口を出さないと? 

庵野 んーまあ、そうッスね。若いのが好きにやれればなあ、と。 

有馬:若いのって言いますと······ええと・・・・・・

庵野ああ、原画やりたい人は原画やればいいし、 これで作監やってみたい人は作監やればいいし、演 出やってみたいってのがいれば、じゃあ演出やってみたらって。 

希有馬:あー、なるほどなるほど••••••そいつはすげえや(笑) 

庵野 エヴァはもう、 コンテやれる人間ですら、 絞っちゃいましたからね。三人しか残んなかった。

有馬:あー······なるほど······で、今回は自由にや ってみようと。 

庵野 ま、できるだけ。時間のない中でまあ、 時間かけてちゃんと作るのは当たり前なんすよ。 

有馬:当たり前すか。 

庵野そら当たり前でしょう(笑) まあ時間の無 いところでどこまでできるかってコトですよ。2 年かければ、なんかなあ・・・・・・それなりのものはできるし。 2年あれば・・・・・・ 

希有馬:はあ・・・・・・ 

庵野:まあ、スタッフにそれなりの人がいればで すけど。 

希有馬:で、今回は、あのもう今更聞いてもしゃあないのかもしれないんですけど、庵野さんに、 ナディアの話を聞きに来ようかなあと、思って…… 来たんですけど・・・・・・まあ、もう完全に忘れてるでしょうってコトは、こないだ会場で聞きましたんで、 どうしようかなあと本当に思ったんですけどね・・・・・・

庵野:まあ結構忘れてますね・・・・・・ 

有馬:実は今日の朝観てきたんですよ。

庵野: ? 

有馬:ナディアを。 

庵野:ああ。 

希有馬:久しぶりに、半年ぶりくらいに。で、あの ですね、あのハマハマがどうこうって言うとこ ろから、ラストまで一気に、やっぱ観ちゃうん ですよねえ。 

庵野:はあ

希有馬;で、観るとですねえ…とてつもなく実は面白くて、こんなの失敗作だって言ったヤツは誰だ? 俺かあっ!? っていう……(笑) そこでちょっとだけ反省してみたりなんかして。やっぱ面白いですよ(笑) で、あのう······あの同人誌自体が、 なんかしょうがないから出したみたいなところがあったんですけど、やっぱいるんですよね、ナディア 好きって言うのが。 

庵野:ん……そうっすね…… 

希有馬:で、だから…… エヴァがあったからナディアっていうんじゃなくて、ホントにナディアが好き で、未だにナディアが好きって言う人たちがいて、 結構若い奴らにもいるんですけど、手紙が来て、その文面から「俺はナディアが好きやあ!」てのが溢れて来るんですよね。で、なんであんたそんなに好きやねん(笑)ていうアレなんですけどね(笑) あのう、そういうトコで、なんであんなにその、好きなヒトがいるんでしょうねえ、って言うのを、庵 野さんに聞いてもしょうがないんですけどね。 庵野さん自体はどう思いますか? その、未だに・・・・・・ 「ナディア!」っていうヤツがいるってのを。

庵野 んー…や、それは人の好きずきだから、言えたコトじゃないですけどねえ······

希有馬:ひひ(笑) 

庵野:それはそれありがたい話だと思いますけ ど。 

希有馬:ええと・・・・・・じゃあ、庵野さんは冷静に、ナディアの一体どこが受けたのかって分析できるんで すか? 

庵野:受ける……受けるねえ・・・・・・ 

希有馬:ていうか、つまりあの頃もう業界ナディア一色に染まってたじゃないですか。 で、すごいじゃあ良くできた作品かって言うと、穴は、まあ、そのう作った人目の前にしてアレなんですけど、 結構開いてるんですよね。かばかばどうしてこうなってるんだろうとか、構造上の穴もあるし演出上 の穴もあるし、またあのう、発注の、アレもあるで しょう? あの海外発注の画質の荒さとか。で、 それでも・・・・・・そんなもんさておいて、やっぱその、 全員が盛り上がったワケじゃないですか。で、ホン トは一番聞きたかったのはそれなんですけど・・・・・・ど うやって、そんなことができるのかっていう魔法をかけてるとしか、僕には思えない。 

庵野:んー……えっとですね、どうだったかなあ ……最初のアニメージュのインタビューの時に、結 当時のことは言ってたと思うんですよ。 ロングインタビューがあって······ ロマンアルバムに再録して ると思うんですけどね。 

希有馬:ええ。読みました。 確か、一番最初の段階では成りゆきで参加したという話ですけど······

庵野:成りゆき…まあ成りゆきっすねえ。あのねえ、えーと…ちょっと待って、思い出すから・・・ 

希有馬:(笑) ホントにホントに忘れてるんで すね(笑) すまんこって(笑) 

庵野:まあ「トップ」やってたんすよね。 ビデオ でで、ええと… 「トップ」やってるときに、僕 はもう「トップ」で全然知らなかったんだけど、井 上プロデューサーがNHKの方に、貞本と前田の絵でプレゼン出してたんですよ。 「ナディア」てのは 僕はもう、全然知らなかった。 まあ知ってても相手にしてなかったと思うんですよ。 それどころじゃな かったから・・・ 

希有馬:「トップ」で。 

庵野 ええ。 で、 やってて・・・・・・あの、まあ…… 「トップ」 って赤字だったんですよ、ウチの会社。

希有馬:え! そうなんですか!?!?!? 

庵野:まあ制作費決まってて、あと持ち出しって コトで・・・・・まあいくらかのアカが出ちゃったんです よ。 

希有馬:それ書いてもいいんですか?

庵野:まあアカが出たのはいいんじゃないです か? 具体的な金額は俺もよくわかんないけど、 結構な金額のアカが出ちゃって、まあそりゃまあそうなんですけど制作費をほとんど据え置きで、まあ時間だけかかっちゃってるっていうことは……あの値段であれだけ頑張っちゃいけない企画なんですよ。

希有馬:え······ いや、でも······そうなんですか?

庵野:ああ、商売考えたらそうなんですよ。 ウチの会社じゃなきゃやっちゃ行けないことですよね。 ただウチの会社だから、まあそんな無茶を出来たわけでよそなら、もう当の昔にストップかかってるでしょう。 

有馬:そんなに金かかったんですか? 

庵野 いや、そうじゃなくて、安いんですよ。 元々が安くて、その安い部分をウチがかぶるってい うんですか。 

希有馬:はー、なるほど•••••• 

庵野:制作費が決まってるんだから、後は持ち出 すしかない。 

有馬:あちゃー痛い話ですねえ……(笑) 

庵野:だから例えばその会社の維持費が、まあ何百万かかるとして、で、仮に本来だったら三ヶ月かかるところを、五ヶ月かかっちゃったとすると、 その二ヶ月分ってのは維持費だけは飛んでくわけじ ゃないですか。 

有馬:ええ。 

庵野:まあその維持費だけでも赤字になっちゃう ワケですよね。だからスケジュールは、タイトで短きゃ短いほどアニメは助かるんですよ時間がかかればかかるほど金がかかる。だから、セル枚数々 ていうよりは、それはあのう、たいしたアレになん なくてね、あのう、セル一万枚が一万二千枚になっ たところで、そんなにアカにはなんないすよね。 ど ちらかと言えばそれに伴う人件費なんすよね、アニ メーションの場合。 ほとんど人件費だから要する に、セル一枚にかかる動画のお金とセル画のお金だけじゃないですか。 それって、全体から見れば大したお金じゃないですよ。それよりはその二ヶ月他の仕事してりゃ他の仕事で儲かってるワケじゃないで すか。 

希有馬:それで、アカが出ちゃうんですね。

庵野:そう。で、その分の被害って言うのはわかんないわけでしょ。 

希有馬:ああ、その間仕事していたらどうだったか、 っていうのは、わかんないと。 

庵野:そうそう。 

希有馬:で、それでアカが出て・・・・・・ 

庵野:まあそう言うのも含めて、トップ全体はー今はもうわかんないんだけど、当時はアカだった

有馬:え!! 信じられん! 

庵野:そんで、プレゼン通ったところで、この話 が突然やってきてですね、で、えーとねえ…これは僕の見た風景ね。実際の他の人のはわかんないん だけど。僕が見た風景は、えーっと…まあ、とりあえず、次の仕事決めなきゃいけないっていうんで、 あの「トップ」が終わったあとで、井上さん がテレビシリーズをやりたいって言って、 で岡田さんは当時そんなに乗り気じゃなかったんだと思うんですよ。 

希有馬:なんでですか

庵野:儲かんないじゃないかなあ。

有馬:あ、やっぱり 

庵野:アニメやっててももうかんないって、当時 はゲームがちょっと始めた時期だったと思うんだけど、確か、ウチの会社が。 で、アニメよりゲームやった方が儲かるって。

希有馬;はあ・・・・・・ 

庵野:だから、アニメやめようみたいな話が、 まあ、その時はまだ無かったですけれど、段々そっ ちに移行しつつあるって、こんな時にテレビシリー ズやって、また赤字被って、まあ、どうなるんだろうっていう不安あったと思うんですよ。それも どうなったのかなあ、わかんないなあ・・・・・・ま、岡田さんとか井上さんが、どういうアレだったのかは、 ちょっと、俺の聞いている範囲では判らないですね。 まあとにかく、ウチで、この企画はTACが上なのね、だからアレも、NHKから、NHKエンタープライズに行って、NHKエンタープライズから 東宝に行って、で東宝からTACに行って、でTACからウチだから、ウチは孫受けの孫受けくらいなんですよ(笑) 

希有馬:(笑)前のインタビューの時には孫受け てことになってましたけど、それじゃあ曾孫受け、 個々孫受けくらいじゃないですか(笑) 

庵野:まあ、実際そんな感じなんですよ。だから あのう、なんかなあ・・・・・・それで、僕最初声がかかんなくて、まあ「トップ」やってたし、やんないだ ろうって言うのが向こうにあって。で、最初これどっかで言っちゃったかなあ? 言ったような気 もするんだけどわかんないな。言ったかどうかち よっと今わかんないけど最初は貞本が監督だっ たんですよ。 

希有馬:あ、そうだったんですか? 

庵野:でも、あの… NHKから来た条件がちょっと厳しいんで、降りちゃったんですよ。これじゃ出来ませんって。そりゃまあ、降りて当然だったんですけど。で、降りちゃった後、それでもこの企画だけは続けたいって言うことで、それでようやく僕 のところに話が来て、とにかくまあやってくれない かって言うんで、そん時は負い目があったんですよ。会社にね。トップで赤字出してるから。で、当座の金もいるってから。後はまあまだ29だったかな、あの頃。で、NHKのテレビの監督やれるってんだったら、まあ・・・・・・テレビシリーズは体力が 勝負だから、やるなら早い方がいいって思ったんですよね。 

希有馬:やっぱやりたかったんですか、テレビシリ ーズ? 

庵野:まあ、やれるウチにやっとく、ていう······

希有馬:で、引き受けた。 

庵野:ていうか、引き受けざるを得ない状況だっ た……でも、それがなんかね、あの······僕ン中でナディアが駄目な理由の一つなんですよ。 

有馬:途中から参加したって言う……? 

庵野:いや、じゃなくて、自分で本当にやりたくてやったわけじゃなくて…… 「トップ」はもう、こりゃあ勿体ない!てのがあって、自主参加みたい な感じだったけど、これはなんか、やらなきゃなあ、っていう、まあ人様のために、みたいな感じ だったんですよ。 

希有馬:・・・・・・なるほどねえ······ 

庵野:まあそれと、後はNHKから来てるのが、 もうこれはもうどっかで言っちゃってるからいいと思うんだけどNHKから来てるラフって言 うかプロットみたいな原案が、これがもうラピュタ そっくりなんですよ。 

有馬:んー(笑) 

庵野:まあ、これこのままやったらラピュタの真似にしかなりませんよっていう(笑) 

希有馬:ブルーウォーターっていうのはそこら辺で? 

庵野:いや、もう、基本設定はみんな向こう、NHKですよ。それをいじっちゃいけないっていう。

希有馬:え、そうなんですか······俺前田さんあたりが考えたんじゃないかと思ってたんですけど(笑) 

庵野:いや、デザインはこっちだけど、あの…… 設定的なモノは全部向こうですね。名前もそうだし

希有馬:ナディアって言う。  

庵野:そそそ。最初はアディアっていったかな。

希有馬:ナディア・コマネチから来たんじゃないん ですか 

庵野:いやいや、ウチから名前はなんにも出してないっすよ。 ホントの名前の方と、あとジャンの下の名前は必要だったんでこっちで考えたっすけど。 メインの人間の名前と設定その他は、全部向こうで すよ。 

希有馬:ネモ船長やエレクトラさんも?

庵野:エレクトラって言うのは向こうですね。

希有馬:ヘー、そうなんですか。実に決まってますねぇ・・・・・・で、制作に関わったのは、ロマンアルバム によると二話まで出来てる段階からって……?

庵野:僕が監督引き受けたときには脚本が二話まで上がってて、で、全体39本のプロットはもう決まってたんですよね。だから……最初からね、言い訳がもう、頭の中にあるんですよ。 

有馬:言い訳が? 始める前から? 

庵野:そう。ラピュタにしないようにすればいいっていう。出来るだけそれから外すようにするしか、 やれることがないって言うか・・・・・・ 

希有馬:なるほどねえ。 

庵野 だから………最初っからうまく行くはずがないんですよ。そんなんで。 

希有馬:うーむ……………(笑)じゃあ、全体のペース配分は? つまり、どこの話数まで落としてどこを自分たちで押さえるか、みたいなのも、最初のうちに決めてたんですか? 海外発注とか 

庵野:海外発注? 海外発注はでも、最初から動画から先は韓国って言うのは、もう、最初からその約束でそう言うモンなんですよ。三銃士とア レは、もうそれがベースなんですよ。 動画から先は 韓国って言うのは、もう決まってることなんですよ。 引き受ける前から、アニメはもう、そう言うコトに なってるんですよ。 

希有馬:ああ、それがシステム化されてるって言うことに。 

庵野:まあ、それに関しては。ナディアって言うのはもう、それが最初からレールの上に乗ってて、

希有馬:そーれはきついわ!(笑)良く引き受けましたね……って、引き受けざるを得なかったのか・・・ 

庵野:でも、見方に寄っちゃあラクなんですよ。 動画から先を全部、どっかで引き受けてくれるって 言うことは、そこに関してはこっちで面倒見る必要がないっていう。 

希有馬:でも、ある一定以上のレベルを保てないと、 やっぱ「トップ」観て庵野秀明を期待していたファ ンはーていう部分のアレはなかったすか?

庵野:でも、トップもほとんど、動画は向こうですよ。 

希有馬:あ、そうなんですか? 

庵野 今日本で、海外使わずにできることって無いですよ。どのみち韓国に行くんだったら最初ッからシステム化されてればそれはそれでありがた い。やってるウチにうまくなってくしね。 

希有馬:実際うまくなってますよね。 

庵野:うまくなってる。撮影の技術とか、かなり上がってるから。まあアレもねえ、一長一短なんで すよ。一概に全部悪いとは言えないです。いいトコ あるんで、そこは利用した方がいいです。

希有馬:いいところ。 

庵野:まあギリギリまで待ってくれるし後は、 なんだっけ・・まあ、デメリットもかなりあったけ ど、枚数が多くても文句言わないし、んー、結構メ リットもあったんですよね。なんかあるとしたら、 原画から韓国出さなきゃ行けなくなる瞬間からが厳しかったッスねえ。 

希有馬:ああ、じゃ、原画さえちゃんとこっちで押さえとけば、ちゃんとしたモノが上がって来るんですね。 

庵野:まあ割と。まあそれなりに。向こうも日本の国営放送と仕事をしてるって言うのは売りになる わけだから、そんな、手を抜いた仕事もできないッ スよ。だから、向こうとしてもかなりやってくれた と思いますよ。 

希有馬:じゃあ、あまり海外発注だったデメリットって言うのは、そんなに無かった? 

庵野:あ、デメリットもあったけど、 プラスマイナスで考えれば、最終的にはプラスの方が多かったと思いますよ。 

希有馬:はあ······じゃあ、 で、始まって…… 

庵野:まあ、後はいかにNHKの原作から崩していくかですよね。 

希有馬:それで取った道が「トップ」と同じ手法だ った、と言うことが以前のインタビューに載ってましたけど

庵野んー元々最初の企画が宮さんのパロディじゃないすか。じゃあ、宮さんのパロディになるくらいだったら、それじゃあセルフパロディの方がいいやという…… 

希有馬:(笑)また、○○になるくらいなら××の 方が、ってヤツですね(笑) 

庵野:でも、あのままだったら…どっからどう 見てもラピュタでしかなかった。 

希有馬:そのプロットの中に、最初から南の島編 やアフリカ編は入ってたんですか? 

庵野:入ってましたよ。 アレって、 ジュール・ヴ ェルヌの原作の、島に行くヤツ、あっちのほうも一 緒にしたいってわけで、その原作も、オチが実は無人島がネモ船長の秘密の補給基地だったって話なんですよね。そういうのだから、気球で旅行もしなき ゃいけないし、最後にはアフリカに行かなきゃいけないしー 

希有馬:すごい、全部忠実に守ってる(笑)

庵野:まあ、島はどうしても行ってくれってんで、 じゃあどうしても行きますって。で、行くにはどうしたらいいんだろう、ノーチラス沈めるしかないなあ、と。 

希有馬:え、アレは沈まない予定だったんですか?

庵野:沈まない予定だったんです。 

希有馬:えー、じゃあ······どうやって話を繋ぐんですか? 

庵野:だから、出ていく。 脱走する話だったんです。 

希有馬:はー。 

庵野だから、ナディアが他の人先導してノーチラスを脱走して、気球でその島に流れ着いたらそこがノーチラスの補給基地だったって言う…それはないでしょーっていう(笑) 

庵野:でもあの二つの原作を一緒にすると、 確かにそうなっちゃうしかないんですよね。 

(ここで一旦庵野監督の仕事の打ち合わせのために 一時中断) 

庵野:まあそんな具合に、大枠はNHKの方で出来てて、それはいじれなかったんですよね。

希有馬:で、ノーチラスを沈めるしかなかったと。

庵野:まあそれもなんかなー、結構弁を弄していったりとかしたんですけどね。最初はね、NHKのプロデューサーの人も、結構すごい剣幕とい うか、険悪なムードだったんですけど······途中でまあ、諦めてくれたって言うか••••••まあ、若いのにまかせようって言う感じになってくれたんですよね。 そっから後はラクになったんですけど。

有馬:どこら辺から……ですかね

鹿野 やっぱ放送スタートして、人気が出てからですよね。 

希有馬:数字を見て。 

庵野:数字とか、評判を見て・・・・・・ああ、これでい いんだ、って言う。それまでは、これがいいのかどうかわからん、っていうのがあったと思うんですよね。あと、自分でやりたかった企画だから、まさか若いのに乗っ取られるみたいなコトは、思わなかっ たと思うんですよね。だから最初の頃は、かなり抵抗してましたけど・・・・・・ 

希有馬:なるほどねえ・・・・・・ 

庵野:まあそれも、ちょっとずつちょっとずつ変えていくって言う感じでしたね。一話の脚本はさすがにほとんど残してないですけど、それも、よってたかって… 確か、脚本直しでやってても埒が明かないから、絵コンテの形にまで起こして、その第一稿みたいなコンテをNHKの人に見せて、で、これが通らないんだったら、僕にはもう監督は出来ませんっていう……でもう、スケジュール的に今更、N HK側としても変えられないんですよね。それも計算の上だったんですけど。で、もうしょうがな い、これでいいよっていう。それで路線変更。二話も……二話は半分くらいは残してたかな。三話は三 分の一くらい、っていうように、どんどんちょっとずつ消えていったんです、 元の脚本が。 

希有馬:第一話って、言っちゃなんですけど、無茶苦茶バラバラなイメージがありますよね。 とても第一話に見えない、ぎくしゃくして。 

庵野:あれはもう、なんか······なにやっていいの かわかんないって言うのが正直なところでしたね。 だから、やれることやっとこうという…それでも、 サーカスで出会わなきゃいけないし、三人組は出さなきゃいけないし、 

希有馬:あ、アレ三人組も決まってたんですか?!?!?

庵野:三人組は最初、おばあちゃんと息子二人で 

有馬:ぶう(爆笑) 

庵野:でブルーウォーターを狙うという・・・・・・

――なんか、鷲鼻のおばあちゃんが脳裏に浮かぶんですけど(笑) 

希有馬:そーれは、なんていうか・・・・・・(笑)

庵野:名前だけはその時の名残が残ってて、グランバアって。グランディス・グランバアって言って、 それでおばあちゃんなんですよね。 

有馬:弱ったなそれは(笑) 

庵野 アレもね、ラピュタになるんだったらタイムボカンにしてしまえっていう。 

有馬:ああ(笑) 

庵野:だからね、全部アレ、 比較級なんですよ。 ベストのものを見つける時間が無くて、全部ベター で作ってある。これよりはこっちの方がまだ気が晴れるとか、そういうレベルですよ。 

有馬:あと、エアトンについてなんですけど、あ いつも決まってたんですか? 

庵野:アレもそう。 原作にも出てるはずですよ。 ジュール・ヴェルヌって読んでないから知らないん だけど

有馬:あいつってなんでいるのかさっぱりわかんないキャラで、それなのに最後まで出てくるじゃ ないですか。 

庵野:アレも用意されてたんですよ。島に行った ら先に流れ着いていたって言う設定で決められてて。 確か原作のどこかにいると思いますよ。 

ーーーキャラの設定や、登場退場については、絶対にずらせないんですね(笑)

希有馬:はーなるほど・・・・・・なんだか見えてきましたよ、ナディアがどうしてあんなだったのか(笑) じゃ、次ですけど、34話でしたっけ、韓国から来た絵が全部使えなくて、自腹切ったって言う回。

庵野:ああ、はい。 

希有馬:あの回って、本当の話って言うのはどんなだったんです? 気球に乗ってナニやってたん ですか? 

庵野:••••••いや、あの頃は脚本は・・・・・・もう、 上がってきたの読んでなくて、 

有馬:ええっ?! 

庵野:脚本読まないでやってたハズだから、えー と、アレは一回もりさんに頼んだんだよね。ブロッ ト、それも一行しかないようなのを渡して、で上がってきたコンテをもう素通しで韓国に流して 「捨て」の回だったんですよね、もう。この回に関 してはナニもしない、っていう…… 

希有馬:最初からそうだったんですか。

庵野:34話に下駄を履かすヒマがあるんだったら後半に力を注ごうって言うね。だから切り捨 てたブロックだったんですよ。あそこは。

希有馬:なるほど・・・・・で、庵野さんとしては、ナデ ィアはやっぱ、軽く流そうとした作品だったわけですよね。 

庵野 最初は。 

希有馬:それが、軽く流せなくなった。なんでですか? 

庵野:まわりのスタッフが頑張ってたから。

(カレカノの脚本のチェックのため、一時中断)  

庵野なんだっけ?(笑) 

希有馬:えーと…… (笑) 

結局、スタッフが頑張るから、自分だけ流していこうと思えなくなったっていう。 

庵野:結局スタッフが本気でやり始めたら・・・ ・・・しょうがないっスよね。 

希有馬:しょうがない(笑) そう言う感じだったんですか、始めは? 

庵野:やるときは、最初は出来るだけラクしようラクしようと思うんですけど・・・・・・テレビですから、 どうしても経済的にも精神的にも追い詰まって行くから、だからラクしなきゃいけないと思って。あの時期にあそこでテレビシリーズやっておかないと、 テレビアニメダメでしたからね。 

希有馬:ダメでしたね。 

庵野:当時から、反対意見って言うのは結構あって。まあテレビであんなコトやんな、ナニ考えてん だって言うのはありましたし。 エヴァの時もそうだったけど….. 

希有馬:え? ナニ考えてんだ……?

庵野:ああいう仕事をテレビでしちゃいかんという。

希有馬:あ? ああいう仕事、っていうのはいい仕事のことですか?(笑) 

庵野:そうですよ。 

希有馬え、そうなんですか?!?!?! 

庵野:テレビは流さなきゃいけないんですよ。いい仕事しちゃいけないんです。 

希有馬:えーなんで······しちゃいけないんです か? だって…•••いい仕事すれば、LDとかは売れ るし、ファンは喜ぶんじゃないですか? 

庵野:いやあ、ファンは喜ぶかも知れないですけ ど、LD売れたって……なんかなー、戻ってこない じゃないですか。スタッフには。戻るのは金出した ところにで。ナディアで全然食えなくて、その後儲かったかって言えば作監に版権で少し行ったくらいで…… 

(バンダイビジュアルからお電話で中断) 

有馬:えーと、ですから、なんでいい仕事しちゃ イカンのか、って言う点を。 

ーー結局、そうすることによって…… 

庵野:バランスが崩れるからですよ。 一つに、お金が儲からないですよね。プロって言うのはまあ、 いろんな考え方ありますけど、その中の一つに金銭 に見合った仕事をやるって言う、千円の仕事は千円 の仕事、五千円の仕事は五千円の仕事って言うふう に、ギャラに合わせた仕事をするって言うのはプロ の考え方ですよね? 

希有馬:当たり前ですね。 

庵野:だから、そう言うのをプロとする人たちは、 こういうコトされると困ると。千円のギャラで、な んで一万円の仕事するんだっていうね。 

希有馬:で、やっちゃうと後から、こないだはあの 値段でやった、とか言われちゃうワケですね。

庵野:そうなんですよ。 よそのスタジオに向かって 「あそこはこの値段でこの仕事をしている。 なんで君のトコでは出来ないんだ」って言うとばっちりが行くわけですよ。だから、バランスは均衡は 破っちゃいけないと。 

希有馬:や、でも・・・・・・あの時期ナディア無かったら、 それこそセーラームーンまでオタクはなぁんにも見 るモノがなかったって言うか・・・・・・ 

庵野:だから、そう言う意味ではウチはアマチュアイズムだって言われるのはそこですよね。金銭の ことを考えないって言うか、よそのことを考えてない。 

希有馬:でも····そういうつまり、面白くないモノを量産すれば良いのである、って言う考え方だと、 段々縮小して行くだけじゃあないですか? 

庵野:まあそうなんですけど、でも・・・・・・でも世の中の大半って言うのはそういうもんなんじゃないですか?(笑) 

希有馬:まあ、そうなんですけどね(笑) 

庵野:だから、それが通常のシステムですよ。

希有馬:いやあ、でも・・・・・・なんて言うかなあ・・・・・・ 

庵野:縮小再生産は、アニメーションの宿命みたいなモンですね。 

希有馬: 宿命! 

庵野:今でも宿命みたいなモンですよ。 どう見ても衰退期ですからね 

希有馬:うーん……エヴァ終わった後、見るモノが 

庵野なんかな!星の一生で言えば、ちょうど赤色巨星ですよね 

希有馬:(笑) あと爆発するくらいしか無いじゃないですか (笑) 

庵野:あとはまあ、爆発して四散するか、ブラッ クホールになるか・・・・・・超新星かブラックホールか、 まあどっちかでも最後がありゃまだマシですよね

希有馬:はあ・・・・・・

庵野:なんにもならずに燃え尽きるという可能性もあるかも知れない。 

希有馬:いや······でも······庵野さんなんか矛盾して て、要は······庵野さんがそうやって面白いモノを作 ることによって、寿命が延びるワケでしょ、アニメ界の? 

庵野 いや、伸びてないすよ。大きい目で見れば縮んでると思いますよ。 

希有馬:縮んでる!?!? 縮んでますか……(笑)

庵野 少なくとも、エヴァの後ロボットモノは無 くなっちゃいましたね。 

有馬:ああ・・・・・・ 

庵野;ひとつ、なんか…………要するに、売れセンだったジャンルが、これで終わっちゃったワケですよ

希有馬:えー、でもなあ······ 

庵野:新しい物差しができるって言うのは、つまりそう言うコトですよ。 

希有馬でも······ エヴァのおかげで、他のアニメの 企画は通りやすくなったって….. 

庵野:いやそれも、最初の一回だけッス。

庵野:まあ、エヴァが当たって、今ならアニメが 儲かるって思っても、質の量産って出来ないわけですよ。良質のモノが出来るスタッフって決まってるから。

希有馬:それが痛いトコですよねえ…… 

庵野 ま、どこもそうでしょ。 TV番組24時間近くやってますけど、その中でじゃあ面白い番組って 何時間あるのか、とか。バラエティあんだけあって、その中で面白いバラエティはじゃあどれだけあるのかって。それと同じですよ。 バラエティはバラエティの分野で、面白いモノを作れる人は限られて て。小説にしたってそうでしょ。本は余るほどあるけど、その中にどんだけ面白い小説はあるのかっていう。アニメに限らないッスよ。 

希有馬:でも、アニメには少なすぎですよ

庵野:ゲームだってなんだってそうでしょ。どの ジャンルでも同じですよ。ただ、アニメが儲かってると言うか、イけそうに見えるからって、 他のジャ ンルの人が慌てて金かけたとしても、その掛けた金が返らないと思ったら、やっぱ新参の人はさっとや めちゃいますよね。 

希有馬:返ってきませんか。 

庵野:返ってきません。 

希有馬:返るんじゃ…………ないですかねえ?

庵野:どうして

希有馬:いや・・・・てゆうか今回は本数が多いと思いますけど・・・・・・ 

庵野:買う人間の数はだいたい決まってて、それで本数が多いって言うことは、そん中のどれか一つ しか買わないってコトですよね。今まで一つ買ってた人が、いっぱいでたからじゃあ七つ全部買うかって言えば、やっぱ買わないわけですよ。精々もう一個増える程度で。そうすると、残りの五つは売れないワケですよ。結局、40本アニメがあったとして、 そのなかでお金出してまで買おうって言うのは一本か二本なんですよね。で、十本のうち一本が二本だったら、まだ十分の一で済みますけど、これが40 本のうち一本だったら四十分の一になっちゃう。 残りの39本って言うのは、やっただけ撮って言うこ とになるわけですよね? 

希有馬:・・・なるほど

庵野:現に深夜アニメはほぼ全滅ですよね? 

希有馬:うー(笑) 衛星のシステムはどうですか 

庵野:衛星・・・・・・だれも見ないでしょ、アニメファ ン以外。だから、外に向かないでしょアレは。

希有馬:ダメですかあ······· 

庵野:現に何も声を聞かないじゃないすか。

希有馬:そうなんですよねえ(笑) 最近衛星のブレ ンパワードしか楽しみなアニメが無くて、あんなに面白いのにどーしてみんな騒がないんだ、って思ってるんですけど(笑) 

庵野 ブレンパワードは……1分半くらいだけ見たなあ…… 

希有馬: やっぱダメっすか? 

庵野:古かったッス。 

希有馬:そこがいいんだと思うんですけどねえ(笑) やっぱ富野世代なんで、「ああ、トミノだ」ってだけで見る理由になっちゃうんですけど(笑) 

庵野:それはVガンの時に味わったんで、もういいっすよ笑) 

希有馬:以前、Vガン本が作りたいってコトを言っ てたのは、やっぱその辺なんすか? 

庵野 いや、アレもねえ…………あの時期、アレしか なかったんですよね。だから、なんかな!結局、 押井さんが言ってるのと同じになっちゃうのかなあ 

希有馬:なんすか? 

鹿野:アニメージュの20周年記念本で押井さんがちょろっと言ってたんですけど、まあアレなんすよ。なんかねえ、なんて言うか・・・・・・ 逆シャアは面白かったんすよ、すごく。そんで、F91はまあ、それなりだった。あの頃、あんなに面白かったのって F91くらいしかなかったんすよ。他のアニメはあんまり面白くなかった。 その後は・・・・・Vガンと「お兄さまへ・・・・・・」くらいしかなかったんすよね。結局、 今になっても面白いモノを作ってるのは、出崎さんとか、あとVガンで富野さんとか僕らの中で 人気があるのって、セーラームーンじゃないすか。 まあアレは……キャラ人気とかそういうもんで、およそ文化として残すモンにはならないですよね。一 過性のモノだと思うんですよ。 一過性じゃないって 当時言ってた人もいたけど、アレはどうみても一過性ですよね(笑) セーラームーンを見ていた子供たちが、って言うけど俺はセーラームーンを見ていた子供たちではないので(笑)一般論ではない。

希有馬: そらそうだ(笑) 

庵野:要するに、当時あれだけアニメがあって、 面白いのはVガンと「お兄さまへ・・・」だけだったんですよ。結局、なんかな~····面白いモノを作り続けてるのは、あのおじいさんたちだけかって。 後は、当時アニメ誌にも結構言ってたんですよ。

希有馬:なにを? 

庵野:結局特にアニメージュっていうのは、 宮さんとガンダムとそういうアニメ文化の発信源 になってたじゃないですか、当時。 

希有馬:はいはい。 

庵野:アニメ誌で、いろいろやってたじゃないですか。コナンは見てたけど、宮崎駿っていうのはそんなに意識してなかったすからね。 そんな人の過去 の作品の紹介とか見て、「ああ、面白いのはみんなこの人がやってたヤツだ」 って思って、あと高畑勲って人が面白いの作ってる、と。まあ、富野とか、 松本零士とかは知ってたんだけど、宮崎駿のは作品は知ってても名前までは来なかった人だった。 コナンで初めて「ああ、こういう人もいるんだ」って 知ったわけで、で、そういうのをちゃんと認識させ てくれたのがアニメージュの誌面だったと。 アニメ誌が当時、そう言うのにもう見向きもしなくなって、 表層的な部分しか見ない、ただの情報誌になっちゃったんですよね。 

希有馬:そうですねえ。 

庵野:そう言う声優さんの本と、なんか情報を発する本でしかなくて、当時、Vガンダムを取り上げたとこってどこにもなかったんですよ。

希有馬:ああ、それで・・・・・・ 

庵野:あれだけのものが出来ていながら、アニメがまるで見向きもしない。 それで、渡辺くんがアニメージュに帰ってきたときに、それで、言って、ようやく富野さんとの対談って言うのをね・・・・・・とにかくのっけなきゃいかんて言って(笑) だから、一人で Vガンの応援してたんですよね。 

希有馬:(笑)

庵野:「今これを持ち上げなくて何を持ち上げる」 と。特撮ファンがティガに群がるようなモンですよ 

有馬「これしかないと。 

庵野:「これしかない」から、今これを持ち上げとかないとホントに無くなっちゃうって。だから、 Vガン時も、危機感なんですよ。 アニメはもうダメなんだろうなあって。 

希有馬:今でもそう思ってるっすか?

庵野:ああ、それはもう十年前から、ナディアよ りも前、トップの頃からずーっと思い続けてることッス。 

希有馬: エヴァのあの成功の後でも、やっぱり?

庵野 いや全然、なにも変わってないッスよ。

希有馬:そうかあ・・・・・・やっぱ現場は重いッスね・・・ 

庵野:逆に、エヴァが十年に一度の傑作だって言われたら、あと十年何もないって言うことですよね。

希有馬(笑)それは困りますねぇ(笑) 

庵野:ガンダム以来のヒットって言うことは、アレが二十年前だから、あと二十年待たなきゃ行けないわけで(笑

希有馬:そーれはキツいわ(笑) 

庵野:ヤマト・ガンダム・エヴァンゲリオンって コトは、三十年でこれしか・・・(笑)

希有馬:でも、それはヒットと言うことに限ってで、 面白い作品ってだけなら、他にも······ 

庵野 いや、世間はヒットが来ないと動いてくんないすからね。 

希有馬:それは難しい話ですね……(笑) 

庵野:まあ他は、宮崎アニメくらいッスかね。 

希有馬:まあ、それはさておき・・・・・(笑)んで、ナディアが終わったあとにですね、CDを何枚か出し てるじゃないですか。で、最後に「ByeBye Bluewater」っていうの作って、我々ファ ンが「ああ、これで終わりか」と、ほっと胸をなで 下ろしていたらですね、それから一年だか、二年だか経ってから、「ByeBye Bluewate 「2」ってのを出したでしょ、アレは一体なん でですか? 

庵野:あれは、なんでだったかなあ・・・・・・経済原理が先立ってたんかな、 

有馬:あ、やっぱそんなもんすか(笑) 実はこないだの年末に初めて知ったンすよ(笑) ナディア本作ろうと思って、じゃあ、ナディアの資料、今から手に入るだけ手に入れてみようと思って、 中古CD 屋に行って初めて知ったんすよ。 「こんなモンがあったのか!」って(笑)で、その頃ナディアファン だったって言う連中に見せると、みんながビックリ するんですよやっぱり(笑) 「こんなモンがあったのか!」って(笑

庵野:「2」はアレは、ボックスですね。

希有馬:ボックスのヤツを、単品で出したって言う 

庵野:えっとユーメックス(昔のレコード会社)なんかには、あれ、 ドル箱だったんす。 CD。あんなに売れたCDは、 ガンダム以来って言うか当時、ドル箱だったんす。あれはだから出し続けるのを宿命づけられちゃったんすよね。で、なんてのかなあ。ナディアに関して、僕にはなんも権利無いすよ。だからまあ、出さないでくれ、とは言えないんですねアレ。

希有馬:ああ、はあはあ 

庵野:まあ、リミックスだけはさすがに勘弁してくれって、アレだけは関わってないですけど、なん か、リミックスのヤツが出てるはずなんすよ。 アレ は一切関与してないっすね。さすがにもう、いいで しょうっていう……………(笑) だからアレだけは、なんもアドバイスもしてないっすね。 

希有馬:はー・・・出さざるをえないから出すのか・・・ 

庵野:箱で出す、で、新しくCD1枚入れるっていう時に、なんかな~・・・・・・CDだけはなんつーの、人に振りたくない、最後の砦だったんすよね。まあ、 LD出すのも、向こうの勝手なんですよ。 ビデオ出 すのも勝手なんです。 勝手に出されるくらいだったら協力して、少しでもこっちの、こう、気の済む方向にさせて貰おう、と。だから、おまけ劇場みたい のをLDに付けたのも、値段設定が、僕から見りゃ べらぼうに高かったんですよ。 

希有馬:わはは(笑) 買ったヤツがここにいますよ(笑)

ーーすいません、買いました(笑)

庵野:だから――こ、この値段はちょっと無いでしょ(笑) てのがあったんですけど、でも、 その値段設定も、こっちじゃどうしようもないでしょ。じゃあ、せめておまけくらい付けないとマズいんじゃないですか、って。んもう販促も、こっ ちの知らないウチに出来てるからね、テレカとか。 あずかり知らないところでどんどんどんどんナディアって動いてたんすよ。だから今出し直ししてんのも、もう知らなかったッスよ。

希有馬:えーアレも知らなかったんすか(笑)

庵野: だからもう、ホントになんの通知も来ない ッスよ、僕には。ま、関係無いんすよね。権利者じゃないから。まあ、ボックスで出すって言うときに も、そこに一枚CDを新たに入れる。 それはまあ協力しますけど、ボックスはともかく、出るときにち ゃんとバラでも出してくれって頼んだンすよ。 

希有馬:ああ、それでバラで出たんすか。 

庵野:で、バラも頼んで、で、あのう、 ボックス 全部買い直す人もいれば、中には新作一枚のため にっていう人も何割か、何パーセントがいるかもしれない。だから、その人たちが損した気分にならないように、ボックスで出すときに、バラもあるって告知してくれって頼んだンすよ。 

ーー今聞くとすごいドラマですよね(笑) 

希有馬:ひひひ(笑)

庵野:あれはなんかな子供っぽいのがダメだったんすよね。 

希有馬:子供っぽいのがダメだったっつうと・・・ 

庵野:だから、ナディアみたいな、ああ言う子供 っぽい、ガキっぽいのがすごくイヤで、しょうがなかった時期じゃないかなあ・・・・・・だからちょっと、なんか、大人な感じ大人な感じって、背伸びしてますよね、アレは..まあ背伸びしてて、 キャラクター 使わなくてもいいかって言う感じで、じゃあ好き勝手させて貰おうっていうことになって……

希有馬:そんで第二新東京市ですか(笑) 

庵野:アレは…………あの頃なんすよ、エヴァの最初の、ビデオの頃の企画書いてたのがちょうどあの頃 だったんすよね。だから、重なってるんすよね。

希有馬:なんか、ハタから見てると、継続して成長したみたいな感じがあって面白いっすけどね(笑)

庵野:ほぼ同時に企画やってましたからね。エヴァのひな形になるヤツ、ビデオ六本の時の企画とは。アレが第二新東京市の話にするつもりだったから、 まあ・・・・・・同じですよね。世界観的には引きずってますよ。アレにもリツコっていうキャラクターが出る 予定だったし。 

希有馬:なるほどね、そう言う事情があったんですか。

―庵野さんが言う、その「CDが最後の砦だ」 って言うのは? 

鹿野:アレは、えーと・・・・・・徳間の方で、小説まで出ちゃったんすよね、知らないウチに。

希有馬:(笑)

庵野:んもう、最初のノベライズの時には、まあ台本通りにした方がいいんじゃないですかって言ったんですけどね。あんまりオリジナルで作るとなん か・・・・・・ テレビシリーズを見た人が反芻するためのモンだから、ノベライズって…… 

庵野だから、あんまり変えない方がいいッスよ って。……あれもなー、なんかやっぱナディアん時ってみんな貧乏だったンすよ、ホントに。 で、直接現場に携わってない人ほどお金持ちだった んすよね。 

希有馬:はー(笑)

庵野:んであげく、知らないまあホントに知らないところで、なんか、書き下ろしの小説とかも徳間から出ててですねえ・・・・・・しばらく徳間の仕事しなかったからなあ・・・・・・ 

希有馬:あ、そんなにハラ立ちましたか・・・・・・

庵野:アレはハラ立ちましたね。感情論でしかないんすけどね、アレに関しては。 

希有馬:映画とかは……? 

庵野:映画も結局は、降りた形に。 

希有馬:あ、アレは降りたんすか。 勝手に、とかじ ゃなくって…..? 

庵野:時間的に無理なんすよ。東宝って「タッチ」 とかやってたじゃないすか。 あれ、テレビシリーズやりながら映画同時にやってましたよね。 で、映画で使った絵とかをそのままテレビに流用するとかし て、まあ、うまくやって両立させてるじゃないすか。

希有馬:ええ。 

庵野:僕にはそれ、できませんって。まあ映画になるのはもう決まってて、だから東宝が入ってるンすよね、アレ。東宝で映画化って言うのもセットだった、既に。だけど、それはちょっと勘弁して下さいって。テレビシリーズで多分無茶苦茶になって、 もうなんか、余裕無くなるはずなんで、同時に映画の作業なんかできんと。まあアレも、いろいろ紆余曲折あるんですけどね。最終的には、あのう、僕に話が来たときには、総集編ならやるって言って。 新作入れて四ヶ月でテレビシリーズ、あれ最終話に半年かかってるんだけど、だから、テレビの三分の二のスケジュールで、映画一本作れませんって言って。 

希有馬:まあ、確かに(笑) 

庵野:だから、クオリティが落ちるのはもう、目に見えてたわけだし、これをこなすのはもう、 テレビのバンクをがーッと使った上に、新作カットを入 れて、要するにガンダムにするしかないと。100 カット……150ぐらいの新作カットを入れて、うまく繋げれば、まあアレ元々35ミリだし、

希有馬:え、アレ35ミリだったんですか?

庵野:韓国には35しか無いンですよ。だからまあ、仕方がない。 16ミリがないんだし。 16ミリ に縮小プリントなんすよ。 

希有馬:ヘー、ビックリ(笑) 

庵野:だから、まあ••••••時間がないんだからって。 で、それはまあ、NG食らったンすよね。

希有馬:なんでですか

庵野:あのストーリーは、NHKに著作権があるって言われて、ああ、そうですかって(笑)

希有馬:うわー)それはすごい(笑) 

庵野:だから、同じストーリーじゃ、映画は許せって言うので。まあストーリーに著作権があるって、俺にはちょっとわかんないすけどね(笑) じゃあ、聖書がマルC取ったらどうなるんだって (笑) 聖書は全世界の脚本家の共有財産ッスからね (笑) ••••••まあ、それはどうでもいいや(笑) とにかく難癖付けられて、ダメだったんすよ。じゃあもう降りるしかないって。だからあとは、もう預かりしらんところで・・・・・・まあ、そうせざるを得ないんですけどね。 

希有馬:小説と映画は、じゃあまったく関知してな いところで進んで、しかも小説に至ってはまったく通知もなかったって言う…… 

庵野:まーそうすけど、本来はそうなんですよ。 権利のない、受けの雇われ監督みたいなところ に、いちいちね……でも、なんかなー、半分以上は こっちでやったっていう、自負みたいなのが当時あ りましたからね…まあ、今考えればほとんど感情論なんすけど、やっぱ、不愉快な気分にしかならないッスよね。 

希有馬: エヴァの小説は勘弁してくれって 言うのは、つまりそこらへんから……? 

庵野:エヴァん時は、それだけはちゃんとしよう って思ってたんすよ。幸い大月さんがそれを許してくれたんで、だから、エヴァでようやく「小説は出しません」って言えるようになって、CDもだし、 挙げ句の果てには、これでもう終わりです、って言えるんですよ。ナディアみたいに「ボックス出すから」みたいのはないですよね、これで。 そう言うコントロールも、ようやくこちらで出来るようになっ て。だから、ガンダムにもヤマトにもならないで済む(笑) 松本さんとか偉かったと思いますよ、今考えれば。「1」ってのは自分たちでやったハズなの に、知らないウチに、ねえ、なんかこう…(笑) 次々に(笑)あんまりいい気持ちはしなかったんじ ゃないかなあ、わかんないですけどね。俺もあんまりいい気持ちはしなかったから…… 

希有馬:なるほどねえ・・・・・・ 庵野さん聞いてると、やっばナディア好きだったんですね。 

庵野:んー、や、作品はそんなにキライじゃないですよ、滅茶苦茶だけど。 やってた自分が嫌いなんですよね。やっぱり、言い訳を最初に、ベースにしてるから、あんまりすきじゃないっていう……..

希有馬:やってた自分が嫌いっていうのは・・・・なんかこう、微妙な意見ですね(笑) 

庵野:作品自体は、僕個人でどうこう語れるものではないし…失敗した部分もあるけど、うまく行ったところもある。当時、あのスタッフであれだけのことができたっていうのもすごかったし、途中で樋口にバトンタッチして、またあとからっていうのも、結果としては良かったなあって思うしあっちの方が好きだって人も、まあかなりいますしね。

希有馬:樋口ナディアですか(笑)とたんにおかしくなりますからね(笑)おかしくと言うか、途端に底抜けになっちゃって(笑)今まで底があったと思ったのにあの辺は確かに面白いですよね(笑)

庵野 いええ。そーゆうのも含めて、テレビシリー ズのおもしろさだと思うんですよ。だから、そこを否定するつもりはないっす。 コナンとかもそうですよね。途中まで宮さんがやって、八話で矢折れ力尽きて高畑さんにバトンタッチして、やっぱ途中から 変わりますから、コナンが。 で、十六話からまた宮さんが帰ってきたら、また元に戻りますからね。だから、そう言う意味ではコナンも二重人格ですよ。 高畑さんの部分が、やっぱり半ば入ってる。 

希有馬:テレビシリーズの良さは、そう言うところにある? 

庵野:や、それも含めて良し、って言う。

希有馬:ナディアが未だに好きだって人が多いの は、やっぱそういうふうにして、テレビシリーズの 少しずつ、別の部分が見えてたっていうのがあるんですかね。そのうちのどれかが、今でも引っかかっ てて。カチンと 

庵野:んーまあ、そう言うのもあるとおもうんすけど。いや、嫌いな人は嫌いだろうけど。 

希有馬:あー(笑) あんなにわがままなヒロインは初めてだったし……(笑) なにしろ、今見てもどん な女かさっぱりわかんないッスからね(笑) 

庵野:……わかんないッスよねぇ・・・・・・アレはもう最初に出来ちゃってるところから、いじって行ってるから……根っこがないんですよね、キャラクターに。ジャンくらいシンプルだといいんですけど 

希有馬:あージャンいい男ですよねー(笑)いやもう、父ちゃんが死んだってことを知るくだりからこっちのジャンは、なんかもう言うことは明解になる上に、思いやりまであっていいヤツですよねー(笑) 庵野さんのワールドの中では、かなりいいヤツの部類に入るんじゃないですか、あの男は(笑) シンプ ルで(笑)典型的ですけどね、おかげで。 

庵野:ん~キャラクターはマンガだからステレオタイプなんですけどね。まあ、役割分担がはっきりしてるからですよね。 

希有馬:比較として、まっとうに見えると?

庵野:や、いわゆる「いいひと」の部分を全部あそこに持ってくっていう。ジャンとナディアって、 二人で一つの人格だから。 

希有馬:ですねー(笑)片方だけだとストーリーに なりませんからね(笑)ずっと一緒にいるし。 

庵野:そういう対の部分がはっきりしてたから・・・ ・・・ダメなキャラクターといえばダメなキャラクターですよ 

希有馬:(笑)いやー 

庵野:四話で、たしか答えを出しちゃってるんですよね。確か言わせてる。「僕には嫌いな人っていないんだ」って言わせてると思うんだけど、てことは 好きな人もいないってコトですよ。誰も嫌わないってコトは、誰も好きじゃないってコトだし。あのセ リフ自分で思いついたときに、ああ、これでこのキ ャラクターはできたな、っていう。 

希有馬:ああ、そう言う男なんすか、あいつは。 

庵野:要するに世間知らずっていうか。典型的ないい人ですよね。イヤなヤツだと思いますよ(笑) マンガん中だから許せるけど、あんな人間がそばにいたら殴りたくなってたまんないと思いますよ 

希有馬:わははは(笑) 友達づきあいはしやすいと思いますけど・・・)

庵野:んーでもまあ、要するに誰からも嫌われないけど、誰からも好かれない人間になると思うんですよね。 

希有馬:んー、そうですねえ…(笑) 

庵野監督、携帯に電話入る 

庵野:んでなんでしたっけ。 

希有馬:すいません、忙しいのに・・・・・えーっと、 イヤ実はですね、昔ガンダムブームの時にですね、 僕はまだ小学生だったんですよ。 で、世の中には二ュータイプ信者ってのがいて、で、あのう、ニュータイプの思想が本当にあるって信じて、それを論説してる人間がいるって聞いたときに、げらげら笑ったんですよ。だって、僕にとってはガンプラの題材でしかなかったワケじゃないですか。ガンダムってのが。で、そんなのっているのかねって思ってたんですけど・・・・・・まあさかこの歳になって自分が遭遇するとは(笑) 

庵野 そうっすねえ…………俺も、そんなん話に聞い ただけだったんですけどねえ、ニュータイプ論者なんてのは······ 

庵野:え? 

希有馬:自分が作ったじゃないスか笑) 

希有馬:いや、エヴァンゲリオン論者を。 

庵野 ああ···・・・まぁ富野さんも、そんな気は無かったんじゃないかと思いますよ。 いや、俺よりはあったかも知れませんけど。少なくとも俺にはなかったなあ・・・・・・まあ、世の中にはいろんな人がいるんだなあと。 

希有馬:なるほど(笑) 

庵野:なんかなー…言っちゃ悪いけど、あの程度じゃないすか。 エヴァって。 

希有馬:そ、そこまで言いますか!(笑) 

庵野:だって、あの程度ですよ(笑) アレで宗教だなんだって言うんだったら、ほんとに麻原彰晃てのは、なんかこうオウムって、初めて聞いたときには、もっとイイ物だと思ってたんですよ。イイ ってのは、もっとレベルの高い…

希有馬:あ、僕もそう思いました。 

庵野:なんか、戦闘集団みたいな感じだったのに、なんかこう、上佑さんとか、いろいろマスコミに出始めたら、みるみる化けの皮がはがれて行って

希有馬:あああ(笑)

庵野:あれっ、こんなに頭の悪いヒトタチだったのっ!?っていう(笑) 

希有馬:いや、僕はオウムって言うのは一枚板の組だと思ってたんですよ。麻原彰晃のもとに。 

庵野:いや、一枚板だとは思わなかったンすけどね。もうちょっと、組織の上の方の人たちって、イケてると思ってたんですよ。 

希有馬:僕ももっとシャープだと思ってて、

庵野:シャープって言うか、んー、なんかもっとこう、洗練された部分? 確信犯的にですね・・・ ・・・やると思ったんだけど・・・・・・まあ、サリンのやり方についてもちょっと、迂闊っぽいですよね。

希有馬:うかつ(笑) 

庵野:本気でやるならもうちょっときちんとやればいいのにって思う。 テロリズムにしてはアマチュアイズムっていうか・・・・・・ アマチュアっぽいですよね。 

希有馬:ええ。 

庵野:あとあの、麻原彰晃ってのが、これがまた、 みるみるうちに化けの皮がはがれていって(笑) え、この程度の人なの? って······なんかな…… アレで宗教にハマる感覚って言うのがわかんなかっ たっすからね。でも、エヴァ程度でコレくらいてんだから、ああ、なるほどって…….. 

希有馬:(笑) 庵野さん教祖になれますよ、今なら(笑)

庵野:いや! いいっすよ。 いやーいいっすよ。 

希有馬:好みのタイプの女ばっかりまわりにはべらしてですねえ(笑) 

庵野:んーでも、あの感覚を快楽と感じられれば、 多分なれるんじゃないかな。 

希有馬:快楽と言いますと? 

庵野:そういう、人が崇めてくるような感覚をね。 なんか、褒めてくるわけじゃないですか。素晴らしいですねって。 

希有馬:そういうのって快楽じゃなかったんですか? 

庵野:快楽じゃなかったっすねぇ。むしろ、なんか不愉快…・・・ 

希有馬:不愉快!?!? 

庵野:だから、先生扱いされるたびにいやな気分 がしてましたよ。 こないだも、新人の子に、監督監督言うから「監督って言うな!」って怒りましたもん。 

希有馬:なるほど・・・・・・ 

庵野:そういうのがなんかもう、すごいヤなんですよ。 

希有馬:心情的に 

庵野:ん、なんか・・・・・・全然いい感じしないッス ね。もう、もてはやされるのがイヤ。 

希有馬・・・・・・なんでですか

庵野:それに値する人間だと、自分で思ってないからでしょ。そのギャップがあるからですよね。

希有馬:じゃあ、あれですね。庵野さんよりももっ とナルシストの人が、もしもエヴァンゲリオンを作っていたら教祖になってた?

庵野:ん、なれたでしょうね。富野さんだったらなれたかもしれない。 ナウシカ作ったころの宮さんだったらなれたかもしれない。でもまあ······フィルム作ってるような人はみんなそうなんじゃないですか? イヤじゃない人が教祖になるんですよ。 か、 フィルム作れないような人が教祖になるん じゃないかなあ。 

庵野 フィルム作ってる人はなんか、そういう風 に行かないんじゃないかなあ? 別になんなくても いいやっていう 

希有馬:なんで?? 

庵野:なんでって面白くないからじゃないすか・・・

希有馬: フィルムを作っている……よりも?

庵野フィルム作っている方が面白いからッスよね。 

希有馬:はははあ、なるほど。 

庵野:教祖みたいの、なんかなナニがおもしろいんだろうって思いますよね。イヤな思いしかしないだろうし…… 

希有馬:つまり、なりたくないんですよ (笑) 

庵野:まあ、正直エヴァのテレビが終わったあと、一斉に排除にかかったじゃないですか。まとわりついてくるみたいのを。 

希有馬:ええ。 

庵野:あれくらい言わないと、なんかこう、嫌われないっていうのが。あと、あれくらい言わないと耳傾けてくれないッスよね、アニメファンって。

希有馬:そうっすか。 

庵野 いや、なんか……やっぱアニメファンって、 ある面ピュアなんすよ。ピュアって言うことは一つのことを純粋に信用しちゃうんですよね。そりゃあ、 なんかこう…いい意味ではいいんだけど、広い目で見たら、どうみても弱点じゃないですか。 

希有馬:「お前騙されるぞ、そのうち」とか、そう言うコトですか?(笑) 

庵野:まあ・・・判っててやってんのはいいんですよ。判ってない人が、やったらとなんかこう、目に付いたもんで…. 

希有馬:判ってない……? 

庵野:自分の位置と社会の位置というか世間の位置というかというのを、相対的に見れてない層とい うのが、やたらといたのが気になっていて。 

希有馬:つまり、公共の場でも騒ぐとか、そう言うヤツじゃなくて? 

庵野:じゃなくて、 

希有馬:自分の趣味が一般的だと思ってるとか。

庵野 まあそういうのもありますね。一般的だと思ってるのかも知れないし、もしくは、一般の人が 自分の高尚な趣味を判ってないんだという

希有馬:あっ!それはありますねえ!

庵野:じゃないでしょーっていう

希有馬:おいおいっていうか(笑) 

庵野:実に下らない趣味なワケでその下らないことを一生懸命やってんのがイイんだって(笑)  うわ、なんて下らないんだーっていうのがイイのに、 それを高尚な物だと思うのはちょっと、思い上がりも甚だしい 

ーーちょうど僕らくらいの世代の少し後からだと思 うんですけど、アニメ観るのが恥ずかしくない世代、っていうのがあって…… 

庵野:まあ、いますねー。 

ーーで、僕らそれ見てビックリしちゃったんですよ。 僕らなんかはアニメ観るのが恥ずかしいことだって世代なんで 

希有馬:あのですね、コレは僕の考えというか、まあ······普通の人はそう思うのかもしんないんだけど、僕にとってはオタクって負けてるんですよ、い ろんな物に負けてここに流れ着いて来てるんです よね。 

庵野:ええ、世間の負け犬ッスよね。 

希有馬:だから僕は、「こんなアニメ、好きだあ !」ていうのは恥ずかしいし、「こんなアニメで、 こんなにエッチなコトを描いてしまいましたっ!」 っていうのなんて、あんな人が集まるところでしかやれないワケじゃないですか(笑) 同好の士が集まる場所でないと(笑) それをですね、あろうことか 一般公道で話すのはおろか、まるで自分が最先端の モノに触れているかの如くに言うヤツとかがいるんですよ実際! 

庵野:ええ、いるんですよ。アレが格好悪くてですね。 

希有馬:勘弁してくれって感じで(笑) 

庵野:そうなんすよねもう。 オタクが情報の発信源みたいな勘違いしてる人たちがですね、なんかやたら多かったんで。アニメがなんか世界の、うーん、 文化の最先端って言ってるように見えるけど、僕から見れば一周遅れなんすよね。

希有馬:一周遅れ(笑) 

庵野:一周遅れだからなんかこう、 先を走っているように見えるだけ(笑) レースとか見てて、お、 あいつ速いなと思ったら、実は周回遅れでって言う (笑) 一位と競ってるように見えるんだけど(笑) なんか······あ! ニッサンがこんな位置にいるなん て!って実は周回遅れで(笑)だからまあ、 そう言う感覚が、僕はもうオタクにはあるんですよね。 

希有馬:で、それを…………おまえらが見てるのはこんな下らないモノだ、って言いたかったんですか?

庵野 下らないコトだ、っていうのを認識して欲しいっていうかいや、認知とか認識とかそんなんじゃなくて、なんかなー…… 

希有馬:成功しました? 

庵野 んーまあ、ある程度は。でも、それはもうどうでもいいんすよ。まあ、そう言うことで俺のそばに来るのがガタッと減ったから、それでいいっす。

希有馬:あ、なるほど(笑) 

ーーみんな心から、「そんなことはない」「アニメはもっとすごいモンだ」 って、言ってましたからねあの頃エヴァンゲリオン終わって、庵野さんがそう言ったのを聞いた後に 

希有馬:あっれでもしも、庵野さんが「俺は世界の最先端だ!」みたいなコト言ってたら、ああっと言う間ですよ笑) 

庵野:でしょうねえ······ いややっぱ、世の中には 教祖になりたい人と、なりたくない人がいるんですよ。あとなれない人が。なれない人は、もうしょうがないんで、誰かすがりつく人を捜すしかないですけどね。 依存するしか。 でも、俺は依存の体質には 耐えられなかったから…… 

希有馬:結局、それがいやだったんですよね?(笑)

庵野:なんかもー俺、「蜘蛛の糸」のカンダタの気持ちが良く判るんですよ。いろんな、なんかこう、 仲間がやってきて・・・・アレはもう仏様がひどいと思う(笑) 元々カンダタ一人を助けようと思って蜘蛛の糸をそれも、蜘蛛の糸じゃないですか。 アレ がナイロンザイルとかだったら、もう二、三人はオッケーかとカンダタも思うと思うんですよ(笑) で も、よりによって垂れ下がって来たのが蜘蛛の糸で、 そんなん見たらねえ······自分一人で上がってても、 いつ切れるのかしらんっていう恐怖と戦っているは ずなのに、それで、いろんな人間が山のように群がってきたら、そりゃあ、なんか落とすじゃないですか(笑)おまけに······なんかな 僕が法の基礎だと思ってるのは二つしか無いンですよ。 「カ ルネアデスの船」、目には目を、歯には歯をの 「ハムラビ法典」。あれこそが僕は、法として最低限のモノだと思ってるから。だから、カルネアデスの板から思えば、自分が助かるために他人を蹴落とす のは、モチのロンじゃないですか。それを否定したら国際法がもう成り立たないわけで(笑)なのに、 お釈迦様自身がそれを否定してる

ーー仏教思想の中では、それはダメ?(笑)

庵野というより、芥川龍之介の中ではダメだったんでしょ。あれはもう······アレを教科書にするこの国の感覚は、俺にはわからん、と。 どー見てもコ レは、向こうが悪いでしょう(笑) それがカンダタ が悪人になってて、こりゃダメだと。 こういうの教科書にのっけてる国はイカンなあと思うんですよ。

希有馬:まあ(笑) ……そうなんですけど(笑) 要は、みんなで一緒に助かった方がいいって、そう言う話でしょ?(笑) 

ーーでも、蜘蛛の糸だよ(笑) 

希有馬:ナイロンザイルにしとけってか(笑)

庵野 ええ。あれがナイロンザイルとかですね、 まだガンダムの手とかだったら、まあ、あと十人く らいは大丈夫かって、そう思いますよ。それが蜘蛛 の糸はないでしょうって

希有馬:わははは(笑) ••••••まあ、エヴァンゲリオ ンは蜘蛛の糸みたいなモンで、なんでみんな群がっ て来るんだろうと、そう言う感じですかね(笑)

庵野 まあ、そうですね。だから「あの程度のモン」なんですよアニメにしちゃあ良くできてる けれども、やっぱり「その程度」っていうだらけだし。あの、なんだったっけ、謎解き部分に 関しては、わざと開けてあるところもありますけど 

希有馬:あれでみんな、簡単に引っかかりましたよ ねえ。俺なんか、穴は開けるモンだとまで思いましたけど 

庵野:わざと開けてるところはありますよ。 リンクしないように、わざと矛盾があるように設定した ところが、二ヶ所か、三ヶ所 あれもね、なんか …………あれはどっちかって言うと嫌がらせかな(笑)

希有馬:嫌がらせって(笑) 

庵野:いや・・・最初のガンダムでそういう遊びをした人は面白いと思うんですよ。ファーストガンダ ムで語られていない部分を、どんどん埋めていって、 ルナツーってのはどうできててとか、ガンダムが宇 宙空間で動くのをどうやってるか説明して、なんかこう手足を動かしたら、その反動で動いて、これは推進剤を使わない分便利だって、エネルギーをつかわなくってっていう(笑) で、これはなんか・・・・・・いいこじつけだなあと思ったんです(笑) ザンジバル もホワイトベースも、あのまんまで突っ込んで行っ てですね(笑) 大気圏に突入するのがかっこいいと思ってたんすよ(笑) ガンダムにサランラップを巻いて大気圏に突入できる!ああ、これはいい! って(笑)

希有馬:わはははは!笑) 

庵野:ザクは燃え尽きるのにガンダムはなんで燃えないんだってシャアが不思議に思う、あの感覚が良かったんですよね。ガンダムのいいところってそこだと思うんだけど、それがゼータガンダムになってバリュートシステムとかいう余計なモンが付いて 格好悪くなってたじゃないですか。だからホワイト ベースも、あの格好で大気圏突入が可能な戦艦って いう設定が良かったのに、でも、ジオンは大気圏突入が遅れてるから、ザンジバルみたいなああいう丸 っこいやつでなきゃダメで、で、ザンジバル型でようやく大気圏突入が可能になったって。 で、 ホワイ トベースすごい!と(笑)

有馬:(笑) なにしろ、見た目で判りますからね、凄さが(爆笑) あんなんが大気圏突入するんですから(笑) 

庵野:え、なに、ガラスのトコにシャッター閉めたら、終わり? っていう(笑)••••••確かにガラスそのままはマズイでしょうけど・・ガンダムはサランラップだし(笑) まああれは銀とかでやればよか ったんだろうけど、アニメの場合銀って表現しにくいから。またはエネルギーの放射っぽいのとかを・・・ ・・・サランラップではなあ(笑) 説得力ないですよね (笑) 

希有馬:子供心にドキドキしましたけどね

庵野:耐熱フィールドつってまさかここからサランラップが出てくるとは(笑)

希有馬:(爆笑) 

庵野······あれが良かったのに、あっこからあとはなんか設定だけがやたら作られて… 設定マニア みたいのが出てきたじゃないですか。数値とかですね、なんか……ああいうのがな~ダメなんすよ。 ガンダムは18メートルだから、こういう風には見えないとか、いやその、どうでもいいじゃんって (笑)確かに人の大きさ、ここに乗ってるアムロとかから換算すれば18じゃないですけどね、どうでもいいじゃん! 1話で見てるアムロから換算すれ ば、あれ、30メートルくらいはあるんですよ。 比較すると。でも、あの大きさがかっこよく見えるんだから、それでいいハズなんですよ。だからエヴァ ンゲリオンもわざと、設定身長を出さなかったんですよね。 

有馬:スパロボで出たらしいですけど。

庵野 あの時には40~200って書いてありま すね。 

希有馬:んあ? 

庵野 まあ、一番小さく見えるときで40メート ルくらい、エントリープラグから換算すれば200メートルくらいかなあと。だって、エントリーブラグが首筋にこうささって、 こん中に人間がこれっくらいの大きさで入ってるってワケですからね。

希有馬:そう考えると滅茶苦茶でかいですね (笑) 

ーーかっこよく見えるために設定をいじっちゃうっ ていうコトを理解できないってのは多いですよね。 

希有馬:ああ、無理。飛べないっていうか…つまりその、「ヘンだろ、それ」ってのが先に立つんで すよね。 

庵野:そうなんすよ、だから気にしすぎなんすよね。普通の人はそんな気にしないのに。だから、 エヴァの場合はその辺意地悪くっていうか、言い方を悪くすれば・・・・・・馬鹿にしてるっていう。 ハナから。やるだけムダですよって。LDのライナーに 付いてる使徒図鑑みたいのも、あれも最初はやめたらって言ったんですけどね。どーやってもつじつま が合わないんだから。そんな風に、設定がいくつかリンクしないように作ってあるんですよ。これは負け惜しみとかじゃなくて、最初から、計算って言う か······こうすりゃもう、ダメだろう。このシーンっ てのは、それくらいいい加減にやってますよって言う(笑)誰が見てもこれじゃあ判んないでしょうっていう(笑) そういういい加減にやってるって判って貰えなかったかな、っていう(笑) ちょっと心外ですね(笑) 

希有馬:いや~それについてはあさりさんが「庵野秀明が、アンビリカルケーブルにオノが刺さると、 電気がたまってそこが膨らむくらいの演出をすれば、みんなが判ってくれたっていうのに(笑) あれはまだリアルすぎだ」って言ってましたよ(笑)

庵野:いやあそこまでやったらギャグになっちゃうじゃないですか(笑)だって、マグマにあの格好で潜るっていうアレでもうギャグっすよ。

――いや、俺たちはげらげら笑いましたけど

希有馬:んー、まあ、リアリティだよね

庵野:いやまあ、マグマの中が流動してるって言ったからって、こんな······あんなんじゃないですよね(笑) 

希有馬:いくらなんでもねえ(笑) あんなぶくぶく沈んでくのは無理だっつうの(笑) 

ーーマグマん中なのに、向こう見えますからね

希有馬:マグマの中で速い使徒って、なんだそりゃって(笑)

庵野:ねえ(笑) ちょっとみんな判ってよって 

希有馬:あー(笑)

庵野 あれもねえ・・・・・・山下くんとか、結構厳しい こと言ってて「マ、マグマに潜るんですか!?!?!」 つっ て、マグマっていう言葉はやめてくれって。マグマ ってのは個体の名称だからって。でも、それがいい のに(笑) マグマって言わなきゃ普通の人判んない よ) 

有馬:そうですねえ(笑) 

庵野:だから、ウチのやつはハードSFなんかじ ゃないですよね。まあ、それ言っちゃえば、昔から言われるように二足歩行の巨大ロボットの兵器運用性ってのは、もう、ハテナになっちゃう。 巨大ロボ ットがいる必要性から疑問になってく。 なんでそんなモンいるのっていうそれよりゃもっと、機動性 のいい戦闘機なんかの方がはるかにいいはずですよね。 あれよりはもっと、ちゃんと空を飛んで重火器を持たせて、の方が絶対にいいはずなんすよ。

希有馬:でも、それじゃあキャラクター性が無くな っちゃいますからね。 

庵野:まあ、ロボットにはなんないっすからね。 まあ、だからロボットモノって言う自体で、既にマ ンガなんすよ。 

希有馬:ゴチャゴチャ言うなと(笑)

庵野:ていうか、ゴチャゴチャいうたぐいのモン じゃないんですよ、 元々(笑) 馬鹿なことを、なん かこう、生真面目にやろうとしている、それがいい って言うのに(笑)最初のガンダムの良さ、マジン ガーの良さですよね。 

希有馬:はいはい。 

庵野:ガンダムでいいのは、あの微妙なバランス ですよね。ファーストガンダムは。ロボットモノと、 そこから抜けだそうとする力の微妙なバランスが良かったのになんでこう、Gアーマーとか否定するんすかね(笑) 

希有馬:(爆笑) いやあれ、富野さんもやりたくなかったって言ってるじゃないですか(笑) 

庵野:え、でもGアーマーいいよ。なんか、外枠から来ているロボットモノとしての宿命を、なんとどう回避しようかっていうあそこの葛藤がイイんですよね。アレを兵器として運用するっていう、 その無茶な(笑) アレを兵器として使用しようとす その心意気ってのが(笑) 

希有馬:確かになー、アレを与えられて、コレを兵器として使えって言われたら、困るよなあ(笑)

庵野でもま、兵器としてのMSを、作品中で否定しちゃってますからね。 MA出しちゃって。 ビグザム量産してれば良かったんすよ。 ギレンも、あん なところでレーザー作ってる場合じゃなくって(笑) 

希有馬:まあ・・・・・・これ以上長居しても・・・・・・じゃあ庵野さん、最後に聞きたいんですけど、庵野さんにと ってナディアって、今振り返るとどうですかね?

庵野 ん、まあ・・・・・・馬鹿なことやってたなあ、いっつもそれは思うんですけどね。 

希有馬:(笑)でも、今見る結構好きなんでしょ?

庵野:んーでも、やっぱりナディアやってる 自分が嫌いだから、多分見ないでしょうね。

希有馬:見られないですか。 

庵野見られないですねえ。 

希有馬:見てないんですか、結局? 

庵野:結局見てないす。LDの作業、アレが最後 

希有馬:じゃあ、ずいぶん見てないんですねえ。

庵野 んー、そうですね。六年くらい見てないか 

希有馬:もう見れないですか? 

庵野:見ようと言う気にならん、と。トップもそれくらい見てないですよ。 

希有馬:いつか見返そうかなあ、とか、そう言うのも今は……? 

庵野:今んとこないッスねえ。 

希有馬:見ると当時のことを思い出して辛いとか、 そう言う? 

庵野:いや、そういうんじゃなくて・・・もう終わ っちゃったから。 

希有馬:あぁ(笑) フィルム作ってるとそう言うコトってあるらしいですね。もういじれないフィルム に興味はないって言うか…… 

庵野:っていうか・・・・・・ああ、そう言えば、こない エヴァは一通り見直しましたよ。

希有馬:珍しい(笑) 

庵野 いや、アニメ忘れてるから(笑) どういうアニメやってたっけ、俺って。 カレカノやってると、 カット割りとかが実写になっちゃうんですよ。 カット 割りとか、カットとか。 

希有馬:実写のカット割り? 

庵野だから、「主観で全部動く」ああ、違う違う違う(笑) そんな、 こんなの主観でできない よ、とか。 

希有馬:あー(笑)アニメと実写で違う回路が必要になっちゃうん ですよね。 

庵野:そそ 

希有馬:ラブ&ポップの弊害っていうのもあったんですね……(笑) 

庵野:弊害って言うか、実写の方が今は好きだって言うのがあるんでしょうね。

希有馬:実写、面白いですか?

庵野面白いですよ。 

―これ終わったら、もう一度実写に……?

庵野 多分、これ終わったらまた実写でしょうね。

希有馬:ラブ&ポップ、アニメの人が実写って言うと押井守くらいしか思いつかないもんで、ああなっ ちゃうんじゃないかって心配してたんですけど いやあ、面白かったっすねえ。 

【感想】

見どころはエヴァの身長についての話やたびたび語っている「わざと矛盾点を入れた」っていう話。あとガンダムの話。エヴァの小説版は出さねえって話。(まぁ全部見どころだが)

ひとまずこれで全部終わり。最近上げたものを見やすく修正・要約する作業をすればコンプリートか。まぁでも「えっこの本に庵野監督のインタビュー載ってたの!?」ってのは後からゴロゴロ出てくるから見つけ次第上げるだろうなぁ… 

絶版本に絞っているからいいんじゃないかとは思うんだけどやってることは無断転載なんで版元に怒られたらいつでも消しますからねここ。

【R7.12.25感想】

貴重な話が多く面白いインタビューだが「いくら27年前とは言え同人誌に載っているインタビューを全文載せちゃっていいのかなぁ…」という罪悪感を感じる。希有馬さんこと井上さんは今でも現役の人だし)「ナディアの製作舞台裏」の話がすごすぎるのもある。

余談だがこのページはページをグーグルドライブでスキャンして文字起こしをしているのだが、希有馬さんの最初の希の字が高確率で飛んでいること、名前の後の:が高確率で飛んでいること、ところどころ文字がB字体になっているのも含めて誤字修正だけで7時間ぐらいかかった。疲れた。

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アニメージュ・スペシャル『GaZO』VOL.2「新世紀エヴァンゲリオン劇場版BOX(完全初回限定版)までの製作ストーリー)

エヴァLD&VHSBOXについての裏話。キングレコード内スターチャイルドレコード制作部ディレクター吉岡隆志氏の苦労話等(文:吉原有希氏)

・エヴァの最初のサントラCDは、はっきり言ってブックレットの中身がダサい。ミスはそのデザインをサンプル盤が上がってしまった段階で庵野監督が知ったことだった。【81】

・庵野監督は言った。「エヴァは、かっこいいんです。かっこいいものは、カッコよく見せなくてはいけないんです」。その口調は淡々としたものだったが、純度100%の怒りが充填されていた。【81】

・ここからリリースされるパッケージには十分注意する体制がガイナックスの中でも整っていく。【81】

・吉岡氏が庵野監督と本格的に作っていったパッケージの最初 が、シングルCDの『魂のルフラン』だった。庵野は「アバンギャルドなデザインでよろしく」と注文を出した。 吉岡はデザイ ナーの根津典彦と相談しながら、眼球の中LCLの海に漂う登場人物と、その中心で膝を抱える全裸の綾波レイをレイアウトした。【81】

・さらに吉岡は初回プレス分の特典 として、オリジナルカードダスマスターズ を入れ込んだ(炎の中を歩む初号機の絵) これがキングレコード商品と他社製品(この場合、セガ)とのタイアップの先駆けになった。 【81】

・吉岡は『THE END』のシングルCDのパ ッケージデザインを進めていた。 ガイナッ クスから「巨大化した綾波の原画を使おう」 という案が出された。 吉岡は原画のコピー にCG彩色を根津に依頼し、「エヴァの終わり」にふさわしい、『シト新生』を超える初 回特典用の仕掛けを施したいと思った。そこでLCLの海をイメージしたクリアーレッドのケースに入れるというアイデアを思いついた。 これは自分としては会心のヒットだと思った。

・それを監督に話すと、「ふー ん。 よくわかんないッス」と監督は言った。 本人の前ではあまり明瞭に人を誉めない庵野監督の中では、どうやら「ふーん」というのは誉め言葉の一つになっているらしい。【81】

・こんな風に吉岡はエヴァと共に歩んできた。 その最後を飾るパッケージが「新世紀 エヴァンゲリオン劇場版BOX(完全初回限定版)」だった。【81】

・貞本義行が描いたボックスの ジャケットイラストは感動的だった。彼はパソコン画面をしばらく呆然と眺めていた。そして(ボックスの全体も赤と黒のイメージでいこう)と決め、具体的な作業に入っていった。 【81】

・同封された特典はこれまでに類を見ないものだった。 この商品のコンセプトは1998年の初夏に、庵野・大月・佐藤(ガイナックスPD)の3人でわずか30分ほどの話で決まった。(場所は中野ブロードウェイ内の喫茶店)。

・庵野監督が「もうTV版とカップリングで(劇場版が)出てるので、 これは儲けを考えないで」と最初に切り出し、大月PDの「予算内でなんか特典いっぱい付けてあげようよ」の発言を受けて、 佐藤PDが「今までこの作品を盛り上げていただいた各社から、記念アイテムをひとつづつ用意してもらいましょう」とリストUPを始めた。結果、「最後の商品にふさわしいものに」「劇場版を全て収録の春・夏4枚組」「クリスマス発売なので、おもちゃ 箱のイメージ」「限定グッズブームに対するカウンターになるアイテム」などのコンセプトが決定し、佐藤は各メーカーに企画を 説明し、準備を進めた。 【81】

【感想】

庵野監督がサントラ1のダサさにキレたという話がめちゃくちゃ印象的。これはパッケージがダサいということ? それともブックレットの中身? 読んでる限り後者っぽいが…(自分は旧エヴァのサントラはS2WORKSしか持ってないので…)

この記事を読むまで庵野監督は本編だけにしか興味がなく、関連商品のデザイン等はノータッチなのかと思っていたのだがエヴァというコンテンツにおいて庵野監督はかなりデザインにこだわっているのだなと感じて超印象に残った。

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アニメージュ・スペシャル『GaZO』VOL.2【特撮リレー対談 庵野秀明×岩井俊二】

庵野 怪獣映画はもう時代に乗らないんですかね。 アメリカ版のゴジラとか、ウォール街をバシバシ走るあの動きの速さ。すごいですよね。日本のゴジラはゆっくり歩くというイメージがあり ますからね。あのスピードで来られたらちょっと怖いです。【49】 (関係ないけど筆者もエメゴジ割と好き。面白いと思うんだけどなぁ)

庵野 日本でゴジラを作ってる人って、 最初の「ゴジラ」を見て育っているから、 あのインパクトが抜けてないんだと思うんです。 初代「ゴジラ」の呪縛から逃れてないんですよね。そういう人は「ゴ ジラ対メガロ」を否定するんですよ。「メガロ」は一つのエポックだと思うんですけどね。 ウルトラシリーズ で「タロウ」を否定するように、ゴジラシリーズではこぞって「メガロ」を否定してしまうんです。本当はあれも「ゴジラ」なんだと、現実を直視しなければ駄目なんですけどね。 【49】

岩井 僕が劇場で見た最後の「ゴジラ」 でしたけど、 「流星人間ゾーン」 の亜流版みたいでしたよね。 

庵野 僕は「ゴジラ対メカゴジラ」も燃えましたよ。でも僕もあの辺から途切れちゃいました。 【49】

岩井 しかしゴジラがハリウッドで作 られるということは、それだけ認知されているということなんですかね。

庵野 ゴジラって日本では、大砲を撃っても死なない、生物としてじゃなく神様みたいな存在ですからね。でも日本人ってそういうものを許容してしまうところがあるんですよね。ウルトラマンにしても、アメリカ人やヨーロッ パ人が見たら理解できないと思うんです。銀色の巨人がミニチュアの舞台に立って怪獣を倒すようなものに、リアリティは感じられないですから。【49】

最初の頃の「ガメラ」って、 子供の味方という安心できる形で登場させているのに、闘うと必ず血を噴いてひどいやられ方をしてたんですよ。 そういうのはゴジラシリーズになかったですから、子供心に刺激が強かったです。 でもそれが「ガメラ」の魅力でもあったんですけどね。 【49】

岩井 頭に包丁がついてたギロンとかにいろいろなことされてましたよね。 

庵野 頭が出刃包丁で、耳から手裏剣が出る。あれは子供が考えた怪獣みたいでいいデザインでしたよね。 【49】

岩井 「ガメラ」がリメイクされた時に、 闘う相手がギャオスだったのは、嬉しかったです。結局、昔の「ガメラ」でも ギャオスが出てくるのが一番よかったですから。 

庵野 ガメラシリーズの中でも、ギャ オスの話がやっぱり突出してましたよね。脚本も、特撮もよくできてて。 あの子供の命名の仕方もわかりやすくてよかったです。 「ギャオー」と鳴くからギャオス。 生き物としてもリアルでしたね。火が苦手だから体内に火の対処方法を持っているとか。昼間は絶対に外に出ないとか、生命を食べちゃうとか、よく考えられてましたよ。血の匂いが好きで、人工血液でも匂いさえすればやって来るとかも。 【49】

岩井 体内血液が子供心に気持ち悪かったんですよね。あとギャオスが人を食べちゃうのが、子供心にショックで。

庵野 人を食べるというのは怖かったですよね。特にギャオスの巣を覗いたら、人を食べてる最中だったというの は強烈でした。 ゴジラが怖く感じないのは、生き物として何か食べてる感じがしないところなんですよね。放射性で物質を食べてるといっても、実際に生き物を食べないと見ている方としては 生き物と思えないですよ。 「サンダ対ガイラ」も、あの大きさで人を食べるという行為が怖かったわけですから。 ビアホールで歌ってる人をいきなりつかまえて、ペロッと食べて、その後に靴だけペッと出すとかね。 【49】

庵野 「ウルトラマンタロウ」とか「ウル トラマンA」は、子供の頃ダメだったんですよ。でも今は「A」も「タロウ」も結構面白いし、いいとこあるなぁと再評価みたいな感じはありますけど。【49】

庵野「ウルトラマン80」の特撮ク オリティはよかったですよ。(しょっちゅう言ってる)【49】 

岩井 庵野さんは、怪獣映画をやろうとは思わないんですか。 

庵野 特撮がメインじゃない、特撮のある映画は作ってみたいと思っています。僕は怪獣にはあまり魅力を感じないんですよね。「ウルトラマン」とか見ていても、ウルトラマンの相手として 怪獣がいるっていう程度にしか見ていなかったんです。だからウルトラマンという巨大ヒーローにしか思い入れがないんです。 【50】

庵野 「ガメラ」も見てましたけど、そこまではハマらなかったですね。僕はメカ派でしたから。だから「怪獣大戦争」とかも見ましたけど、気持ちはメカの方ばっかり向いてましたね。  【50】

庵野 ウルトラマンはインパクトある宇宙人ぽいデザインでしたしね。 ウルトラセブンもいかにも戦闘的な感じがして好きでした。 【50】 

庵野 「ウルトラマン」っていうのは、 すごい発明だったと思うんですよ。でもその後に出てきた巨大ヒーローは、結局どれも「ウルトラマン」の亜流でしたからね。アレンジバージョンにしか過ぎない。この辺でそろそろ大人向けの何か新しいエポックなものを出したい ですよね。9時、10時台のドラマ枠で そういう特撮メインのものができたらいいですよね。「ER」みたいなドラマでも何でもいいから何かできないかなあと思うんですけど、大人向けの特撮 で。 【50】

【感想】

エヴァに関する話はなかったっすね。

でも庵野さんが後に撮るゴジラとかウルトラマンに関する話が載ってたから大事だなと思って…。

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アニメージュ・スペシャル『GaZO』VOL.2【特撮リレー対談 川崎郷太×庵野秀明】

庵野 僕が「ガメラ3」のメイキングを撮る趣旨としては、日本の特撮の総括とまではいかないんですけど、現状認識ぐらいはしておこうというのがあったんですよね。それができると、 この 先の方向性みたいなものに対して、 どうすればこの先よくなるのかなあとか少しは見えてくるような気がしたんです。 それと特撮周辺のうっとうしそうな環境も、できることならルポルター ジュしておきたいと思ってましたから。【41】

庵野 日本の映画でこれから先メディアとして生き残ろうと思ったら、イベント・ムービーしかないと思うんですよ。つまりテレビの延長とか、あとは最初からお祭りとして打ち出さない限 り、客はもう劇場には来ない。そういうところまで来てしまっていると思う。 日本映画というだけでもう何かレッテルが貼られてしまっているところがありますからね。【41】

庵野「平成ゴジラシリーズ」なんか、名前にあぐらをかいて映画を作っていた 感じがしましたからね。要するに一時期の「ガンダム」と同じですよ。「ガンダ ム」という名前がつけば、何でも売れるから中身に対する切磋琢磨というのが、 まるでなくなってしまったんですよね。 【41】

庵野 宮崎アニメが何で当たるかとい ったら、男が女の子を誘って外さない 映画だからなんですよ。 映画が当たる秘訣というのは、そういうところにあると思うんです。 「タイタニック」なん かまさにそうですよね。むしろ女のほうが「あれ見たい」って誘うでしょ。 今、 映画は1800円ですから、男が両方 払ったら3600円。3600円払って2時間つぶして、それでつまらなかったら、その後のフォローは大変です よ。3600円の投資に見合うだけの快楽に導いてくれるスタンスというものを、そこで与えて欲しいはずなのに、 3600円損するわ、その後の食事はまずくなるわ、肝心かなめのコースには行けなくなるわでえらい騒ぎですよ。 【42】

庵野 「ガメラ1」は、確かに砂漠化していた特撮界に、いきなりポンとオアシスのように出現したという感じはありましたからね。 【42】

川崎 本当にポンッと出てきましたか ら、見ていてびっくりしました。

庵野でも樋口はあれに人生かけてましたから、当然といえば当然の結果なのかもしれない。古い言葉ですけども、 あの映画で僕は樋口の男を見た気がしたんです。 初号の時にこっそり紛れ込 んで見てきたんですけど、泣けました。 樋口の仕事に泣かせてもらったという感じがありましたから。【42】

庵野 僕が宮崎さんのところで仕事をしていた時に言われたことなんですけど、多分、毛沢東の言葉だったと思うんですけどね。「何かを成し遂げるためには、三つの条件がある。その三つが そろっていれば、 成功する」って言うんです。その三つというのは、”無名であること”貧乏であること若者であること、なんです。 「ガメラ1」はこれが多分そろっていたんじゃないかと思うんですよね。みんな貧乏で、無名で、若かった。だから成功した。【43】

庵野 僕、最初の「エイリアン」 って、すごく好きなんですけど、あれも着ぐるみですよね。ああいう着ぐるみが、なぜ日本にはないのかって、公 開された当時は思ったんですよね。

最初の「エイリアン」しか好きになれなかったんですよね。あとは全部駄目なんです。特に「エイリアン2」と か、「俺のエイリアンをこんなふうにしやがって」という感じがあって(笑)。 何か仮面ライダーの再生怪人みたいで、嫌だったんですよ。 【43】

川崎(笑)。でも「エイリアン」は当たりましたね。「3」で終わったと思ったら「4」まで作られて、すごいですよね。

庵野そうやって先端文化をいくアメリカにしても、日本にしても、作り手は、もうリサイクルの時代に入っちゃってますよね。この間、ワイドショー かなにかで、どこかの教授が「リサイク ル文化」っていうことを言ってたんですけど、これはいい言葉だなって思いました。現在の「ウルトラマン」にしても、 「ガンダム」にしてもリサイクルですか ら。【43】

庵野 結局、僕らが子供のころ見て乗り損ねたと感じていたものに、大人になって作り手として参加しているだけなんですよ。だから何か新しいものを作ろうと考えた時に、僕らは最初から作るということをしない。でもそれは仕方がないことだと思うんですよ。 「ウルトラマン」を見て育って、「ウルトラマン」みたいなものを作りたいと思って 特撮業界に入れば、その人がやりたいものは「ウルトラマン」なんですよ。今、 円谷プロがやっていることはそういうことだと思うんです。だから僕の書いた「ウルトラマン」を見て下さいという のが、「ティガ」だったと思うんです。それは僕らの世代の宿命みたいなものだ と思うんですよ。この呪縛からは決し て逃れられない。本当はその鎖を断ち 切りたいところではあるんですけどね。【43】

庵野 僕から見れば特撮ってもう沈んでいく船なんですよ。 タイタニック号 に乗っているようなものです。 【43】

庵野 「ガメラ」にしても、根本にな っているエネルギーって、本当は「ゴジラ」で何か新しいことをやりたいのに、 何もできそうもない。だったら「ガメラ」をやろうっていうところにあるんじゃないかと思う。それは僕から見れば、 「ガメラ」を「ゴジラ」の代用品として使ったということでしかないんですよね。 金子さんにしても、伊藤さんにしても、 樋口にしても、本当にやりたかったの は、「サンダ対ガイラ」だと思うんですよ。あれをやりたいのに、チャンスがない。しかも東宝より大映のほうが自由度が高い。それじゃあ大映で自分たちの好きなことをしようっていう感じだったんじゃないかと思うんです。だとしたらはっきり言って彼らは 「ガメラ」の名前を利用しているだけだと思うんです。でもそれだけの報いを彼らは受けていると思います。 だってガメラはキャラクターがカメなんですから。本人たちがいかにその世界観でカメを否定しようが、僕から見ればただの立ってるカメなんです。 カメが立っていて絵になるかっ ていうことですよね。【44】 

庵野 だから伊藤さんと、金子さんと、 樋口が持っている真面目さが、あれを 紙一重でギャグにはしなかったんだと思うんです。ほかの人がやっていたら、 多分ギャグになっていたんじゃないかと思います。所詮、カメですから。それを凌駕するだけのパワーをあの3人が 持っていたということだと思うんです。【44】  

庵野 つまり何とかカメにしないようにしようという意図的なものが、 画面に反映されているんですよ。それが紙 一重でギャグにしなかった。【44】

川崎 子供はいわゆる昔ふうに怪獣プ ロレスというのが見たいんでしょうか。

庵野 もうそういう感覚はあまりない と思います。 

庵野 だいたいプロレス自体がもうショーとしてすたれかかっている感じがあるじゃないですか。 「ウルトラマン」 が時代遅れだと思う一つの理由は、カで解決しようとしているところにある と思うんですよ。怪獣を光線でやっつけて終わり。要するに力なんですよね。 でも今は力じゃ何も解決出来ない複雑な世の中ですから、その現実とのギャ ップがすごく大きいんじゃないかと思うんです。 【44】

川崎 絶対正義がない時代なのに、ウルトラマンが絶対正義だと言っちゃうところでのお話が作りづらいんだろう と思いますね。 

庵野 確かに、そういう妙な決まりごとがあると話は作りづらいですよね。

川崎 ウルトラマンの存在自体がうさ ん臭いという気がしますよね。 

庵野 ウルトラマンという存在、ヒー ローという存在が、今はもうちょっと 厳しい感じがしますしね。だからもう単体ヒーローはちょっとあり得ないと思うんですよ。まさかウルトラマンを 神にはできないですし。【44】

庵野でも特撮ファンから見れば、ウ ルトラマンは神様みたいなものなのかもしれませんよ。 

川崎 僕はそれで叩かれたことがありました。これじゃあウルトラマンが人みたいじゃんって言われて(笑)。

庵野 特撮ファンってそういうところ があるんですよね。初代の 「ウルトラマン」と「ウルトラセブン」しか認めてないんですから。そういう人たちは、「帰っ てきたウルトラマン」をとことん 駄目だと言うんですよ。それって何でかなあとずっと思っていたんですけど、 要するに「帰ってきたウルトラマン」っ て、神様じゃないんです。人なんですよね。だから駄目なんだろうなあっていう結論に達したんです。【44】

庵野 評論家ってサポーターですからね。自分たちがコアになれないからその周辺にいて、何とか自分たちのアイデンティティを、そこにしがみついて保とうとする人たちが評論家なわけですから。 「ウルトラマンティガ」は最終回で、 誰でもサポーターになれる。 誰でも光になれるっていうことを具現化していたじゃないですか。だからそういう人たちに受け入れられた。 

でも実際にはそんなことはないんですよ。 才能ある人間しか光になんかなれないんですから。 だから「君もあなた もウルトラマン」って、最後に言ってましたけど、あれってJリーグを応援しているサポーターが、選手がゴールキックを入れた瞬間、自分が入れたような気持ちになるのと同じことだと思うんです。 つまりそこに同化することに よって、自分のアイデンティティを保 つことが出来る人たちなんだと思う。【44】

庵野 あれは「ウルトラマン」を作りたかった人たちが、 ウルトラマンになるにはどうしたらいいんだろうというこ とに対する答えだったんだと思うんです。それがウルトラマンと同化すると いうことだったんでしょうね。【44】

庵野 特撮ファンにしたら、この世の中では生きていけないからウルトラマ ンに何とか救ってもらいたいということなんですよ。 【45】

川崎 本当にウルトラマンに来てほしいんでしょうね。 

庵野 そうだと思いますよ。もしくは 自分がウルトラマンになりたいんでしょうね。「俺にフラッシュビームがあれ ば・・・・・・」という感じだと思います。 そういう感覚は、僕も持っていたんですけど、今はそれが嫌になっちゃった。 そ れで脱落したら、脱落組に烙印を押されてしまった。だからそういう人たちには「エヴァンゲリオン」は絶対受け入 れられないと思いますよ。「エヴァンゲリオン」って、その部分の否定ですから。そういう自分がいることを認めた 上で、否定していますから。何か別の ものが欲しいという人たちには変革は 許せないんですよ。 特撮ファンがヒス テリックに「エヴァンゲリオン」を批判するのは、多分そういうところなんだろうと思うんですよね。【45】

少なくとも「ティガ」の最終回を好きな人は「エヴァンゲリオン」は 駄目だと思うんですよ。僕が「ティガ」 で納得できた話って、結局、川崎さん の作品だけでしたから。だから僕にとって「ティガ」は川崎郷太だったんです。 【45】

庵野 「ティガ」も、「エヴァンゲリオン」も、 認めているところは同じだと思うんです。ただ答えの出し方が違う。「ティガ」 は夢に逃げていって、「エヴァンゲリオン」は現実にもどろうとしたということ だと思うんです。 それで僕はまるっきり夢物語を語るというのは嘘だろうと 思ってますから、そういう「ティガ」の 最終回みたいなものを見た子供には、期 待するなって言ってやりたくなるんですよね。しかも「ティガ&ダイナ」では、 「そうか、あれは夢じゃなかったんだ」 と、まるっきり「ティガ」の最終回を否定しているようなことを言っています からね。ちょっと許せない感じがあるんですよ。【45】

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庵野秀明 アニメと実写の映像革命(KAWADE夢ムック)

発売日:2004年5月26日。主に実写版キューティーハニーについての特集。

庵野:「『エヴァンゲリオン』をもう一回やります」と言えば十億円以上、すぐに出ると思います。けど、「実写をやる」と言ったらそこまでは出ないんですよ。実写だと「庵野さんは実績がな いから作れない」と。そこが大きく違います。 実写だとまだまだ予算がもらえないですね。【31】

庵野:今は実写を作るのが面白いんですよ。あと、ア ニメは”頭の中〟にあるイメージを絵にして作るもの ですけど、実写は”頭の外”の、現実空間にある素材 を使って作るものなんですね。今は外界の影響で変化する実写映像の方が面白いですね。【31】


庵野:『THE END OF EVANGELION」 を作っている時に、「もうこれは実写でなければダメだ」という結論に行き着いて、アニメだけじゃなくて特撮の現場もやっている樋口真嗣に相談したんです。その時に樋口から実写のスタッフを紹介してもらって、甘木 プロデューサーと知り合ったのが良かったですね。僕が実写をやれる環境をそこに用意してもらえましたから。

庵野:まあ、全ての始まりは「エヴァ」の実写をやったことですね。 実写を続けている理由も、「エヴァ」の時にぜんぜんうまくいかなかったことが大きいと思うんですよ。結局、撮ったものをみんな捨てちゃいましたから。その時の復讐をまだやっているんだと思います。【33】


「エヴァ」という完結したアニメ世界の中で、何故あのような映像パートを挿入しなければならなかった んでしょうか

庵野:あそこに欲しい映像が、セルのアニメーション では表現できないものに行っちゃってたんですよ。「もっと現実に近い感じのものが欲しい」、「じゃあ一番現実に近いフィルムは実写だ」と。 もともと実写で入れるの は声優さんのドラマだったんですけど、撮影している時に「これは違う」と。

庵野:結果として、風景と映画館の観客の映像を使うことになりました。【34】


庵野:当時色々な人たちが過剰にフィクションにのめり込 んでいるのが嫌だったんです。他者が作った脳内世界 に自身の存在を依存し過ぎているのが、見ていて怖い感じがしました。とにかく少しでも外界を認めて、 分の尺度で相対的な視野を持って欲しかった。【34】


庵野:そこで、見ている人が自分の現実を意識する方法と して、鏡を差し出すのもありだろうと。観客の映像は 鏡のイメージでした。ビデオにする時は真っ黒の画面 にしようと思ってました。 画面が黒いとブラウン管に 観ている自分の顔が映りますからね。【34】


フィクションにのめり込むのは嫌だ」という感覚は、「エヴァ」や「ハニー」の物語の中にもしっかり記録されているように感じます

庵野:言ってみれば、外の世界もそんなに悪いものじゃないということですね。

庵野:「外」というのはまあ、「世間」みたいなもの。内向きのベクトルはあまり持ちたくないし、自分も他者もできるだけ外に向いていて欲しい。大きなお世話だと言われても、そういう気持ちは作っているものにも表れてしまうんでしょうね。
でも僕も、面倒臭がりだし無造作に人に会うことがあまり好きじゃないので…どうもこう、パーティーとか苦手なんですね。【34】


「エヴァ」の後の二作の実写映画『ラブ&ポップ』 「式日」は、人物造形や時代感がリアルなものだったと 思うんですが、これはアニメ表現に対する反動からだ ったんでしょうか。


庵野:とにかくアニメっぽくないものをやりたかったんです。 その手段としての実写映像だったし。

庵野:でも実際に『ラブ&ポップ』を撮ってみたら、その逆になっ たんですよね。目の前に生身の人間がいるのに、無機質っぽく撮ろうとしている。結局自分は被写体やその空間にないものを、ないものねだりで入れたがるんだと思うんです。

庵野:アニメをやっている時は、セルで描いた人間にない生っぽさや、絵という虚構世界に現実っぽさを出したがっていましたから。【36】


庵野:ハニーは破天荒ながらもどこか接地感がある世界観を目指していました。 リアルばかりを追求するの は面白くないし、むしろ馬鹿馬鹿しさが表に出ている 世界が「ハニー」にはよいかと。そういったモノをや りたいがための企画でもあったわけだし。【37】


庵野:「ハニー」のプロトタイプも兼ねて作ったショートビデオ「流星課長』(2002)で、だいたいの雰囲気や感じは見えて摑めていましたから。【37】


そもそも、何故『キューティーハニー』を原作に選んだんですか?


庵野: 『キューティーハニー」は漫画の面白さの外に行ける作品だったんですね。「ハニー」の漫画が持つゆるさとか、幅の広さみたい なものが、永井先生の原作以外のハニーを許してくれ るわけですよ。 【38】

庵野:とはいえ「公園の銅像に変身するハニーがないのは許せん!」というファンには、「すんません」となりますけど(笑)。あれをやれなかったのは僕も至極残念です。 ただお弁当キャラは残しました。 その心意気だけでもファンに伝わってもらえれば、幸いです。【38】

庵野:少女漫画を本格的に読み始めたのは中学の時ですね。女の子の友達が塾で「別冊マーガレット (別マ)」を貸してくれたの がきっかけで。

庵野:「別マ」の作家さんが白泉社に行ってからは「花とゆめ」と「ララ」ですね。あとは「りぼん」 と「別冊少女コミック」等です。その辺りの雑誌を高校の頃は毎号買って楽しみに読んでましたね。【38】


庵野:高校時代は一度も女の子と付き合えなかったんですよ。【39】

庵野:少女漫画が好きだったのは、ぜんぜん思いもしないネーム(言葉)とか、話の展開とか理屈や世界が自分と違うところです。 少年漫画を読んでいても、 先の展開が読めてしまってもうひとつ面白くなかったんですけど、少女漫画はこの次にこの人はどんな行動に出るのかが、さっぱり分からなかったですね。【39】

庵野:あとは、ページ全体で絵とフキダシの位置や形状も含めた 主観的イメージ世界としての表現がすごく面白かったです。【39】


庵野:少女漫画はインナースペース(内面世界)を感覚的な手法を使って、紙の上に定着させようとしているの がよかったですね。

庵野:少年漫画ってインナースペースじ ゃないんですよ。確固とした客観的イメージがフキダシとコマで作られていて、コマ割りで話が進む世界ですから。少女漫画はすごく進んだ表現だと思っていました。【39】

庵野:今は全然読まなくなって、嫁さんの漫画だけですね。 多分もう少女漫画を読んで女性観みたいなものを自分に取り入れる必要がなくなったのと、嫁さんを見ている方が少女漫画を読むより面白いからじゃないかと思 います(笑)。【39】


庵野:漫画の文法をなんとか映像に持っていけないか という思いは以前からありましたね。 『ラブ&ポップ」 で色々な大きさの画面を使った理由は、縦に長いもの は縦に長いまま見せたかったからです。【40】

庵野:コマの大きさでイメージが変化する面白さも映像の中で扱ってみたかったし、そもそもスクリーンの大きさが固定されて いる額縁舞台がなんか嫌だったんですよ。【40】

実際のところ、ハリウッド映画に対する競争心はお持ちなんですか。

庵野:そういうのは、あまりないです。面白さは1800円分にはしなければいけないというだけです。 他と争ってもしょうがないんです。

庵野:映画である以上、お金を払うお客さんには楽しんで欲しい。そして、商業映画である以上、出資者には元を取って欲しい。 その興行である以上、出来るだけ当たって欲しい、それだけです。そうしないと次の映画が撮れないですから【42】


庵野:僕の所に実写映画の企画が来ることは滅多にないですね。今までにお話をいただいたのは、二つ三つぐらいです。アニメは色々と来ますけど。【42】


庵野:今後の予定はまだ未定です。決まっているのは「ハニー」のアニメ版の総監督ですね。ただ、「ハニー」で ここまでオープンなものを作ったから、次はオリジナ ルでカルトで行こうと思います。根が飽きっぽいんで、前の作品のテイストを持続せずに、出来るだけ毎回違うものをやりたいですね。【42】


一時期、「いつか舞台の演出に挑戦したい」という話を各種メディアでされていましたが?


庵野: 舞台は難しいです。そっちの世界に踏み込むだ けの覚悟が足りないですね。やっぱすごい世界だと思 います。【42】


庵野:映像が一番好きなんですよ。全てが自分に向いてい ると思います。

庵野:例えば文字だけで表現する場合、曖昧さがなくなって伝えづらくなるんだけど、映像だったら、映像の中に文字情報だけというのもできるし、 字幕だけでもいけるわけだし、それを台詞にしてナレー ションにすることもできるし、モノローグにすることもできる。

庵野:絵の他に音と時間と各種表現が混じってい る混沌とした複合的、総合的な部分が映像の好きなところで。「なんとなく」という曖昧な「気分」を表現出来る手段が、僕にとっては映像しかないんです。他のやり方で自分は「気分」を作れないですから。【42】

(2004年3月16日 ガイナックスにて収録)


【滝本竜彦氏(NHKへようこその作者)との対談】

庵野:綾波は僕にはよくわからないキャラなんです。
滝本:なぜあんなに人気が出たのかも?
庵野:わからないんです。


庵野: 「エヴァ」には他にもたくさんのキャラクターが 出てきますが、実は綾波だけコントロールしてないんですよ。「この娘はこうだからこう動かす」ってのがなくて、なんか成り行き任せのキャラになってしまいました。ミサトとかアスカとかってい うのは、話の中でポジティブに動いてもらわない と困るので、そういうキャラは、作品に意識して組み込むようにしています。【115】


庵野:綾波や、あとシンジなんかは、なんとなく「流れていればいいや」と。脚本家のイメージも汲み 取って、自分で感覚的に違うと思った所だけ直してました。 鶴巻和哉や摩砂雪や貞本義行の想いみたいなのも入りつつ、僕や彼らの無意識の集合体のようなものが、 綾波なのかも知れませんね。 形而上的キャラクターですね。【115】


庵野:あと、わかりにくい言い方かも知れませんが、綾波は非現実の集合体の中に少しだけ現実が入っているようなキャラクターだと思うんです。脚本家は綾波にリアリティを持たせようとしてて、鶴巻 とかはそれを外そうとしてたようです。僕は特に そこについてはジャッジメントせずに、他人がいじるのも良し!というか「放し飼い」のような感じでフワフワ~と出来上がったのが綾波レイと いうキャラなんです。【116】


滝本:アスカはどうですか?
庵野:アスカは本来考えていたものからどんどん壊れていっちゃいましたね。あれは予定外でした。本当はああいう感じに壊れる予定ではなかったんです。もっと自己の強いキャラだったはず なんですが。

庵野:自分が最初にガチッとキャラクター を決めてやらないタイプなので。特にシリーズの場合は流れに任せて作るんで、予想外の展開になってしまったアスカには、ちょっと悪いことをし たな、と今は思っています。ミサトさんにも、最終的には「すんません」と言うしかない(笑)。【116】

庵野:(20話のミサトさんのシーンは)あれはマッサージですよ(笑)。【117】


庵野:TVの「エヴァ」に関して言えば、怖くて観ることが出来ませんでしたね。 見返すのが、ちょっと怖い。作っている時は、集団で気が狂って面白かったんですけど(笑)。

庵野:特に後半に向けてどんどん加速していく時がすごかった です。 時間はなくなるし、何をやっているのか客観性がなくなっていくしで、興奮状態が続いていましたね。

滝本:観てるほうもすごい切羽詰まってるのがわかりました。

庵野:ええ(笑)。ついに脚本も追いつかなくなり 、脳内麻薬が出っぱなしな感じで、あのような状態はあれより前にも後にもないですね。とにか 脳内麻薬が出過ぎてて、今観ると辛い、という のがあります。


編集部:「ナディア」の時も後半時間がなくなってたんじゃないですか?


庵野:「エヴァ」に比べればあったほうです(笑) だけどよく間に合ったなあって思いますよ。最終回が形になったのはすごいですね。【120】


庵野:多かれ少なかれ、ものをつくる人は気が狂ってると思いますよ。【123】

庵野:僕の場合だと、「エヴァ」のTVで本格的に壊れ、なんかものすごいウツが半年くらい続いて・・・ それでも劇場版は約束してたんで作業をやんなきゃいけなくて、11月の記者会見の時になって も、脚本が一行も出来てなくて・・・・・・。
なんとかものを作れるような状況になったらど んどん話が大きくなっちゃって、尺が倍になるわ、 絵コンテは遅れるわで…。【123】

庵野:TVが終わってから、その十一月頃までは、自分でもよく生きていられたな、と思います。ピー クは5月。で、6月から徐々によくなって・・・これは、ありがたいことにいろんな人たちが助けて くれたんですね。それがなければ、多分、僕は今ここにいないと思います。それくらいギリギリの 所にいた。いや~そうとう狂ってましたね。人間が全部敵に見えるというか。【123】

庵野:オタクもすでにファッショ ン化されましたね。オタクになるのも今やファッ ション。オタクの価値はなくなりつつあると思います。オタクであることが恥ずかしくなくなっている。【127】

庵野:「エヴァ」は、オタクは恥ずかしいものなん だ、というのが実はテーマのひとつだったんですけど、大きくなりすぎて見えなくなった。【127】


庵野:作っている時は、アニメ業界はこれで一度終わったほうがいい。現状のアニメ制作現場のシステムは壊れて欲しい。そしてそこから新たなアニメ制作の環境が出来ていって欲しいってのがあったんですけどね。結果的には逆のものになった。延命させてしまいましたね。【127】

庵野:(エヴァでは)少なくとも自分の中にあったものを全部出 しました。あれ以来、実写も含めてしばらくオリジナルを作っていませんね。 自分の中の冷蔵庫がからっぽになっちゃったんです。【128】


編集部:そういえば原作ものばかりですね。
庵野:ええ、ただ次はオリジナルを撮ろうと思っています。ようやくオリジナルの実写にお金を出してくれる所が現れて。 次はすごい辛気くさいカルトな映画を作ろうと思っています。 「こんなん誰が観るんだ」っていうのをやりたい(笑)。まあどうなるかまだわかりませんが。【128】

庵野:お客さんは、まず脳天がしびれて、思考する暇もないうちに映像が進んで行って、感情部分を揺さぶられ、気がついたら終わっていて「ああ面白かった」というのが理想ですね。(これは前にも言ってた)【129】

滝本:あの・・・・・・さんざん言われたことかも知れま せんが、エントリープラグの中で、 綾波の涙が落ちるという描写ですが……。
庵野:ああ、あれはもう、「ガンダム」とか観ていて宇宙空間で爆発音がするのと同じなんですよ。 あそこで涙が塊になったらハードSFにはなると思うんですけど、お客さんには心情が伝わらないと思うんです。あのシーンは作画もよかったし、 ウソでいい、と。設定的リアリティを追求するよりは、涙が出たら頬を伝わって下に落ちる、とい う描き方のほうが、伝えたいことが伝わるんです。 特にアニメの場合は、そういう心の表現を絵で伝 えるのは非常に難しい。 お客さんにどうしても伝えたいと思うことがあったら、僕はウソでもかまわないと思うんです。ウソをつくべきだ、と思います。【131】

庵野:自分の発言もインタビュアーや媒体によって、 フィクションとノンフィクションや建て前と本音が混じってたりするんですけどね。

庵野:自分が喋ることはメディアに露出する段階ですでに編集や演出をされているし、逆に自分からすることもある。 雑誌のインタビューなどで、建て前で訊いてくる人がいますが、そういう時は建て前の答えしかしません。鏡みたいなもんになっちゃいますよね。 悪意や敵意にはそれなりの言葉で臨むし、向こうが本気で訊いてくれれば、こちらも真摯に答えているだけなんですけど。【131】

庵野:集団作業による複合人格とはいえ、結局キャラクターのコアな部分は、自分の各パーツの切り売りになりますけどね。【132】

庵野:「エヴァ」の時は・・たとえばシンジは中学の頃の自分なんですよ。結果的には当時の自分に近付いちゃいましたが(笑)。 庵野:で、ミサトさんは自分の好きな女性なんですよ。 リツコと込みで、当時の自分たちの気分を出したかったので、実年齢に近い設定にしていました。

庵野: アスカはそれの若い頃ですね。

庵野:綾波は・・・・・・なんか 自分の無意識の部分なんだろうって思います。底にあるものといいますか。うーん、なんか当時はこうかなって答えっぽい考えがあったんだけど、 もう細かいところを忘れてますね。

庵野:加持さんは、 僕の中の理想の大人だったんです。いつまで経っても子供っぽい自分がイヤで、せめて作品の中くらいには欲しいなと。大人の自分に憧れてました ね。

庵野:カヲルくんは本来は、もっと偶像的なシンジ の憧れとなる彼の理想像のキャラとして用意してたんですけど、じっさいに動かしてみたら、なぜかおかしいヤツになって(笑)。【132】


庵野:カヲルはレイと対の存在のはずなんですけどね。レイの中にあるもうひとつの姿ということ で。本当は三話分くらい出したかったキャラですけど。なんとか理想の男の子にしようと思ったんです。

庵野:後で友人に言われましたが、あれはシンジくんの王子様なんだ、と。今までの自分を百パー セント受け入れてくれる人がいたら、そりゃ誰でもその傍に行きますよ、と。なるほど、と思いました。

【感想】

個人的な見どころとしては「なぜEOEの後半で実写パートをやったのか」、11月の春エヴァ記者会見の時に脚本が一行もできていなかった話、加持さんは庵野さんの理想の大人だという話。

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アニメージュ1997年5月号 薩川昭夫インタビュー(DEATH編について)

「DEATH」編は、非常に「エヴァンゲリオン』らしい映画になっていて、驚きました。

薩川:その『エヴァンゲリオン』 らしいというのは、よくわからないんですよね。僕ら脚本家は、TV版の立ち上げのときから参加しているから客観的になれなくて。今回も『エヴァンゲリオン』らしい作品にしようとは特には思いませんでしたし。だから世間で言う『エヴァンゲリオン』らしさと、僕らとではギャップがあると思うんですよ。

なるほど。じゃあ、実際に仕上がったフィルムをご覧になってどう思われました? 脚本段階で考えていたものとのギャップとか。

藤川:そうですね。庵野さんもおっしゃってたんですけど、実際のフィルムは摩砂雪さんの世界だなあ、と。僕や庵野さんの匂いは、あんまり残っていませんでしたね。

――――――――えっ、摩砂雪さんの世界ですか?

思いがけないお答えですね。それはどういうことですか?

藤川:うーん、・・・・・ひとことでいうのは難しいですね。

そもそも、薩川さんが、この映画に参加なさった経緯は?

薩川:実は最初は総集編の監督をやってもらえないかという話があったんですよね。まだ正式に劇場版の企画が成立していない段階でですが。でも、それはお断りしたんですよ。「総監督が上にいるのに、監督はいやだな」というわがままな理由で(笑)。それに僕が監督すると、『エヴァンゲリオンの映画”でなくて、『エヴァンゲリオンについての映画”とか 『エヴァンゲリオンのフィルムを素材にした全然別の映画”になっちゃう可能性がある。そのあげく、結局、封切に間に合わないってことにでもなったら(笑)。しばらくして、「DEATH&REBIRTH」という形になった時に、改めて 「総集編の構成をやってもらえないか」 という話になって、引き受けることになったんです。

構成するにあたって、最初に、庵野監督から、総集編の設計理念みたいな話があったと思うんですが?

薩川:いや、そんな話はありませんでした(笑)。とにかく、「わかりやすくてつまらないもの」を作るよりも、「わからなくてもいいから刺激的なもの」にしてほしい。それで、どちらかといえばドキユメンタリータッチのものを、と。いちばん最初の打ち合わせでは、内容については、そんな話ぐらいで。あとは、スケジュールとか予算とか。そういった外枠の話ばかりだったんです。

それは意外な話ですね。じゃあ、 どんな手順で作業なさったんでしょうか。

薩川:初めに、どう組み立てるかという概念図を提出したんです。それで、庵野さんからは「これでやってくれ」という返事をもらい、ビデオやLDでTV版本編を嫌になるほど見て、「第零稿」を作っていったんです。それを叩き台にして、 「REBIRTH」編との絡みでシーンを足したり削ったり、音楽録りに立ち会ったりして、次に書いたものが、決定稿になりました。

初稿の次が決定稿とは、珍しいですよね。初稿の前に提出された、概念図というのはどういうものだったんですか?

藤川:簡単なフローチャートです。子供達が体育館に集まって「カノン」を弾くところから始まって、ミサトのエピソードから入り、シンジ、アスカ、レイとつなげて、最後に「REBIRTH」の始まる直前、カヲルのエピソードに集約する、と、

ああ、そのころからすでに演奏場面のアイデアがあったんですか、

藤川:最初に庵野さんから、「パッヘルベルの「カノン」をエンディングに流したい」といわれていたんです。「エヴァンゲリオン」とはずいぶん肌合いが違う曲だから、どうやって組み込もうかと考えて、新作部分でリンクさせることにしたんです。

なるほど、あのシーンのアイデアがあって「カノン」が使われたわけではなくて、逆なんですね。

藤川:そうです。

あの演奏場面というのは、あくまでイメージですよね? 実際の出来事ではなくて。

薩川:うーん、公開中の映画に注釈を加えるのはどうかと思いますので・・・・・・。ま、 どちらに受け取ってもらってもかまいません。

シーンをシャッフルしていくというのは、薩川さんのアイデアなんですか。

薩川:どうシャッフルするかは僕の考えですけれど、最初の打ち合わせで、なんとなくそうなるんじゃないか、というようなことになったんです。錯綜したイメージで。その時、「例えばこんな感じ」 と話に出たのも、ジャン=リュック・ゴダールやオーソン・ウェルズ、寺山修司、 NHKの佐々木昭一郎といった人たちの作品です。

わかりやすいものよりも、わからなくても刺激的なものをという話がありましたが。

藤川:今回『DEATH」編の方針について、ご批判の向きも多いのですが、実はこうした構成の方が最大公約数の観客をつかむ一番の方法なんじゃないかと僕は思っています。TVシリーズのストーリーや人物関係等をわかりやすくまとめたダイジェストだと誰からも憎まれないかわりに誰からも愛されませんしね。 “勘定合って、銭足らず”で、結局、「エヴァンゲリオン」という作品の本質から一番離れたモノになってしまったんじゃないかなと思います。

刺激的ということで、気をつけられたことはありますか。

藤川:レガート(滑らか)に行くものと、バンバンと前後が対立するようなものを効果的に組み合わせるようにしたということですね。LDの新作部分をまず見せようと考えて、ファーストシーンをセカンドインパクトの場面にしたんですよ。それで、次は拾弐話につなげられるな、じゃあ、次はベッドシーンだ・・・・・・というように。だから、その時の「気分」が違えば、別のつなぎ方になったんじゃないですかね。

じゃあ、自分の気持ちに添って並べられたんですね。いわゆる脚本家的な発想とは、どこか違いますね。

薩川:いや、そんなことはないでしょう。いわゆるサブテキストの構成はちゃんと組み立てましたし、ただ羅列しただけではありませんから。普段のシナリオの作業とそんなには違いませんでしたけどね。

――なるほど、「気分」とおっしゃったけれども、それだけではないんですね。

薩川:ええ。普通の脚本を書くときも、 セリフは感性によるものですけれど、それ以前にドラマを構成する作業がありますからね。

「REBIRTH」との2部構成ということで、気をつけられたことは?
薩川:今回の「DEATH&REBIRTH」のコンセプトはマーラーの交響曲第8番のようなものじゃないかと思っていたんです。「千人の交響曲」と呼ばれるこの曲も2部に分かれていて、第1部は「現れたまえ、創造の主、聖霊よ」という賛美歌、第2部はゲーテの「ファウスト」終幕の場という構成になっています。もともとこの二つには直接の繁がりはありません。一つはラテン語、もう一つはドイツ語ですし。けれど、マーラーの8番の中で、この二つは互いに呼応し合い、複雑に絡み合い、音楽の大伽藍を構築しています。今回の映画もそれと同じように、「DEATH」で提示した数々のモチーフが再び「REBIRTH」に現れる、という感じに考えてました。 だから『REBIRTH」が未完に終わった今、「DEATH」の方も未完と言えるのかもしれません。

サラウンドを利用して、副音声からもセリフが流れている場面がありましたが、それは脚本の段階から?

薩川:ええ。脚本を上下に区切って、こちらは画面の進行、こちらは音の進行という形でやってました。脚本作業の段階では、画面の方ももっと、デジタル編集で、ダブらせてしまったり、ぼんやりと副音声の画面へ変わっていったりするようものをイメージしてましたが、時間的にも予算的にもそんな余裕はなかったようです。

脚本を拝見すると、例の「起動」、 「凌辱」といったクレジットまで指定されていますね。

藤川:もともとの脚本では、そういった言葉はセリフになっているんですよ。ゴダールの「勝手にしやがれ」の予告編というのが、堅い言葉を女がボソッ、ボンッと言うようなものだったので、僕はそれを戦闘シーンでやろうと思っていたんです。庵野さんは賛成してくれたんですけれど、摩砂雪さんが、「あ、俺ゴダールわかんねえし、あれは仏語でやるから美しいのであって日本語でやったらどうかナァ~…………………」とおっしゃって、できあがったのが、あのシーンなんです。

ああ、なるほど、そういった実際に画面になったときのアイデアや、編集のリズムといったトータルの部分で、摩砂雪さんの色合いが強いフィルムになっているという、最初の話につながるわけですね。

薩川:そうですね。しかし、制約が多い中でよくぞあれだけのものができたなと思います。流石、摩砂雪監督ですね。

『REBIRTH』への感想を。

薩川:ありません。早くエンドマークを打ったものが見たいです。

夏の制作には関わらないのですか。

薩川:ええ。もう関わることはないんじゃないでしょうか。今回の『DEATH』 編が僕にとっての『THE END OF EVANGELION』ですね。夏の映画は切符を買って、初日の行列に並びたいと思います。

『エヴァンゲリオン』を終えるにあたって、何かコメントは?

薩川:コメントはないです。あ、そうそう・・・・・・。実写の作品で脚本を担当した江戸川乱歩の『D坂の殺人事件』(監督・ 実相寺昭雄、主演・真田広之)が同じ時期に同じ東映の配給で公開される予定です。エヴァに喰われてしまわない事を祈ってます(笑)。

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『ガイナックス・インタビューズ』(庵野監督インタビュー該当部分)

https://www.kodansha.co.jp/comic/products/0000221804

今回とりあげた書籍の中ではインタビュー日時が最も最後の時系列。

【庵野監督インタビュー】

ナディアは子供番組だったので、子供が見ることを前提にして作っていました。子供に見せるものだからこそごまかずに極力キチンとやろうと考えていたんです。子供向けのものはナメて作っちゃいかんと思います。【60】

ナディアの場合は基本的な話の流れを放送局が既に設定していたので、それに乗ったうえで作りました。死って難しいんですよ、描くのが。その人の宗教観や世界観、死生観や哲学までが関わってきますから。でも放送局側のラインに死が盛り込んである以上、外せない。となれば「せめて自分にウソをつかずにやりたい」と考えていたと思います。【61】

子供向けだろうがオタク向けだろうが総じてナメた仕事はどうかと思いますね。割り切った仕事はできますが、お客をバカにするものはつくれないだろうとおもいます。【61】

評論家とかはあまり好きじゃないんですけど、ただそういう人たちが何か語ることによって「つくられる作品がもっと面白くなるのならいいのに」とは思います。

文化に関して語るにはこの国のレベルはあまりに低いですし。それは論じる対象も、論じる方法も。文化に関しては本当に幼稚な国だなと思いますよ。なるほどと思う評論にはごくまれにしか出会えませんね。【62】

(「アニメは世界に誇る代表的なコンテンツ産業と語られることが多いですが」と聞かれて)それは世界において日本がアニメを独占しているだけだと思います。

週刊ペースでアニメを、こんなに量産できる方法論と余裕を持っている国は日本だけですから。アメリカですらもう難しくなってると思います。ほかにライバルがいなければ、世界に誇れるのは必定ではないかと。世間や官がアニメをどれほど理解して真に評価しているかは甚だ疑問が残りますね。【62】

日本は精神的には豊かだとは思えない。それよりも民度が低いとか、味方が要地であるとか、トータルで子供っぽいですよね。この国は。それは当然僕も含めてですけど。【62】

東京の街の景観をチラッと見ても、この国の文化的なレベルはこれか、とわかりますね。最近の建築物には美意識なんてものはなく、ただ経済や物流の効率のみの単一目的で街を作ってます。この頃ようやく、景観や情緒を大事にしようという動きが世間に出てくるようになりましたけど、それは良いことだと思います。【62】

アニメも、一昔前の経済的なバブルに似た状況にあると、今感じますね。アニメバブルですかね。【63】

オタクの最大の弱点に画一化があると思います。多様化しない。アニメも多様化してないですよね。どんどん一律化している。これは滅びの道ですよね。そのうち滅びますよ。【64】

滅びるのならそれもいいかと思いますよ。滅びを止めたいエネルギーの方が大きければとまるだけだし、「そうじゃない、このままでいいや」っていうエネルギーの方が大きければ滅びていくんじゃないですか。

滅びるとしても全くのゼロにはならんと思うので、それでいいと思いますよ。残るべきものがわずかでも残っていれば。大きな流れに任せるのが自然でいいかと。【64】

僕がやってるのはあくまでも観客に対するサービスの延長でしかないんです。この仕事はサービス業ですから。【64】

60年代以降はカウンターカルチャーしかなかったと思うんですよ。なにかがあって、それに反発して、結局その反発したものに対するまた反発。この繰り返しでしかなかった。

今はその反発すべきものすらなくなっているので、創作行為はリサイクルとコピーコラージュみたいなものでしかなくなってしまった。今つくられているものはコピーペーストによるものだけですよね。これはもうしようがないと思っていますけど。

人ひとりが持っているポテンシャルがここまで低くなって、こんなに情報だけ増えた今ではコピーペーストぐらいしか出てこないんでしょうね。いつかはこうした状況も、今の日本の社会的な状況も含めて、変わっていくとは思うんですけどね。【65】

オタクはもう万国共通だと感じます。ヨーロッパでも韓国でも台湾でも香港でもアメリカでも、オタクは本当に変わらないですね。

これはすごいと思います。オタクに対して非難めいたことを言っているようですけど、否定しているわけじゃないんですよ。【65】

オタク以外の人からオタクを非難されると腹が立ちますね。「うるさいバカ」と思います。なにもわかってないくせにと(笑)【65】

基本的に自分の作品はあまり見直さないですね。つくっている間に嫌というほど見てますから。面白さを少しでも上げるために制作中は初号ギリギリまで何十回何百回と見直します。【66】

アニメーターというのはカメラで撮影しつつ、演技をしつつ、しかもそれを画にするという大変な仕事です。カメラマンと役者と画描きの3つの技術が要求されるわけですから。だからこそ面白いんですけどね。【67】

(「庵野さんは学生時代にマンガを描いたこともあるそうですが、ひとりで作品を作るのは結構辛いものでしょうか。」と聞かれて)ひとりでつくるのが別に辛いってことはないですけど・・・面白くないんですよ。

ひとりでつくったほうがストレスは絶対に少ないと思います。けどただひとりでつくってそれで面白いモノがあがるかっていうと、僕は無理ですね。

僕一人の持つイメージってたいしたことないんですよ。僕がひとりでアニメをつくっても面白いモノになるとは思えないんです。だから集団の方がいい。【68】

守るべきものは僕自身じゃないんですよ。守らなきゃならないのは作品であり、現場スタッフなんです。

それを外から防御するために監督である僕が最前線に立っているだけです。出来上がった作品に付いて僕が悪口を言われるのは良い。そういうときに矢面となる対象として監督がいるわけですから。しかしスタッフの悪口を外から言われるのは許せないですね。【68】

作品=スタッフです。作品はスタッフがいなければできないですから。最優先です。

僕は今まであまり潤沢な予算というものをもらったことがないんですよ。だからこれだけの仕事に対してこれだけのお金を出しますという経済的な形でスタッフに報いることが出来たことがないんです。いつもギャラ以上のことを要求しているし、してもらっています。

スタッフやキャストには本当に感謝しています。だからせめて面白いモノにしないと申し訳ない。やって、参加して良かったと思われる作品にしたいと思っています。【68】

集団作業はいろいろ大変ですが、なんといっても面白いです。だからまだ続けてるんだと思います。【69】

漫画は小学校の時から描いてはいたんですが大学の時にやめちゃいました。面白くないんですよ、自分のは。【69】

(日本では伝統的に、独裁的なイメージをもつ監督像が愛でられてきた気がしますが」と聞かれて)独裁者の方がキャラクターとして分かりやすいですしね。

それに独裁者っぽくしている方がスタッフも楽なんですよ。たぶん僕も現場に立っている時は独裁者っぽく見えると思います。その方がシステムが機能しやすいし。

でもそれは、スタッフもある程度監督という仕事を分かってくれているという暗黙の了解があってのことですから【69】

監督が独裁者になれるのは、監督だけが責任を取るからなんですよ。それが監督の唯一の仕事ですから。

監督がそれだけはやっちゃいかんと思うのは、出来上がった作品についてスタッフを非難することです。これはシナリオが悪いから失敗したとか、役者が悪いから失敗したとかですね。最低のことだと思います。

そのシナリオを採用したのは監督だし、役者をオーケーしたのは監督じゃないですか。その人の能力不足でしかないですよね。監督をやっている以上スタッフのせいにしないのは最低限の礼儀だと思います。【70】

名前だけでぜんぜん仕事をしない監督さんもいます。しかしアニメの現場はそれでも機能するんですよ。むしろそのほうが制作スケジュール的には助かることもあります。【70】

『DAICOMFILM版帰ってきたウルトラマン』では自分の至らなさから製作途中で監督を降ろされてしまって、その後の作業は全て赤井くんがやってくれました。完成までもっていってもらえたのは、すべて彼のおかげです。

完成したフィルムを東京の上映会で初めて観た時には大泣きしてしまいました。ホント、感謝しています。あと結果論ですけどあの作品では、編集と音は僕がやらない方が良かったと感じます。自分がやっていたらあれだけの作品にはなっていなかった。『72』

(「そういう話を聞くと、みんなでものをつくるのはいいものだなと憧れますね」と言われて)もちろんいい場面ばっかりではないので、作品1本やった後は「こいつとはもう二度と仕事は出来ん」という人もいます。トータルでは嫌な部分の方が多いですよね。

監督をやっているとよかった部分と嫌な部分の比率は、たいてい6対4くらいで嫌な部分の方が多くなってしまいますけど。でも、僕はいいものだと思いますよ。『72』

(「庵野さんの監督としての基本姿勢は、常に自分の思惑を超えるものをスタッフが出してくれることを期待しているわけでしょうか」と聞かれて)まあ、そうですね。自分が持っているものが最低限ですね。自分の思っていたものと全く方向性が違うものが出てきてもそれが面白ければオーケーなんです。

自分のイメージどおりにつくりたいっていう気持ちはあんまりないですよね。むしろ自分のイメージじゃない方がいいかと。今実写をやっているのはそこが大きいんです。【72】

自分の思いどおりにつくるんだったらアニメをやったほうが絶対に良いですね。

ただ僕はそのシステムでずっと長くやってきたので、今は思い通りにならないものの方が良いと感じるんですよ。「思惑と全然違う」という部分を「どうしよう」と考える家庭を含めて、面白いですね。【73】

実写作品で役者さんの制御はほとんどしていないですよ。演技指導って嫌いなんですよね。『ラブ&ポップ』では特にそうでした。言葉は悪いですけど放し飼いでしたね。【73】

『ラブ&ポップ』では120時間以上カメラを回しています。【74】

僕はどうもないものねだりというか、アニメをやっているときは生っぽいものに憧れて、実写をやっているとやっぱり生っぽいものを切り捨てようとしてしまいますよね。

僕の生理的なものだと思うのですが、必要以上に生っぽいものはいらないと考えてしまうんです。自分でも妙なんですけど。そういうところを特に感じれば現実の人間を定着させる気はない」という感想も出てくるのだろうと思います。(インタビュアーに「庵野さんの実写作品を観ると「この人は現実に息づいている人間を映像として定着させる気はないんだ!」と思ったと言われて)【74】

アニメにしても実写にしても僕から見れば現場が違うだけで、つくり方自体はそんなに違う感じはないんですよ。

基本的にどちらも同じで、映画をつくっていて自分が気をつけることといえば、客がどうやったら寝ないですむかということだけです。それだけですね。

お客さんが30分なら30分、2時間なら2時間の間に「椅子が痛いなあ」と、どうやったら思わないだろうかとか、どうやったら寝ないだろうかとか。フィルムを作りながら考えてるのはそこです。

緩急とかそういうものですね。人間がひとつのことをやり続けることが出来るのは45分が限度らしいんです。【74】

人間の集中力はそうは長くは続かない。だから始まって5分でこれぐらいの情報を提示して15分くらいでこんなもので、そろそろ飽きたかな、眠いかなというところで目の覚めるようなものを入れる。それは編集の段階でも考えますけど。そうした作品の大きな流れにいちばん気を遣うようにしています。【74】

(作品を作る時は)理屈っぽく作っているように見られがちですけど理屈ではやっていないんですよ。根拠になるものはほとんど雰囲気とか気分とかそうしたあいまいなものですね。自分の中で持っているそういった感じは大切にしようとしています。

セリフにしてもカットのつながりにしても、「なんかこれ違うな」という違和感を外していくんですよ。自分で見ていて「ここでこういうものが来てほしい」という感覚的なものですね。【75】

発想のとっかかりは、こういう画をやりたいとか、こういうシチュエーションを描いてみたいとか、そうしたヴィジュアルイメージであることが多いです。スタートはそんな他愛もないものですよ。

ただいちばん最初にやりたかったものって結果として、早々にどこかへ行ってしまうんです。「これがいちばんやりたかったのに」というところも(笑) シナリオとかの段階でどうしても入んなかったりして、なぜか消えてなくなってますね。【75】

結局、自分の好きなものってそんなに幅がないんで。結果として映っているものはたいてい似通ってきちゃいますよね。映画1本の中で8割9割はやっぱり自分の好きなものを入れていると思います。

自分の好みじゃないものが映っても外しちゃうんですよね。ただ残りの1割2割、今回これが新たに好きになりましたとか、スタッフが好きなものを入れるようにしています。【75】

ここだけ違いますというものがどこかにないと作っていて自分が面白くないんですよ。永遠に同じものを作ることが出来れば、それはそれでいいんですけど、どうもまだできないですね。

そのうちにできるようになるかもしれないですけど、今はそうはいかないですね。自分が飽きっぽいのもあるんでしょうね。あまり同じテイストで作りたくはないです。【75】

僕の場合、社会の状況まで視野に入れてものを考える(作品を作る)ことはないです。

社会の状況というよりも、自分が暮らしている環境ですね。自分の環境とは、自分の手の届くところ、自分の見えるところ、自分が実感を持って理解できるところまでだと思いますが。【76】

小説や実写映画と違ってアニメが海外に輸出されるのは、それがあまり日本っぽくないからじゃないですかね。髪の毛が黒ではなく、黄色とか青とカ赤の人がいっぱいいますし(笑)【76】

行政も民間もあまり実写映画の撮影に協力してくれないという問題があります。なかなか撮らせてくれないんですよ。

「映画は文化だ」と口では言っていますけど、この国の本心では、映画が文化だなんて思ってないんだろうなと感じます。映画に対する協力体制とかまだまだできてないですね。

もちろん撮影する側にも問題があるとも思いますし、全てが非協力というわけでもありません。現に『式日』の撮影時は地元の方々のおかげで本当に助かりました。【77】

しかし個人では協力してくれても、企業なり行政となると経済効果や宣伝効果が優先されたり、「なにかあったらマズイ」ということで、どうしても事なかれ主義になっちゃうんですよね。

残念ながらリスクを負ってまで映画を作りたいと思う方は少ないですね。こういうところは中国とカ韓国とかアメリカとかには、まったくかなわないです。【77】

『エヴァ』のときにはよく「でもアニメでしょう、アニメだから観ない」と散々言われました。それはそういうもんだと思うんです。

エヴァの後実写を何本かやったので、そっちを好きな人からは「アニメなんかやってないでずっと実写を撮ってください」と言われます。【78】

今、この国は心が貧しいと思います。絵画を見せるにしてもそうですよね。良い絵を広く誰にでも公開しようとはせず、ガラスのケースに入れてロープの向こうから見せるでしょう。

絵の具の持っている本当の素晴らしさ、デジタルにはない絵の具の立体が持つ陰影は、きちんとした照明の中である程度近寄って見ないと分からない。日本の環境では絵画の持つ素晴らしさはなかなか伝わりにくいと思います。

ヨーロッパとかはただで見せてるそうですよ。ガラスケースにも入れず、誰でもイーゼルを模写もできる。子供のころからすぐれた作品をじかに目の前で見てしかもタダで模写もできる環境で育てば、そりゃもう、ものを見る目がぜんぜん違ってきますよ。少なくとも絵を描く力は全然違うでしょう。

絵を描く、という行為ひとつとってもこの国は相当遅れていると思います。【78】

芸術や文化に対する認識がまったく置き去りにされているじゃないですか。建物でもちょっと耐震性に問題があると言われれば、すぐ取り壊して新しくしてしまいます。

昭和のものを残してほしいと思っても、「まだ築100年たっていないから価値がない」といって残そうとしない。それはおかしいでしょう。なぜその建物の価値を今判断することが出来ないんだろうと思います。そういうところでおかしいですよね、この国は。

ちょっと前の本当にいい家や街並みが、どんどん取り壊されていますよね。経済効果や道路を物流目的で整備するといった単一価値に走った結果だと思います。【78】

東京都の税収はもっと小金井の「江戸東京たてもの園」に使うべきだと思いますよ。少なくとも僕が都に払っている税金は全額そこにまわしてほしい(笑)【79】

新しい漫画はほとんど読まないんです。その時間があったら昔のものを読み返しますよね。【80】

本宮ひろ志先生が好きなんです。直球なんですよね。あの直球なところがものすごく好きです。【80】

ガイナックスにはアマチュアでつくったシステムというかノリみたいなものは今でも継続して生きていると思います。僕個人としては大学のときに自主製作を体験しておいて良かったと思っていますよ。

あのときに本当に集団でなにかをつくるということの、良いことも悪いことも身に沁みましたから。そしてやっぱり面白かったんですよね。あの体験があったから、今の自分がいると思います。【80】

ガイナックスにいて良かったと思います。ガイナックスでやっていたから、自分に合っていたし面白かったんだろうなと思います。

ガイナックスには「決まった型がない」とう感じがします。社長と言っても年はそんなに変わらないし、学生が集まってアニメをつくろうと結成したのが出発点という会社ですから、なんというか大人の会社じゃないんですよ。子供の発想のままずっと来ている会社なので、そこがすごく好きです。【80】

ただエヴァをつくっているときには「会社がつぶれてもいいや」と思っていました。

僕が守るべきものはあくまでも作品なので、会社の維持よりはそっちを探ってしまうんですよ。作品至上主義と会社経営が両立できるほど、僕は大人じゃないですから。(後でカラー作ってそれやるけどね…)まあ運よく持ちこたえてくれてよかったです(笑)【80】

(「儲かるからエヴァ2を作れと言った要請も出てくると思うのですが」と聞かれ)そういうのが出てこない会社なんですよ。会社の発想ではなくて個人の発想の延長が集まっているという感覚ですね。【81】

もし今エヴァを作るとすればもう少し親切に作るかもしれないですね。エヴァの当時の状況では突き放したほうがいいと考えていましたが今では受け入れられないでしょうね。そんな余裕のある状況じゃなくなってきてると思います。

僕は流行りの歌を聞かないんでわからないんですけど歌詞で「友達は大切だ」とかわざわざ口にしなくてもいいようなことを口にして それがヒットして受けている。

『友達が大切』ってそれは当たり前のことじゃないですか(笑) 歌詞にする必要なんかないんですよ。

そういうのを聞くと「あーもういよいよダメになってきたか」と感じます。エヴァ やってた頃 90年代ならまだもうちょっと表現に余裕があったと思うんですけどそれがいよいよなくなってきた感じがします 。

エヴァでは赤毛のアン で語られたような人が想像する余地を、楽しさを提示したかったんです。

あの当時は何でもかんでも攻略本やマニュアル本 が発売されていてデート 1つ するにもマニュアルがないとできないしゲーム 1つ クリアするのにも攻略本がないとできないという風潮でした。まるで人間の作ったものには全て回答、答えがあるというようにですね。

でもそれはどうかと。現実の世界では答え は仮説も含めて多様化しているわけじゃないですか。その人にとっての答えがあるというだけでこれは設問があれば必ず答えが一つ用意されているという日本の今の教育も良くないと思います。

例えば現国の問題なんかもそうですよね。「作者がどう考えているか40字以内で書け」なんていう設問が出る。僕は作者じゃないのでそういうのは分かりません。それに作品全体じゃなくて その数秒だけを抜粋されたものを読んでも作者がどういう気持ちで書いたかなんて分かりません。これは 答えとは限りません」というのが本来の回答 だと思いますけどそれを書いたら日本だとバツになりますよね【82】

 日本の教育は基本的にミスをしない人間が優秀という減算式のテストですね。まずそもそも100点満点という模範があってミスをしなかった人が100点を取る。しかしこれが別の発想の教育 ならば100点の人もいればそれを超えて200点の人もありえるわけです。しかし日本では200点の人は評価されないんですよ。【83】

 今はそういう風潮の中で「与えられたもの全てに答えがある」という感覚はいかがなものかと考えていました。思いついた人の分だけ答えがあるようなものにしたかったんですよ。

「答えはこちらが用意するものではなく皆さんの中にあるもの全てがOK」と。

今もそうですけど その頃は どんどん 想像力というものが社会から欠落していったと感じています。自分で考えない方が圧倒的に楽ですから。しかし想像する快楽っていうものも誰にでもあるはずだと思うんですよ。だから 作品の中に 想像する余地を残したんです。ブラックボックスをわざとあっちこっちに作っておいてしかもそのブラックボックス自体も組み合わせによって色々な解釈ができるようにしておく。「この言葉も当てはまるけど これも当てはまるじゃん」という答えがいくつもあるクロスワードみたいな楽しさですね。あからさまに矛盾する部分も入れておきました【83】

かと言って僕もゲームをやるときは 攻略本がないとやりませんけど(笑) (えぇ…)【83】

 今はもうゲームは全然やってないですけど以前「とにかくドラクエをやらなきゃだめだ」と友人が言うので借りてやったんですよ。そうしたらさっぱりわからなくてとにかく攻略本を見ながらプレイしました。(笑)

ゲーム中に無駄なことをするのが嫌いなんです。そこでストレスがたまるのが嫌でしたね。攻略本に載ってるラスボスを倒すには 経験値がいくつ必要というのをクリアして、しかもその2倍ぐらいまで行ってないとラスボスの前に行かなかったです。で、何本かやると「なるほどこういうものが ロールプレイングなんだ」ってある程度 分かったからもうやらなくなりました【83】

 ゲームをやる人の気持ちが少し分かりました。あと自分はこういうものはやらないんだっていうことが分かりました 。(笑 )

ちょっとゲームを好きになってみようという気持ちはあったんですけど自分の中であまり好きになれなかったんです。

そんな自分でもハマったゲームはスーパーロボット大戦シリーズですね。でもあれはゲームが好きというよりも ゲーム制作者の気持ちに対する共感とか登場するロボットそのもの、オリジナル作品への思い入れとかそういう部分で好きでしたから。

あとは麻雀ゲームくらいですね。ちょっとした時間つぶしにやってました。それももう全然やってないですけど 【84】

(「スーパーロボット大戦にエヴァンゲリオンを出すんだとおっしゃっていたそうですね。実現しましたが」と言われて)切望していたのであれは嬉しかったです。最近は仲間に入れてもらえなくて寂しいです。(悲)(確かこのちょっと前にMXが出てたから別にそんなことはない)【84】

 エヴァのテレビシリーズではスケジュール的にも精神的にもどんどん 余裕がなくなっていきました。そのうちにトリップしているというか集団でイッちゃってるような感じになりましたね。

ああいう体験にはなかなかお目にかかれないです。ああいうギリギリで切羽詰まっている状態はむしろ楽しかったですね。ものすごくハイになっていました。ずっと脳内麻薬が延々と出っぱなしになってたんじゃないでしょうかね。何ヶ月も【84】

 今 リニューアル 作業のために 5~6年ぶりに エヴァを見直しているんです。話や内容は自分でも結構忘れてたんですけど普通に見て「これは面白いな」と感じますね。辛いところもありますが やっぱり自分はこういう 巨大ロボットものが好きなんだなというのも感じます。

いや、面白いですねエヴァンゲリオン。「こりゃ 人気が出るわ」という気がします。それに自分でも変なことしてるなと思いますね。(笑)【84】

  例えば アニメのキャラクターでアイデンティティを確実に表現できる部分は キャラクターの持っている髪の形と色それと声でしかないんですよ。

第22話でアスカの内面を映像化しているんですけど現場にいた声優さん全員に アスカの声を演じてもらった。そしてその違う声のアスカを本来の宮村優子の声が否定しているという場面があるんです。やはりそういうのは自分でもおかしいと思いますね。

傍から見ると楽屋落ちにしか見えないと思いますけど当時は そういったマイナーなことまでやってました。自分のアニメの表現に対する疑問がかなり高まっていたんだと思います。

セルアニメで人間の持つ生っぽさを表現できるのは結局 声というか、音だけかと【85】

(カレカノを拝見すると庵野さんの声のこだわりが理解できる気がします。あたかも音を聞くために映像を作っているのだという印象すら受けます」と聞かれて)でもそれがテレビアニメの場合は当然なんですよ。音だけ聞いてちゃんと内容が伝わるように作った上で プラスアルファとして絵がつくという発想で制作しています。

もちろんアニメだし画がいいに越したことはないんですけど。しかし実際には パッとキャラクターを見てこの人が泣いているのか笑っているのかさっぱりわからないという画が上がってきたりすることが現場ではあるわけです。そういう時にセリフで「君どうして悲しいの」と入れると「そうか、この人は悲しいんだ」とお客さんに情報が伝わります。セルの絵だけで全てを表現することはもちろん可能ですがよほどの技術を持ったアニメーターが来てくれているなどの条件をクリアしない限りありえないですね。

特にテレビシリーズでは基本的に画に頼れないのが現状です。テレビアニメの表現はどうしても記号論にならざるを得ないので微妙な芝居は セリフとそれを演ずる声優さんに頼るしかないんですよ。絵だけでそのキャラクターのわずかな感情の動きを表現するのは難しいですね。それまでの物語の積み重ね、音の表現などで総合的にやっていくのが現実的ですね。

僕は運良く スタッフに恵まれているので音もバランスで考えられる状況で良かったです。映像の場合でも音も同じくらい重要ですから【86】

(「庵野さんは作品を評価するうえで数字をどのように考えているのでしょうか」と聞かれて) 人の心を動かした作品って初回 オンエアで数字の悪かったものが後々になって人気が出た例がほとんどですから。宇宙戦艦ヤマトも機動戦士ガンダムも放映当時の数字は散々でした。

エヴァも数字だけなら放映当時は 成功とは言えないです。失敗とも言えないけど成功とも言えない。そうした数字です。

また平均視聴率というのが 曲者で正月に放送した回が極端に低かったためにその1回のせいで全体の平均視聴率がガタッと落ちているんです。お正月なんかにアニメを放送するからだよと思うんですけど(笑)あれがなければそんなに悪い数字はないはずですか【86】

でもそのリサーチ至上主義 もどうかなと。もちろん数字は高いに越したことはないですけどね。市場の指示というものは数字でしか目に見えないし経済的なものを出さないと世間では評価されませんからね。正直ないよりはあった方がいいですね。

数値が高いとそれだけ作る環境が良くなるし。次に作品を作れるかどうかにも 直結しますし。やっぱり当てないと制作予算も上がらないですからね【87】

 エヴァをやっていた時のテーマのようなものに「作品にプライドを持つ」っていうのがあったんです。それだけは頑張ろうと褒めるにしてもけなすにしても、ですね。そこでエヴァという言葉を口に出した人が世間で恥ずかしい思いをしない作品にしたいという想いですね。

例えば 職場で「昨日のエヴァンゲリオンつまんなかったよね」という話をしていて知らない人に「何それ」と聞かれる。それで「今こういうアニメがある」と説明する。それで教えられた人が「そんなアニメがあるのならとちょっと見てみようかな」となった時に「なんだあんなものは」と思われないような作品にしたかったんです。

気に入るか気に入らないかは別としてやはり総じてアニメは基本的には子供っぽいというか 稚拙なものではあるんです。精神的に大人になっている人がアニメを見る必要を感じないと思いますから。

しかしと言いながらも世間に対してせめて一抹のプライドを持ちたいなと。「2万人のアニメファンはこれで喜んでくれればいい」だけではなくベクトルを少しでも外に向けたいということだけなんですけど。

しかし結果としては最後はアニメファンに受ける方向に行ってしまったので 結局自分もオタクだなと思いますが(笑)

まあ僕にしてもプライドを持ちたいというのは願望のようなものでしかないので本当にそれで世間に通用しているのかプライドを持てているのかと言うとちょっと自信はないですね【87】

 (「庵野さん自身がヤマトやガンダムにエヴァンゲリオンは匹敵すると考えているのでしょうか?」と聞かれて)いや全然【87】

(「ではガンダムを100とするとエヴァンゲリオンはどれくらいのものなのでしょう?」と聞かれて)いやそれは 数値化するもんじゃないですよ。

ヤマトやガンダムとかに対する思い入れというか超えたいという気持ちは僕の中で今沈静化している気がします。一種「諦め」みたいなものかと。ヤマト、ガンダムにはこのままでは勝てないという思いですね。

あれに勝てるだけの何かを手に入れてからではないとあの時代の作品や人たちには勝てないと思うんです。これに関しては育った時代の状況という要素もあるのでそれはしょうがないことかもしれないですけど 【88】

あくまでも 僕自身の認識ですけど自分がかつてヤマトやガンダムなどを見た時に受けたのと同じような衝撃を今から感じるかと言うとまだ足りない気がします。今現在ということで比べれば もしかしたら 富野 さんより僕の方が面白い作品を作れるかもしれない。しかしガンダム、イデオンの時の富野さんにはまだまだ叶わないと思うんですよ【 88】

 僕が初めて見た ロボットアニメは 鉄人28号 なんですけどそれが4歳の頃でした。それ以来子供の時から延々とロボットアニメを見続けてきた15年間という時間を経て 19歳の時に受けた衝撃がガンダムだったんです。

「あのロボットアニメ がこんなものにまでなっている」というこの衝撃は自分では超えられないんじゃないか。ファーストガンダム第1話の衝撃はそれほどのものでした。 G アーマーが出てこなきゃいけないというようなそれまでのロボットアニメの枷がまだまとわりついていながらもあの作品は「ここから新しいものをやるんだ」というエネルギーがすごかったんですよ。それまでのロボットアニメが蓄積してきたテーゼ に対するアンチテーゼやカウンターがガンダムにはものすごくあった。そこに感動したんです。

それに比べれば エヴァはまだまだ足りないですね。インパクトの度合いが違う気がします【88】

 ヤマトもそうです。本放送は14歳の時でした。あの頃は自分も中学2年になっていて親や友達から「まだアニメ見てるの」「いい歳して漫画なんか見てないでいい加減卒業しなさい」と言われていました。まあそれもそうだなと思います。しかし中2の自分が友達に話して恥ずかしくない番組がヤマトだったんです。

最初は誰も見てなかったのに「猿の軍団見てないでこっち見ようよ」とか「ハイジ見てないでこっち見ようよ」と友達とか別のクラスの人にまで布教活動しましたね。ほとんど耳を傾けてくれる人はいなかったんですけどね。(笑)

SFや戦記物が好きだったんですけどそういう自分の好きな部分も満たしてくれたアニメがあれだったんです。中2の自分が見て恥ずかしくない「やっぱりアニメ見てていいんだ」と確信させてくれる番組でした。

ヤマトを中2の時に見ていなかったらその後もうアニメは見ていなかったでしょうね。今で言えば 「ハマる」って言うやつです。ヤマトの音声を録音するために親に英語の勉強したいと嘘をついてテレビチューナー付きのカセットデッキを買ってもらいましたでも小遣いがなくてテープは120分のが数本しかなかったんですよ。新しい回を録音する前に覚えてしまわなきゃいけないんですよ。毎日カセットを延々と聞いてセリフや音を覚えていました。あの頃はヤマトのセリフをほとんど空で言えました。【89】

 そういう体験の記憶が自分の中に入り込んじゃっているんですよ。ヤマトやガンダムと違う面白さはエヴァにもあるとは思うんですけど 自分自身の認識としてはかつて14歳の時にヤマトを見た感動を超えるものは自分には作れないんじゃないか、19歳の時に子供の頃からずっとロボットアニメを見続けてきた自分がガンダムの第1話を見て受けた衝撃を自分では超えられないんじゃないか。自分の中にある記憶に勝つことができるかというとこれがすごく難しい気がするんです。超えたいという願望はありますけど 一方では自分ではできないという諦めもあります【90】

少なくとも今作るものが エヴァンゲリオンみたいなものにはならないと思います。テンパった切羽詰まったものにはならないで済むかもしれない。もうちょっと幸せなものがいいなと思います 【90】

( 漫画家の安野モヨコさんとご結婚なさいましたが作家同士で結婚することで相互作用なものが起こりませんでしたか?」と聞かれて)0ではないと思うんですけどやはり全然違う仕事ですから直接はないですね。

うちの奥さんは仕事を一人でやってしまうタイプなんでネームの相談を受けたりとかはないんですよ。だから意見を求められた時にだけ何か答えるくらいですね。仕事上は そんな感じです。ただ思想とか思考とかそういった 根本的な話とかはよくしてるのでそこらの影響は互いに出てると思います。 夫婦でプラスになっていけばいいなと思いますね。余裕のようなものは出てきたと思いますね。自分が生きている上で 常々 欲しいと思っているものは余裕なんですよ。それは増えたかと思います【90】

 (「野望は燃え盛っていますか」と聞かれて) 野望は欲しいですよね。今の日本にも野望が足りない気がします。僕も野望が欲しいですけどね。【91】

 (「富野監督は60歳を超えてなおルーカスやスピルバーグに勝つんだと野望を語っています」と言われて)野望とか野心があまりないんですよね。

面白い作品がこの先もいっぱい作れればいいやとかそのくらいですかね。そのためには予算とか時間とかがもっとたくさん欲しいですね。まあ単純に自分はルーカスやスピルバーグの映画を面白いと感じられないので憧れないんだと思いますけど【91】

(「なんだか日本の創作には何か良くない流れがある。しかしその一方で何か新しいものが生まれるんじゃないかという感覚も感じます」と言われて)世界というものは人のイメージが作るものだとなんとなく思います。だから変われという願いが満ちてくれば変わるんじゃないかとは感じます。でもそれも日本という狭い地域での感覚でしかないでしょうけど【91】

アニメ界の現状を変える作品を作る気はありませんがこの現状は 打破したいですね。それは常にわずかでも。 2003年3月【92】

 

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その他書籍

庵野秀明のフタリシバイ

https://www.tokuma.jp/book/b503856.html

演劇にハマってた頃の庵野さんの(主に)演劇関係者との対談集。対談者ごとに異なるページデザイン、構成がされておりユニーク。

【鴻上尚史氏との対談】対談日:1997年7月19日(EOE公開初日。ラブ&ポップ準備中)

鴻上氏の『ジュリエット・ゲーム』の「いいセックスしてる?」というのと「恋愛のはじめには理由はないが、終わりには理由がある」っていうのが好きなんですよ。【19】

(「庵野さんはダイアローグが好きなんですか」と聞かれて)好きです。会話劇が好き。【19】

エヴァのデザインは最初に「鬼にしてくれ」と言った。【20】

エヴァを作る時に何か壊してもう一度作り直すのはどうかなーと思ってた。とりあえず壊そうと。【23】

エヴァは本来のテレビの枠を超えちゃってる。1話からそう。その段階から「テレビでございます。この程度でございます」ってところから壊してる。【23】

エヴァの予算はテレビシリーズ並み。期間は多少あった。【23】

ゲームが出て、攻略本さえ手に入れれば間違いなくクリアできる。マニュアルさえあればなんとかなるというのが今の子供にはある。だから創り事っていうのは全て答えが存在する、それはいずれ公表されるものという認識がある。そういうのが当たり前になっているのでエヴァにしてもいずれそういうのが出るのだろうと思っているのだろう。でも僕は出したくないですね。【25】

出したらそれで終わりですからね。つまんなくなります。真実は人の頭の数ほどあると思いますから。僕にとっての真実とお客さんの真実はできるだけズレは少ない方がいいんですけど、お客さんのことをワザワザこっちに捻じ曲げてでも、こっちが真実なんだからこっち観てよというのはどうかなぁと思います。【25】

鴻上「ラストの終わり方に庵野さんのガッツを見た思いがしましたね」 庵野「そうですか。」 鴻上「あのワンエピソードがないと、ある感動的なオデッセイ、叙事詩で終わるじゃないですか」 庵野「ええ」 鴻上「そこで現実、ある種の生々しさがやっぱり残るんだっていうか。真実としてこの生々しさがあるんだというのはあるでしょ」 庵野「そうですね」 鴻上「アレは偉い。社会現象になった作品であの一つを付け足せるガッツってすごいと思います」 庵野「ありがとうございます」(EOEのラストのことらしい)【25】

14話の綾波のモノローグの話がここでも出ている。(頭のおかしい人が書いたポエムの本の話)【26】

鴻上「子供たちは劇場版で自分たちが映っているのを見て驚くでしょうね」 庵野「そうかもしれないですね」

(「声優さんのプライベートな恋愛体験などをかなり深く掘り下げ聞いてそれをキャラクターに投影していたという話を聞いたのですが?」という質問に対して) うーん、何かなぁ。キャラクターを掘り下げるのに当の本人のイメージを持ってくるのが一番ラクなんですよ。アニメって絵ですよね、でも声は生なんですよ。僕はセルアニメの中で唯一生に接する部分は、声だなと思ってるんです。だから声の芝居はこだわってやってたんですよ。【30】

でもこの間ある日突然ぱっと気が付いたのは、芝居の付け方というか要求の仕方って言うのが自分のイメージしているのに一番近いニュアンスっていうかイントネーションに近い言い回しをしてくれるように追い求めてる気がして、それってなんかこう・・・人形みたいな感じがしたんです。何か、役者に対する芝居のリアリティって何なんだろうって。求めてるものが生じゃなく作り物みたいな感じがしちゃったんですよね。【31】

芝居やってみたいんですよ【32】

昔から生の会話が好きなんですよ。芝居いいですよね。僕の一番端っこにある。すごくいいんですよ。一番遠くにあるんですよ。【33】

あとは芝居を作るシステム、あれがうらやましい。アニメは複合人格。何人ものアニメーターさんが一つのキャラを描いて、それを統一してるのは声優さんの声だけ。あとは髪の毛の色とか。記号論なんです。話によって間が違っちゃうんです。そのシステムを何とかしたいっていうのがあるんですよね。声のね、生の部分の芝居つけるのって、長くて4時間なんですよ。4時間しかもらえない。映画の時はその倍の8時間。そんなんで芝居ができるかなんですけど。でも3日、4日あればよくなるのかといえばそういうわけでもない【33】

鴻上「声優さんでこの人は早口だからちょっと時間が短いようにしとこうって考えるんですか」 庵野「僕はそうです。第1話だとわかんないけど、ある程度つきあえばこの人早口だから巻きにしておこうとか僕はやってますけど。」【34】

先日第26話で3シーン、シンジとアスカ2人の芝居のヌキ取りをとるのに7時間以上かけさせてもらいました。初めて満足したアフレコでしたね。【35】

【野田秀樹氏との対談】対談日:1998年2月20日(ラブ&ポップ公開中及びカレカノ準備中)

映画館の空気ってあんまり信用置いてないんです。今の若い人がお金払って映画観に行くってことはもうすぐなくなってきてますよ。【52】

エヴァの映画の時は精神的に辛かった。(ラブ&ポップよりも)【67】

声優の声は「生」だと信じていたのだが、そこにあるのは技術だと気づいた。そこにあるのは記号だと。人の声をした記号。そう思った瞬間にダメなんです。(鴻上氏との対談でも言っていた)【67】

カレカノでは一人でも多く声優さんを使うまいと思ってるんです(笑)【68】

カレカノでは自分で音響をやれることになった。TVシリーズでも無茶と言えるセミプレスコシステムを導入したりしてた。【74】

【幾原邦彦氏との対談】対談日:1998年7月31日(カレカノ準備中)

カットを切り返して、止め絵のリズムで観せるのってもう飽きた。エヴァでやり尽くしたね。【76】

最初『バーチャファイター』を見た時、これにアニメは勝たないといけないのかって、ショックだった。その時に「だったら絵以外のところでレベルを上げていかねばいかんな」って。ちょうどエヴァやる前かな、思ったんだよね。【78】

CGの影嫌い。やっぱりパキっとしてないと。ワカメ影も板野さんとかセンスのいい一部の人が使って許されるもので他の人が使うとワカメにしか見えない。王立の作画をやった時はアレに対するカウンターだった。【80】

コミケでメジャーになるかならないかっていうのはエロティックなものになるかならないかっていうこと。やっぱりいつの時代も性的産業が強い。鶴巻が言ってたんだけど、ひたすら等価値なんだよ。広末涼子も綾波レイも。話すことが出来ないという点で、自分の中での距離が同じなの。【81】

幾ちゃん(幾原さん)は学生時代に演劇を割と見る人だった。自部が演劇に興味を持ったのは彼の勧めもあります。彼の演出したセーラームーンや金魚注意報は面白い。まだウテナは1話しか見てない。すまん。エヴァ始めてからほとんどアニメ見れてない。【87】

【KERA氏との対談】対談日:1999年4月11日(カレカノ放映終了直後及び実写新作企画中)

(「筋肉少女帯の三柴氏はウルトラセブンがキングジョーに負けそうになるのを見て興奮して初めてオナニーをした」という話の後に)ウルトラマンってそういうのありますよね。僕はやられてるシチュエーションが好きでしたね。レイプみたいな。【93】

『ゲバゲバ90分』を子供の時に見てた。インパクトを受けた。『94』

『奥様は魔女』でスゴイと思ったのはテレビから笑いが聞こえてくるところ。あれはうまいですね。やっぱり舞台を意識してるんでしょうね。【95】

『モンティーパイソン』はギャグもいいし、割と好き。でも僕は字幕スーパー版じゃなくてやっぱり日本語吹き替え版。【95】

演劇を見たきっかけは声優さんのお呼ばれ。大学の時に舞台やってる友達はいたが前衛的で全然わけがわからなかった。俺はこういう世界に入っていけないっていう感じで。数年前に声優さんのつきあいで観に行ったらなんかなぁ、面白かったんですよ。【97】

エヴァのアフレコ現場はすごく緊張感があってよかった。他の現場と全然違った。女性陣が他所だとジーパンだとかTシャツなのにエヴァだと着飾って来る。女の闘いですよね。なかなかイイ現場でしたね。【100】

新谷さん(カレカノ・FLCLでおなじみ)に会った時に「なんで芝居やってるんですか?」って聞いたら「滅び行く美学があるから」って言ってて気に入って新谷さん入れようって。【101】

何も言わないっていうのは2種類ですよね。役者を信用してるか、信用してないか。【103】

自分は作品に寄りけり。これは放し飼いだって思ったら放し飼いだし実写だと注文しない。芝居は役者に任せる。その方がいいものになる確率が高いですから。【103】

ギリギリまでよりよいイメージを模索した。だから意見を言ってくれ、このままでは良くないんじゃないかっていう不安が毎回あります。【103】

いわゆる独裁者にはなりたくない。最終的には決定権は僕が握ってるっていうのがいいんですよ。それが監督というか責任者ですから。うまくできたらスタッフやキャストのおかげ。失敗してたらそれは自分の責任なんですよね。【104】

基本的には自分も含めて作品の奴隷なんですね。作品にとっていいものであれば、どんなスタッフの意見でもよければ取り入れる。だから役者の分際でっていうのはないです。新谷さんみたいに噛みついてくれる人は好きですね。【104】

エヴァまでは1試合完全燃焼でやっていた。(今もでは?)でもそれやってるともう続かなくなっちゃいますね。【106】

芝居もAVも日本映画も現場の人と話をするとどこもかしこも限界みたいなことを耳にする。どこも閉塞感というか行き詰ってる雰囲気がある。アニメもそうだし【108】

何かこうトータルにできないかなぁと思う。統一場理論みたいなもの。これらを一つにする方法はないのかなぁと。垣根というかパーティションをとっぱらって、もうちょっと人の出入りとか自由に気楽に激しくなるようにですね。お互いのカテゴリーに関係なく別々のフィールドがぶつかると面白くなるように思えるんですけど。いわゆるコラボレーションというやつですかね。【108】

風呂敷は広げるだけ広げてですね、キレイに畳むだけが方法じゃないと思ったんですね。もっといろいろあっていいんじゃないかと。世のなかはエヴァだけじゃないし。【111】

【松尾スズキ氏との対談】対談日1999年5月18日(式日準備中)

※この対談だけ左から右へページを読むようになっているため後半の方がページ数が若くなっている。

昔専門学校で講師みたいなことをやったことがある。【154】

インタビュー記事が世に出る時にはネタが古かったりその時から思ってる事も変わってたりする。GaZOのVol2もそうだった。1年前のインタビューが載ってて「今はもうそんな思いをもってないよ」っていう感じだった。【151】

エヴァの時はパソコン通信が伸びてる頃で最初のうちは読んでたのだがそのうち読む暇もなくなって。参考意見になるありがたいものもあるんですけど大抵はホントに便所の落書き。だから見るのが億劫になって最近は見なくなった。リアルタイムで感想が聞けて、それを次に反映できるという夢があったんですけど、まあ見事に砕けましたね。【148】

最近疲れてる。【147】

『ガメラ3』をやったスタッフが終わってやっぱりへこたれてるって言ってた。僕自身も最近なんか疲れてるんです。自分でも休まないとちょっと危ないなっていう感じがしますね。自分で蒔いた種なんだけど、きつ過ぎる。【146】

組織を維持するための仕事をするんだったら、その組織はもう解散した方がいいんじゃないかな。【144】

ガイナックスでもう番を張るのに疲れた。【143】

最近疲れてるのに心惹かれてます。なんかみんな疲れてるんだなあっていうのを見るの、何か心が休まる。【142】

この間『人狼』というアニメを見たんですけど疲れ切ってるアニメで良かったんですよね。【141】

客って終局を観たがりますよね。【141】

今ジブリでいろいろやってるから巷では『山田くん』を手伝ってると噂されている。(実際は式日)【140】

『ミス・サイゴン』を観た時にはスゲエ!と思いました。【139】

清川元夢さんのために「舞台をやる」と5年前に約束して、その締め切りが6月いっぱいなんですよ【139】

清川さんは父と同い年。30分ぐらいの舞台を。【139】

オーディションは最初は面白いんだけどだんだん似たような人しか来なくなって途中で飽きちゃう。【138】

ジェームズ・キャメロンはどうやったら元が取れるか、リスクを極力背負わないようにということを確率論でやってるのが小憎たらしい(笑)【137】

松尾氏「鶴巻さんのアニメに僕ホントに出るのかなぁ」 庵野「出ると思いますよ。キャラクターで1人松尾さんをモデルに作ってましたから」【136】

『ターミネーター』は1ぐらいかな。キャメロンって基本的に好きになれないんで。観るたびに何かこうダメなんです。同類な感じがして…。【136】

芸風を変えたい。疲れてる。ちょっと何か広げたいって言う感じ。【132】

プライベートライアンはまだ見てない。(後に観て音響等に衝撃を受けたと言っていた)【128】

子供の頃61式戦車が展示でデパートに来て乗っけてもらってすごいかっこよかった。やっぱり戦車はいいなあと思う。【127】

死の瞬間って至福があるかもしれないですよね。これまでにない快楽と共に死んでいけるんじゃないかと。セックスしながら首絞めるのってなんかこういいらしいじゃないですか。【125】

戦車が好きなのは男性のシンボルと同じで…。戦艦もそうだけどでかい大砲が付いてるところ。そこにこだわりがあるんです。【125】

男が男であることを女に提示できるものって戦争しかないかもね。戦争映画を女の人よりは男の人が好むのは戦争は男の仕事だからでしょう。そうしないと男はどんどんメス化していくから。【124】

自分は女に振り回されたいタイプ。理想はヒモ。【122】

金を使うものは本とDVD、LD、CD。それ以外に使うこともない。欲しい時にすぐ手に入れられるお金があればいいだけです。今一番お金使ってるのはタクシー代ですよ。物欲ないですから。【121】

(「他になりたかったものは?」と聞かれて)バスの運転手。電車の運転手。

(「タクシーの運転手じゃない?」)タクシーじゃない。車は興味ないです。

(でっかいのがいい?」)でっかいやつ。

(パイロットは?)飛行機はそんなに興味ない。船と電車。

船と電車はやっぱり子供の頃側でよく見てたからでしょうね。あとは戦車。【119】

もともと男ってそんなに必要ないんですよね。子種と外で戦うくらいしかすることない。平和と呼ばれる状況だと女性に甘えるだけなんですよね。でもそれが本来の姿なのかも。そのうち子育ても男の担当になりますよ。【117】

(「これだけは嫌だっていう死に方はありますか?」と聞かれて)溺死はいやですね。

(舞台について)そういう客の思い込みっていうのもなんかうっとうしいですね。客は絶対安全な場所にいるみたいな。1回たとえばスプリンクラーをガーッとかけてみたらどうですか。【115】

(インタビューを終えて)この時もなんか鬱状態でしたね。本当に疲れてたと思います。何も映画の企画がまとめられず、何もできない時でしたね。【113】

【いのうえひでのり氏との対談】1999年8月10日(実写新作準備中というより、企画混迷中)

僕のアクション観は大野剣友会くらいです。【160】

犬は基本的に好きじゃない。愛玩用に改造された犬は哀れを通り越してイヤですね。【167】

僕はもともと人間がキライですから。極論すると滅びてもいいって思うし。【167】

映画は人間がパーツになるからいいんですよ。映画を作るっていう目的の元に自分たちがパーツになるわけですよ。【167】

僕自身ドライなのかウェットなのかよく分からないですね。【168】

MTV(アメリカのケーブルテレビ)は見てないです。【168】

(庵野さんの編集はMTV的だといわれて)飽きる前に切るというのが鉄則ですから。タルイのがヤなんですよ。【168】

でもタルクするところは、とにかくゆるくやる。タルイところを際立たせるためには、他を刈り込む。映像のいいところは時間を自由にできることですね。【168】

もっと観たいと思ってもここまでしか観せない。観る人が考える暇もなく次々に観せていけますからね。【169】

人が何かを考え付く前に、次にいってしまえば、なんかよくわかんないけど、面白かったっていうことになる。【169】

【常盤響氏との対談】対談日:1999年8月9日(実写新作準備中というより、企画空転中)

(「エヴァのOPはミュージックビデオみたいでしたよね」と言われて)
TVアニメのOPってここまではできますよっていうクオリティーの保証みたいなものなんですよ。
どこもOPだけはエネルギーを使ってますね。【174】

まずOPが面白くなかったら,チャンネルを変えられちゃう。
エヴァもOPを毎回変えたかったんです。【174】

パッケージになったとき,同じものが入っていると思わずサーチしちゃうでしょ。
(「サーチ」とは早送りの意味らしい)
だからといって,OPが省略されて1本しか入ってないのはヤだし。
なんとかEDだけはバリエーションを用意しました。【174】

カレカノのEDは毎回違うんですが,実写ビデオだからよかったんです。アニメでやってたら大変ですよ。【175】

エヴァでは歌を変えることにして,それが成功した。同じ絵で同じ歌っていうEDの固定概念がイヤだった。【175】

LDって場所を取るからヤなんですよ。小さい方がいい。【175

でもDVDってCDと同じ形で良いのに,なんであんなトールボックスで出すのかなぁ。【175】

僕は本はけっこう表紙で買うことが多いです。常盤さんの装丁した『インディビジュアル・プロジェクション』は最後まで買うのを悩みました。
結局装丁だけで買うのはやめようと思ったんですが(笑)【176】

最後の購買意欲をそそるのって,ジャケットなんですよ。アニメ誌でも何誌もあるけど,中身はあまり変わらない。その時に1冊何か買おうとしたら,表紙なんですよね【176】

パトレイバーのジャケットが実写なのはちょっとアレな気がします。絵をそのまま実写化というのはかっこいいと思えないです。
送り手側がそれをやるのはどうかという問題です。ああいうコトをやるとアニメそのものを否定する気がするんです。アニメだからできる一番いい長所を,否定してる気がして。
それって実写という方法論をまちがえている気がする。【177】

カレカノのterm.2の階段やterm.5の海の写真とかいいですね。(対談相手の常盤さんの仕事)【177】

常盤さんの写真というか,装丁がすごく好きなんですよ。本屋であ,いい,と思った表紙はたいてい,常盤さんでした。
カレカノのビデオ&LDのデザインワークをやっていただけました。【186】

【田口ランディ氏との対談】対談日:2000年11月24日(式日公開直前)

この映画のテーマは何ですかって聞かれることは多いですね。岩井俊二さんに「庵野さんて,愚問に対して厳しいですねえ」と言われた。
「インタビュアーがばからしいこと聞いてくると,ほんとに手厳しく答えるんですね」って。
「映画の見どころは何ですか」っていう質問ってイヤだなぁ。【188】

ルーチンにはルーチンの一番ありきたりなことを言って,期待されてることだけは言うまいって思う(笑)。
だから僕は雑誌方面では,評判悪いそうです。インタビューしづらい人だって。【189】

新聞は基本的に嘘書きますからね。嘘多いですよ。【189】

答えがみつからないと気が済まない。戦後の教育の悪いところですね。
人の考えたことだから必ず答えがあるだろうと・・・。【190】

エヴァで感じたことなんですが,あんなに膨大な人たちが答えを必要としているということが意外でした。
やっぱり,戦後教育のゆがみですかね。原因探したらたぶんその辺になるんじゃないかなぁという憶測でしかないですけど。【190】

僕は受験勉強に落ちこぼれた方なので。勉強らしいことをしたのは中学までですね。【190】

最初はイヤだったんですけど,10年以上いると東京もいいなと思いますね。【191】

(「思春期の時に興味を持った者をいまだに興味を持ち続けている。結局思春期の決算をずっとやり続けているような感じ。庵野さんはどうなんですか?」と聞かれて)
よくそう言われます。俺にはちょっとわからないですね。でも結局14~19歳ごろの興味をひきずっているのかなぁと感じます。
あの頃はアニメですね。漫画とか。【192】

「もうそろそろ自分も卒業かなぁ」と思ってた矢先に『宇宙戦艦ヤマト』を観たんです。当時自分が観たかった全てがそこにある感じがしました。
話が面白かったし,メカもかっこいいし,画も音楽も良かったし,戦記物の雰囲気もあるし,友達に自慢できるTVマンガだったんです。【192】

友達に布教活動してました。ヤマトがいわゆるアニメファンを生んだんだと思います。【192】

ヤマトはガムとかカードとか小遣いをはたいて箱買いしました(笑)情報に飢えてたんです。
ヤマトを知るためには本でもガムでも何でもあるものは買いあさりましたね。お年玉も全て使って。【192】

高2の時8ミリをようやく買って,それで自分でアニメを作った。自分が描いた絵が動くのを観てやたらと感動しました。
その後同じ友人らと特撮のヒーロー物のパロディとかを作ってました。それを文化祭で上映してすごく受けたんですよ。【193】

それからですよね,こういう世界に行くのは。中学・高校の時からそのまんま引きずってる気がします。【193】

『式日』は相互依存の話ですからねぇ。バランス悪いんですけどフィフティ・フィフティの依存じゃないのかな。【197】

人は結局誰かに頼っていないと生きていけないわけですからお互いにギブアンドテイクが基本にありますよね。でも中には100%他人か何かに自分をゆだねようとする人がいて。
そういう人はちょっと厳しいんじゃないのかなぁ。妄想に依存している人が多くて,僕自身それが一時期耐えられなくなって,そういう人たちに対して,思わず攻撃してたんですけど,
考えてみればそういう人はそうじゃなくちゃ生きていけないんだから,あまり攻撃しすぎるのもなぁ,と。
せめて認識しているというか,それに気が付いていて,確信犯としてやってくれと思います。妄想に行かなくては生きていけないのは分かりますけど,「自分はそうなんだ」というのを
せめて認識しててくれと。あの映画の中の女の子もそういう感じなんですけど。【197】

(「自分ができることということをやっぱり考えますか?」と聞かれ)できること?何ができるんだろうってこと,考えますね。
よく思うんですけど,ふと言葉に出るのは人の役に立ちたいという気持ちの延長なんです。なんで役に立ちたいかって考えると,自分に全然自信がない。
どっちかというと,自分という人間が嫌いな方で,せめて自分くらいは自分を好きになってあげないと,自分がかわいそうだと思いながらも,
やっぱり自分はどっちかというと,否定の方に入る。その否定の方に入ってるのを何とかプラスの方に持って行くとする気持ちが,せめて人の役に立ちたいというバランスを取ってるのかなぁ。
こんな自分でもお役に立ててる,ここまで毎日深刻に考えている訳じゃないけど,たぶん根底にそういうものがあるんじゃないかと思います。【198】

式日の芝居に関しては監督としてあまり演出してない。そこまで自分の妄想にしたくない。映画が続けられるっていうのはそこにあるんですよ。
僕が物書きだったらたぶん1年持たないと思います。それは一人で作業するから。一人で作業するのは脚本ぐらいにしておきたいですね。
脚本は映画の設計図なので,最終的に形にするときは1人で作業しています。それからあとは映画は色んな人の色んなモノが入ってくる。
その時のスタッフとか,役者で作るものが全く変わっていく面白さがあるからいいですね。【199】

同じ作品と付き合うのは2年が限度ですかね。それ以上はつきあいたくない。エヴァの時は3年半も付き合っていたんで少しやりすぎたなぁって思います。【200】

実写に挑戦してみたのはアニメーションに自分の限界を観てしまったことと,実写が持っているスピーディな感覚を知ってしまったことです。
アニメの場合はまともなものを作ろうと思うと,どうしても2年くらいかかる。実写は半年で完成できますから。【200】

(「撮影を始めてから終わるまでっていうこと?」と聞かれ)全部ですね。式日では今の形の企画書のペラを書いたのが1月6日で,7月7日に完成初号ですから早いです。
半年で映画が一本できる。【200】

ジブリのアニメのプロデューサーが撮影現場に来たんです。(鈴木P?)1カット撮るのに5~6時間かかるのを見ていて「実写は大変ですね。1カット撮るのに6時間もかかって」と言っていましたが、でもアニメは1カット作るのに2日かかるんですよ(笑)
それでもできて数秒がスタンダードです。しかし実写の場合,6時間で1分も10分もできてしまう。これはすげえです!(笑)自分の余生を考えれば,実写の方が本数作れるなというのもあります。【200】

実写だと監督だけに徹すれば年2本できる。でもなかなかモチベーションが持たなくて,やっぱやれて1年に1本になっちゃうんですけど。【201】

(「アニメはもういいやって感じ?」と聞かれて)アニメはもういいやと思いました。もう冷蔵庫が空になるまでアニメをやってしまっていたんですね。
新しい材料が入らないとアニメではもう料理できない。で,実写映画という隣の冷蔵庫に行ったら,やっぱりよくわからなかったです。【201】

去年はいくつものオリジナル企画を考えては自分でつぶし,考えてはまたつぶしの繰り返しでしたね。いきなり対策をやらなきゃというプレッシャーのようなものもあったと思います。
食べたこともない知らない食材ばかりだったので,料理の仕方もまるで分からなかったんです。その時の自分の器に合う企画というのが『式日』しか見いだせなくて。
切実な思いで作ってるんです。すみません,これしかできませんという。【202】

『式日』は自分の中ではかなりポピュリティを持たせてるんです。いわゆるエンターテインメントとは違うんですけどね。男と彼女をはじめ猫以外に名前が出てこない。
観た人が何とかさんではなく自分のことのようにとれるようにです。あとは台詞やディスプレイ,ビジュアルも含めてキーワード的なものもかなり分かりやすくしましたし。【203】

方法論としては分解と再構成しか知らないんですけどね。【204】

(「女の子が毎朝屋上に行って「今日も私は大丈夫」ってやってますよね。あれって原作にあるんですか?」と聞かれて)あ,ないです。
僕も1回だけやったことがあったんです。4年くらい前ですけど。会社の屋上に上って,その時酒も飲んでて,もうちょっと深酒してたらちょっと危なかったかもしれません。【205】

屋上のへりギリギリに足を出して,飛び降りられるかどうか確認したんです。飛び降りればそれまでだし,飛び降りなきゃまたしばらく大丈夫と酒の勢いもあって,プラプラしたんです。
でも会社の屋上って3階とちょっとしかなくて,下がはっきり見えるんです。のぞくとかなりリアルな映像で痛そうなんですよ。それが思いとどまる最大の理由でしたね。
もっと高けりゃ下に行くまでに気を失いそうだし,これならいけるかもしれないと思う気がするんですけど,
3階という中途半端なところだと1度じゃ死ねない感じもするし怪我は嫌だしなぁとリアルなところを考える。そのときは結局なにもしませんでしたね。【206】

電車での自殺も1回考えたんです。なんか変な言い方だけど「どうなるんだろう?」という興味の方が大きくて。
考えたけどあんまりよさげじゃなかったんで,それもやめてしまいました。電車停めるのもすっごいメーワクだし。【206】

僕らの世代はノストラダムスの世代。なんか面白いことが起こるんじゃないかって思っていたんですね。【207】

阪神・淡路大震災の時もサリン事件の時も最初は虚構っぽかったり「日本でこんなテロが!」と正直興奮したりしてたんですが被害者の方がいるとダメですね。
現実に人が死ぬのはやっぱやり切れん感じがしますね。【208】

(「映画って撮り終わったときにどういう気分になるもんですか?」と聞かれて)回数が重なるとだんだん変わってきますよ。できたときの喜びとか,スタッフの顔色が気になるとか。諸々あります。【208】

(「私は本を書き終わるとなーんにも面白くないんですよ。見たくもないんですよ。本でも書いてる時だけが楽しいんです」と言われて)それはあります。同じです。【208】

終わった映画はまず見直さないですね。エヴァもこないだ原画本を作るのに観直したくらいです。なんか5年ぶりに見直すとですね「あっ結構面白いじゃん」と思いました。(笑)
こりゃみんなが騒ぐのも分かる。よくできてます(笑)【209】

↑これがのちの5.1ch版DVD,新劇場版に繋がっていくのだろうと思われる。

シナリオはある程度の映像イメージのラフがあって書いてます。【209】

セックスをシナリオに使うんだったらSMっておもしろそうだと思うんです。性と暴力は万国共通で,最高のエンターテインメントだなあと確かに思いますけど,
その中でも異世界感を味わえるのはSMだと思います。よく作り手がSMに走るの,分かるような気がします。日常の絵院長で一般の人たちが面白いと思うのは犯罪とSMくらいしかないんじゃないかな。【211】

『式日』のラストは僕としてはギリギリの選択で,あと半歩のところまで行ったけど,なんとか変な世界からは逃げ切るのかなぁと思わせたんですが。
半歩。下がってはいない。半歩進んでるんですね。【211】

『式日』は僕の中でかなり僕らしくないんです。あんまり自分が好きな世界ではないんです。【212】

(「式日のような映画を要望されるでしょ?」と言われ)言われますけど,あれ撮ったからあっちの方面はしばらくいいやと思います。できるだけ違う感じのものを撮り続けていきたいですね。【212】

『式日』は案の映画なら他の終わり方があったと思うという人がいるんです。そこに収まるのは気持ち悪いなぁという気がしてたんです。そういわれて青の終わらせ方で良かったんだと最近確信しました。【212】

↑について,ひとつは,主人公が死んじゃうっていう終わり方。自分らしい終わらせ方は途中で男が逃げ出す。「こりゃ,かなわんんわ」って感じで逃げ出すと思います。
それらは今回「やめよう」って思ってました。ただお客さんの中にはエヴァみたいな壊れたラストを期待する人もいると思います。【212】

映像のいいところは一方向メディアなので客が文句を言っても映画は変わらない。それが映画のいいところですね。小説もそうです。【213】

『式日』のエンディングは違うバージョンがあったんです。キレイに片付いた彼女の部屋の中からカメラがずっとワンカットでそのまま商店街通り抜けていくというもの。ラストは太陽です。【213】

『式日』のエンディングは実は最後に雨が降っているんです。一部の人にそういう毒のある演出は面白いだろうけど,前向きに映画を観てくれてる人には申し訳ないなって思って雨粒がレンズに着く直前,1コマ前で終わってます。【213】

AVの周辺にいる人は面白いです。ああいう人たちにはかないません。すごい人たちです。それだけの力が自分にもほしいです。入っていきたいですね。【215】

結婚したり子供ができたとたんに,創る側にいけなくなってしまった漫画家を知っています。【216】

村上龍さんは極,普通の人だと思うんです。俗物が俗物じゃない人にものすごくあこがれているという視点で作品を書いてる感じがします。
僕は村上さんがそれを認めた『5分後の世界』がすごく好きなんです。【217】

あまりモテない。圧倒的に女性の知り合いが増えたのはエヴァ以降です【218】

(「自己肯定的に自分のことを観ないって子供のころからなんですか?」と聞かれて)子供の頃はもっと浮き沈みが激しかった。「自分ってイケてるんじゃないか」って思ってて。
すぐ出鼻をくじかれて「やっぱ,ダメなんだ」と,これの繰り返しが激しかった。だんだんこの繰り返しの山がスッと平らになっていったんです。【219】

今の人は生き急いでる感じがしますね。自分の親や周囲の大人とか世間の情報から自分がどういうところまで行けるのかとか予想できちゃうんでしょうね。【219】

この間すげえ頭が良くて図書館の本はほとんど読みました。でもゲームはやらない。小説や経済の本を観てる方が面白いって子と会った。
ああいう子供がいればにほんはまだまだ大丈夫だなぁと思いましたよ。【220】

水が好き。形が無いから器によって形が変わるところが好きなんでしょうね。川のせせらぎ音も好きです。去年『となりの山田くん』の試写会に行くつもりだったけど急に富士山に行きたくなって,
御殿場まで行ってその場でうろうろしてたら川を見つけてすごくうれしかったんです。その時に自分は風景の中では川が好きなんだって確信しました。
川にかかってる橋も好きですね。用水路をちょろちょろと流れているちっちゃい川とか「あっ,ここに川がある」って見つけたときにはうれしいですね。
水が流れるっていうのが好きなんです。あと胎内・・・母親の体の中で羊水で満たされ,生命というものを育てたりというイメージが良いのかな。水が好きなんだなぁ。水に満たされてる時が好きです。【220】

自然は嫌いなわけじゃないけどそこまで好きじゃない。【221】

廃墟が好き。廃墟には時間っていう自然が流れていると思うんです。人工物であり,自然との中間にある。自然に戻りつつある人工物が廃墟になる。
90年代の建物は全然興味ないですね。つまんなくて。この間霞が関ビルを見て「やっぱりいい」と改めて思いました。【222】

90年代の建物がつまんなくなったのは一面性だと思う。裏が無いんです。見たらすぐわかっちゃう。その後ろに何もない。
近代の乗り物や平気なんかもつまらない,ツルッとしたデザインが多いですね。何か人のにおいがしないというか,コンピューターで計算された感じがします。
昨日にプライオリティを持って行くのも分かりますが,機能美だけっていうのは,ほんとに一面的なものになると思う。【223】

子どもの時は核ミサイルがいつ飛んできてもおかしくないと,子どもの頃は核がリアリティあったんですね。
いつか核ミサイルが落ちてきて死ぬのかなぁ。でもそれは東京だから,山口は大丈夫なのかなぁ,なんて,戦争っていうのはそんな感じでした。【224】

自分は相手に合わせて喋り方を変えるところがあります。何か,田口さんもそんな感じかなぁと思いました。【227】

【林原めぐみ氏との対談】対談日:2000年12月12日(式日公開直後)
エヴァは贅沢な林原さんの使い方だった。例は台紙がなかったから,代わりに色んな声をやってもらったね。
林原めぐみを呼んでおいて,1話で「はい」しか台詞がないなんてほんと贅沢って言われてた。【232】

『式日』のヒロインのキャスティングは庵野さん。原作を読んだときに本人がやらなきゃ,これはしょうがないよなと思った。主人公の岩井さんは鈴木Pの推薦があった。【237】

『式日』の前は全然違うのをやろう,やろうと思って結局できなかった。いきなりそっちに体かな,心かな,その辺が移行できなくて,半年ぐらいグルグルと空回りしてた。
空回りの先にあの原作があったんです。商売を考えたら難しい企画で,お金は出しづらいし,元も取りづらい。決して万人受けのエンターテインメントではないから。【239】

(「パンフかな。大竹さんのシーンがアドリブがどうのこうのって書いてあったんですけど。脚本がなかったとか。」と言われて)台本あると,台本の通りにしかならないと思って。あれが,何かイヤ(笑)【241】

大竹さんに結局説明しなかった。「台本が上がるんじゃないですかねえ」とか言ってたんだけど,ウソでしたね。スタッフも出演者もものすごい不安になってた。【242】

大竹さんも「自由にやってください」というのは今までやったことありませんと言っていた。終わるまですごい不安だったみたいだけど終わったらすごい気に入ってくれてたからよかったんじゃないかな。楽しそうだったよ。【243】

林原「エヴァですごい覚えているんですけど「赤ん坊が生まれるような声」っていうのと,あとレイちゃんが何回か『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』を歌う時に,1人目のレイは冷静に歌って,2人目のレイはもうちょっと冷たくて,3人目のレイは,猫を無表情でギュッてひねりつぶしちゃったりするような歌い方でって。」
庵野「猫を絞め殺すような歌い方」
林原「そういうよくわからない要求をされながらも,こうかな,こうかな,こうかなって思う作業が嫌いじゃないというところを実感しながら,のこのこ帰ってました。【245】

林原「監督が覚えているか,覚えてないか,すごい印象的なセリフが合って,それは私の中で自分にも刻んだし,ああ大事なことだなと思ったんですけど,ある子が自慰行為をするシーンがあって,
その声を女性がやってたんですよね。その時「私は男じゃないし,わかんないし,どうしたらいいかわかんない」って言って,ワッとなったときに「非現実なところとか,非リアルなところにリアルはあるので,
思ったままでやってください」という風に監督が言ったんです。「リアルじゃないところに,リアルさと説得力があるので」って言ったのかな。おーって思って。
庵野「そんなの言ったっけ?(笑)」
林原「今はそう思ってないんですか?」
庵野「そういう考えはあるんだけど,そんなこと言ったかな」
林原「そうしたら,やる人も納得して,「はい,わかりました」って言ってやってて。だから,すごく,なるほどーって。【246】

当時セルがイヤでイヤでしょうがなかったね。セルの持っている無機質な感じがすごいイヤだった。でもそこがアニメのいいところなんだけど,そればっかりやっていると,なんかどんどん嫌になってきた感じかなあ。【246】

アニメーションはアフレコから先の感覚だけは実写に一番近いね。【247】

字幕だけで,人の声がしないアニメって,俺はやっぱりあまり面白いと思わない。何か足りない気がするの。やっぱりそこに人の声が欲しい。【247】

(「監督という人は頭の中に絵があるんだなあっていう気がしたんです」と言われて)僕はアニメにはあるけど,実写はなるだけイメージ作らないようにしてる。
これはたぶんアニメを長くやりすぎたせいだと思うんだけど,どちらかというと,台詞に行ってるの。モニターは画角とかしか気にしなくて,どっちかっていうと,台詞だな。
今の台詞がよかったかどうかで,結構OKテークは判断する。これは長年そういう仕事をしたからかもしれないけれど,声の感じを取っちゃうね。【249】

僕は自分の声が嫌いです。小学校の時にレコーダーで録って聞いてみたらすっごい変だったんだよ。【250】

自分の首って逆三角形なの。下の方が細いから声が高いのかなあ。(高いか?)もうちょっと自分の声がよけりゃなあ。もっと出るのに(笑)
モブの声とか,足りない時は自分の声で埋めたりしてるケド。最後の手段として。基本的に自分の姿や声がイヤなんだろうね。【250】

出るのは嫌いじゃないけれど好きだというわけじゃない。出るのが好きだったら,もうちょっと積極的に出てるね。【251】

林原「監督って,レールが好きなんですか」 庵野「線路,好きだね」
林原「『ラブ&ポップ』にも出てきたじゃないですか,レールが。」
庵野「そうそう。列車が好きなの。線路とか,電車が。」
庵野「アニメで線路は大変だから,あまり使わないの。だからエヴァの時全部リニアにしたんだよ。上はどう見ても普通の電車なんだけど,とにかく線路だけは描きたくない。
線路描くの大変なんスよ。ゴマカシきかないし,平行線で描かなければいけないし。枕木がまた線が多くて立体で大変なの。」【252】

林原「バスタブも好きですか。式日で出てきたときアスカと重なったんですけど」
庵野「そういえば入ってたね。忘れてた,すっかり。あれ,同じ意味の使い方じゃないかなあ。何だろうなあ。無意識なところでしょうね。」
林原「私は,あの中でうずくまるという,すごく狭いところにいたがるような。それをあれこれ考えるのも違うなあとおぼろに思ってたんです。」
庵野「イメージ的には胎内回帰だもんね。母親の中。子宮代わりにバスタブを使っているんじゃないの。なんで子宮がバスタブなのか,自分でもよくわからない。産湯のイメージ?
へその緒を切ったら湯に入れるから。【253】

とりあえず(『式日』の)次は変えるんじゃないかな。あまり同じのはやりたくない。結果として同じになっちゃうのはしょうがないですけど。【255】

「自分の中にあるもの」はできるだけなくしたいんだけどね。『式日』はそうだよ。できるだけ自分の世界を削ろう,削ろうと。削って,そこにいる人のをはめ込んでいく。【256】

あまり自分で自分を観たくない。それは面白いとは思わない,自分のやっていることとか,考えていることとか。【257】

林原さんはすっごく頭のいい女性ですね。自分に何を求められているのか,瞬時に判断できる方です。勘が良いんですね。
それでいて役の入り方というか,掴み方が的確というか,シビアで良いです。綾波レイを林原さんに決めたのは天佑だったかと思います。
自分の場合林原さんを始めキャストやスタッフに常に恵まれています。アニメや映画の神様には,好かれている感じがしますね。ありがたいです。【259】

【Dr.エクアドル氏との対談】対談日:2001年1月19日(実写新作準備中)
雑誌の記事を観て庵野さんが非常に興味を抱いた劇団がゴキブリコンビナート。表現するうえでぶつかる閉塞感と格闘する様に引かれるらしい。どうしても話してみたいと庵野さんの切望により対談が実現した。【261】

(どこで客が引くのかという話になった際に)とても面白いドキュメント映画で北海道をAV女優と二人で旅をする話(『由美香』平野勝之監督)があるんですが,最後にヒロインが自分の排せつ物を食べるシーンになって観客は一斉に目を背けるんです。
クライマックスなのにここを観ないとはお前ら何事じゃー!?という(笑)うんこをするところと,それを食うところはほとんどの客が観てませんでした。これが境界線かなと。
この映画でテーマになっている部分を観ないというのは映画としてとかじゃなくて生理的にダメなんでしょうね。【263】

うんこといえばハイレグジーザスの芝居でもやってましたね。朝出したものを客席に飾っているんです。上演中に役者たちがそこに手を突っ込んで指の先につけてそのまま客席になだれ込む。
その時の客のパニクリようは尋常じゃないです。全然本気度数が違う。自分の体や服にうんこがつくことがそんなに怖いのかということがよくわかりました。【263】

最近日本も感覚的にオープンになってきていてモラルの感覚がない。だから少々インモラルなことをやったってお客はそんなに喜ばない。逆に受けるためにインモラルなことにインフレが起きている。
アンモラルに行きついてもまだ先に行くしかないんでしょうね。そういういきづまった状態を観るのが好きなんですけど。【264】

瀬戸内は気候が温暖で,水も豊富。だからか人種も穏やかです。【265】

僕が子供の頃はまだ世間は戦後を引きずっていましたね。戦記物はあちこちの本でも漫画でも溢れてたし,『鉄人28号』も旧日本軍が作ったロボットの話だし。
『宇宙戦艦ヤマト』もたった1艦で敵本土に殴り込みをかけて,勝利してしまうという話だし。戦争に負けた口惜しさとかを,願望として出してたんですね。
それでいて,ヒューマニズムも訴えています。僕らが太平洋戦争を2次的に引きずる最後の世代じゃないですかね。【267】

(好きな漫画の話になった時に)『宮本から君へ』は読めなかったです。とにかく辛かったから。
『ワールドイズマイン』は全体的に人が死ぬことを当たり前にしている世界観がいいですね。犯人は普通の男の子でしたけど,その母親が自殺する件は突出して良かったのですごいと思いました。【268】

僕はヤケになった人が好きなんです。エヴァに関しては,「今,敵を探した時に結局自分にしかならない」っていう話です。今時世界征服もないですし。
自分も嫌い,他人も嫌い,でも他人もいないとねっていう,基本的にはシンプルな話なんですよ。【269】

ゴキブリコンビナートの芝居はマイフェイバリットです。初め,雑誌の記事でチラっと読んだだけだったんですが,なんか強烈に引っかかってました。
いきなり,行き詰ってる感じが良かったです。追い詰められ度数が高いというか,もうどうしようもない。という切羽詰まった感じがすごく心に響きました。
途中から近所の居酒屋で話をつづけたんです。そっちも面白かったんですがあまりにドメスティックな話題なので掲載されませんでした。【270】

(ダイアローグに関して)「絵が悪くても,脚本が良ければ救われるという,コストパフォーマンスの高さがある。幅広い観客をつかむためには,絵よりもダイアローグに気を遣う【271】

庵野監督は平野監督の『由美香』にはまるでかなわない。としきりに語っていたとのこと。【280】

【座談会】(SM嬢と漫画家と一緒に。全員お酒を飲んでいる)
(「ミサトと加持みたいな恋愛って実体験なんですか?ああいう経験が1回でもあれば恋愛にどん欲になれると思うんだけど」と聞かれて)
ハズなんだけどね…あぁ,でもセックスって最初から冷めてたなぁ。なるほど,男は夢中になるなって。【288】

愛がほしい。【288】

お金はないよりはあったほうがいいんだろうけど,製作費以外にはあまり興味ないなあ。使うのはスタッフ旅行か。みんなの働きでできた作品だから還元するの。エヴァとカレカノで蔵王に行ったし。【288】

体育はずっと成績2だったのがずっとコンプレックスだった。【289】

他にコンプレックスというとモテない,とか。中学ではまだモテたのかなあ。
高校も大学もモテなかった。エヴァ意向だよね,多少なりとも女性と話す機会が増えたのは。エヴァやってるときは女の人と話すことなかったもんな。
少女漫画を読むくらいしか,女性心理に触れることってなかったしなあ。何年間も。【289】

【あとがき】
どうもこの「文章」というモノが苦手です。つい,肩に力入るというか,妙に構えちゃってサクサクと気楽に書けない。この「あとがき」というのも,苦手です。
なんかこう,後ろ向きというか,ネガティブなイメージという感じがしてイカンです。すぐ言い訳になってしまいます。自分が書くと。【290】

最近も思うに,エヴァのTVシリーズが終わってからずっと,自分は迷走している気がします。何かをなくして,何かを求めてフラついてる感じです。
それは居場所なのか,表現手段なのか,主張みたいなものなのか,恋愛なのか,新たな自分自身なのか,まだ他の何かなのか,分かりません。【293】

最後にこの本の関係者にお礼を言って〆。

↑誤字ってるところはまた後日修正します。